障害により体が動かせなくなった富豪と、貧しい青年の交流を描いた、実話に基づくフランス映画です。
似たようなストーリーは数あれど、それぞれのお国柄があって面白いです。
アメリカ映画の完全エンターテイメントも好きですが、現実よりちょっとだけファンタジーなフランス映画もいいものです。
というわけで、この映画の感想を語っていきたいと思います。
「最後に出てくる海、いいよね~」という方も、「題名からしてイマイチ見る気がしなかったのよ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
『最強のふたり』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。
“彼は私に同情していない”
このセリフ、なかなかシビれませんか?
大富豪のフィリップは、障害のために体を動かすことはできませんが、身の回りの環境を最高に整えておくことのできる財力があります。
最高のマッサージに最高の薬。秘書や療法士にかしずかれ、フィリップは王様のようです。
もともとが富豪の家系なのでしょうね、支配者になれと育てられたそうです。
それでも、どんなにお金があっても、私なら体が動かない事実に凹んで病みそうなものですが、フィリップは元来、強い精神の持ち主なのでしょう。
ドリスという介護職などやったこともなければ興味もない、それどころか前科もある移民の青年を雇い入れるのです。
その理由が、「彼は私に同情していない」ですよ。
いやいや、同情……してもよくない?
お金があって最良の介護を受けられることは羨ましいですけど、やはり体をいっさい動かせないことは同情に値しますって。
例えば、椅子に座らされたとき、固定ベルトを忘れられて倒れそうになっても、咄嗟に手をつくこともできないのですよ?
車に乗るとき、扉を通るとき、うっかり指先を挟んでしまっても、介護者が気付いてくれなければそのままです。
痛みがないからといい、とかいう問題じゃありません。
そんな状況なら、同情からでもいいから、しっかりと神経を行き届かせて介護してくれる人がいいです。私なら。
ドリスは介護職ではないというだけでなく、一般的な、障害や介護に関する知識さえありません。
何も感じないフィリップの体に驚いて、驚くのはいいけれど、確かめるために、ドリスはフィリップの足に熱湯をかけるのですよ。
もう、このシーン、ゾッとします! 感じなくたって火傷はするんだよ! バ○!! と言いそうになりました(汗)
でも当の本人であるフィリップは、怒るどころか、その行為を「実験」と言ったりします。
神経疑いますね。フィリップも、ドリスも。
ああ、でも、出掛けるとき、車椅子の積める車をドリスが嫌がる理由は、ちょっと良かった。
車椅子に乗ったフィリップを、バンの荷台に乗せるのですが、それが荷物のようで嫌だと言うのです。
まあ、隣に置いてあったスポーツカーに乗りたかっただけかもしれませんが。
ドリスはフィリップを助手席に乗せ、スポーツカーのエンジンを掛けます。
エンジン音に大喜びのドリスに、それを笑って見ているフィリップ。
うん、確かに、すべてが障害者仕様の生活には息が詰まるかしれませんね。
気晴らしをしたくても、それさえ、誰かの手を借りなければならない。
だとしたら、その誰かが、自分に無頓着でいてくれたほうが、ずっと気楽なのかもしれないなあ。
それでも、同情はいらないと言える強さは、すごいことだなと思いますけどね。
ファンタジーな優しい世界
ウィキペディアによると、この映画はコメディに分類されています。
でも、コメディというよりは、ファンタジー寄りだと私は思います。
ドリスという異分子がやってきたことで、フィリップの家では、良い方向に変化が起きていきます。
フィリップはもちろんですが、フィリップの娘も、ドリスのおかげで変わります。
彼女にガツンと言える使用人はいませんでしたし、父親のフィリップは娘に無関心になっていたのかな?
でも、ドリスに「娘をしつける許可をくれ!」と言われて、目が覚めるフィリップ。
また、フィリップの家の、使用人同士のキューピッドにもなるドリスでした。
なんだかね、フィリップの家にいる間のドリスは、天使のような存在だなぁと思えました。
しかし、この乱暴すぎる天使・ドリスは、なかなかに過酷な人生を生きています。
移民の家庭に育ったドリスには、貧困から這い上がる術もなく、事実、フィリップのところに来たとき、彼の目的は仕事ではなく、失業保険をもらうことでした。
この映画、シリアスなものにしたければ、いくらでもできる映画だと思います。
でも、そうしていない。
重度の障害者であるフィリップには、「同情はいらない」と言わせますし、介護人のドリスは同情どころか、障害をからかったりします。
介護の知識以前に、一般的な常識もないドリスです。
ですが、属する世界のまったく違う2人が、奇跡的にうまく作用していきます。
ある出来事をきっかけに、フィリップはドリスを解雇しますが、ドリスの不在などでフィリップは荒れてしまいます。
荒れるフィリップを心配して、彼の助手がドリスを呼び戻します。
ドリスはフィリップを車で連れ出すのですが、深夜のカーチェイスからの田舎の景色やブルーグレイの海に、このお話が大団円で終わる予感がします。
フィリップの守護天使のようなドリスは、彼のために素敵な結末を用意しているのでした。
「こんなの映画の中だけ」という声もあるでしょうが、この話は実話を基にしていて、フィリップも、ドリスのモデルになった人も、ちゃんと幸せになったようですよ。
ドリスの良かった点は、心に何重にも鎧をまとい、守るものがたくさんあるフィリップたち富裕層に比べ、失うものもなく常識に縛られることもなく、生来明るい性格だった、というところでしょうか。
映画の中には、どうにもならない格差や貧困が垣間見えるのですが、フィリップの強さとドリスの明るさで、優しい映画に仕上がっているのだな~と思うのです。
映画情報
製作国/フランス
監 督/エリック・トレダノ
出 演/フランソワ・クリュゼ/オマール・シー
日本での公開は2012年です。
日本で公開されたフランス映画では、観客動員数などで歴代1位のヒット作だそうです。
ハリウッドで作られたリメイク版もあり、日本以外でも人気の映画なのですね。
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