この映画は、ある女性料理人のお話です。
当然、料理人の世界が描かれているわけですが、働くすべての人が見て面白い映画です。
しかも、若い人より、長らく働いてきた人のほうにこそ染みる映画です。
つまり初老にはぴったりです(笑)
というわけで、この映画の感想を語っていきたいと思います。
「仕事は好きよ。でも働き続けることに疲れちゃったな~」という方や、「仕事で一番つらくなるのは、人との付き合いだよね~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
『大統領の料理人』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。
突然の出世が人生を変える
料理人のオルタンスは、なかなか野心的な女性です。
レストランを営む一方、フランス料理を習いたいという外国人のための学校を作ったり、意欲的な農家や畜産家とつながりがあったりします。
ですが、大統領専属の料理人になってほしいという話には、あまり乗り気ではなく、いったんは断ります。
しかし、フランスの役人ってグイグイ来ます。
オルタンスに断る権利はなさそうに見えました。
というわけで、彼女は大統領の料理人となったのですが、かなり雑な扱いを受けます。
大統領に会うこともできませんし、大統領の好みを聞くことさえできません。
え? フランスって美食の国じゃないの? と思いましたが、お国の仕事に携わる方々から見たら、一料理人にかかわっている暇はないという感じです。
食事? 食えりゃいいだろ! って雰囲気です。
そして、ラスボスは、主厨房のシェフですよ。
シェフが敵意を隠さないから、主厨房にいる全員がオルタンスに対してひどい態度です。
ほんと、嫉妬って醜いですね。
これね、オルタンスが男性でも嫌がらせをされたでしょうが、女性だったことで、さらにひどいことを言われます。
主厨房の料理人たちは陰で、オルタンスのことを「デュ・バリー夫人」と呼んでいました。
初老諸姉ならベルバラでご存じでしょうが(笑)、デュ・バリー夫人はルイ15世の愛人でした。
心の底から呆れます。いい大人が何を言っているのでしょうね。
腹は立ちますが、それでも日は昇るし、日は沈む。オルタンスは、とにかく、日々の仕事をこなさなければなりません。
大統領という1人の人のために作るのに、その人の好みも分からず、下げられてきた皿を見たり、給仕長に食事中の様子を聞いたり。
そして大統領から(ようやく!)会いたいと言われて、対面がかなうと、大統領は予定時間の10分を大幅に越えて、オルタンスと話し込みます。
大統領は子供時代、たくさんの料理本を読み漁っていたそうです。
自分の趣味にあう料理人と話すことは、それは楽しかったでしょう。
しかし大統領ともなると、スケジュールは分刻みです。
大統領の側近が大慌てで時間の調整に走り回る姿は、オルタンス目線で見ているために、ちょっと爽快ではありました。
でも、結局のところ、多勢に無勢です。
主厨房との対立もありますが、予算削減や、大統領の体調管理のために命じられた食事制限が、オルタンスを追い詰めます。
頼みの綱の大統領も、おおっぴらにオルタンスを庇うようなことはしません。
大統領に会いたいと言っても、秘書のような人に「大統領にはもっと重要な案件がある」と言われてしまいます。
ごもっとも。
ですが、料理人のオルタンスにとっては料理がすべて。
彼女の使命は、雇い主である大統領に「美味しい」と言ってもらえる料理を作ることです。
使命は遂行できず、彼女は身も心も疲れ果てます。
結果、職を辞し、南極の観測基地での仕事を手に入れ、極寒の地へと旅立つのでした。
怒濤のごとき諸行無常の先に何を見るのか?
「怒濤のごとき諸行無常」ってなんやねん? と思われた方、ほんと、すみません。
でも、オルタンスが官邸で過ごした日々を、私はそんなふうに感じてしまいました。
大統領を取り巻く人々にとって、料理人なんて取るに足りない、代わりはいくらでもいるものでしかなく、しかし注文だけはガンガンつけてくるし、オルタンスが従おうが従うまいが、事態は淡々と確実に進んでいきました。
たくさんの人がいる中で、すべての人にそれぞれの思惑があって、もちろんオルタンスの思惑や感情もその中にあり、昨日は勝ったけれど今日は負けてと、状況は目まぐるしく変わっていきます。
まともな人なら疲れちゃいますよね。
オルタンスもまた、心身ともにボロボロになったと言い、南極に逃げます。
オルタンスが去った後の官邸はどうなったのでしょう?
たぶん、どうもなっていないはずです。
何事もなかったかのように日々は過ぎ、料理は作られ、消費されたことでしょう。
南極に去ったオルタンスは?
彼女もまた、仕事をこなす日々を送りました。
極寒の僻地で何十人分もの食事を作る。しかも毎日、毎食。それはそれで大変な仕事ですよね。
でも、ここでは任期を全うします。
一年間、南極基地で働くことで、官邸で受けた傷を癒やしたというか、傷を南極の地に埋めることで、感情の折り合いをつけたようです。
良くも悪くも、物事はとどまることなく変化していくのですね。
オルタンスが立ち直れたようでよかった。
しかもですね、オルタンスはただ癒やしを求めて南極に来たわけではなく、次の目的のための出稼ぎにきていたことが分かります。
すごいなぁ、と、ただただ感心しました。
そうなんですよね。
諸行無常なんて言って、たそがれていても、現状は何も変わらない。
オルタンスはたそがれていたわけじゃないかもしれませんが、「疲れた」とは、彼女自身が大統領への手紙の中で言っていました。
それでも自分にとって何が大切なのかまで見失ったわけじゃなく、大切なものを大切にするために、次の行動を決めていたわけです。
南極基地を後にしたオルタンスは、船の上で一人、海を見つめます。
そのときの彼女の心中には、いろんな感情があったでしょう。
でも、彼女の表情を見るかぎり、トンネルからは抜け切ったのだろうな~と思える、ほろ苦い、だけど穏やかさを感じることができるラストなのでした。
映画情報
製作国/フランス
監 督/クリスチャン・ヴァンサン
出 演/カトリーヌ・フロ
日本での公開は2013年です。
ウィキペディアによると、この映画は伝記映画となっています。
実際に大統領の料理人を勤めた女性がモデルだそうです。
これはたくさんの真実を含んだ映画なのでしょうが、関係者の一人一人が、それぞれに真実と思うストーリーがあるのだろうなと思います。
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