映画『グラン・トリノ』ネタバレ感想 「あの男にできる最上のことをしたのさ」とお祖母さんは言っただろうか?

春巻 シネマ手帖・洋画
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クリント・イーストウッドらしい、マッチョな男の映画です。

イーストウッドと言えば“マッチョ”ですよね。

ですが、若い頃とは一味も二味も違うマッチョさです。

というわけで、映画『グラン・トリノ』の感想を語ってみたいと思います。

「若い頃より今のイーストウッド様のほうが好き~」という方も、「グラン・トリノってどんな意味?」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m

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『グラン・トリノ』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

ウォルト・コワルスキーは妻を亡くし一人暮らしとなった。子供たちはすでに独立して家庭を持ち、孫たちはウォルトから見れば宇宙人のように話が通じない。近所の家は東洋人ばかりが住み着き、近所づきあいもできない。それどころか、隣家の息子であるタオが、ウォルトの大切にしている車グラン・トリノを盗むために侵入。しかしウォルトに見つかり盗みは未遂に終わった。

「あの男にできる最上のことをしたのさ」とお祖母さんは言っただろうか?

イーストウッド演じるウォルト・コワルスキーは、隣家の姉弟を助けるため、最後に命を落とします。

しょっぱなから盛大なネタバレで申し訳ないです。

ですが、この結末を見て、それはそれはモヤモヤしてしまったのです。

なんで? もっと別の方法あったんじゃない? と思ったのです。

まずは、なぜウォルトが隣家の姉弟とかかわるようになったのかというと、きっかけは、弟のタオがウォルトの家に盗みに入ったからなのですね。

ウォルトの家の隣には、モン族のロー一家が住んでいます。これがタオの家です。家族構成は祖母・母・姉のスーに、弟のタオ。

モン族とは、アジアに分布して暮らしている山岳民族の一つです。タオ達はかつて住んでいた土地を追われてアメリカに来ました。

一族で住処(すみか)を追われたせいか、コワルスキー家のお隣だけでなく、ご近所にはモン族が多く住んでいます。

そして、ご近所の家々はけっこうな荒れ具合です。モン族は家の外観にあまり興味を持たない民族のようです。

もしくは外観にお金をかける余裕がない。もしくは、その両方。

片や、家の入口に星条旗を掲げ、芝生の手入れを怠らない古き良きアメリカ人のウォルトは、そんなご近所連中がまったくもって気に入りません。

お隣さんに面と向かって罵声を浴びせたりもします。

そんなウォルトが、タオには仕事の世話をし、姉のスーが彼らの従兄弟であるフォンに暴行を受けると、タオとスーに代わり復讐を果たします。

なぜか? 出会いはタオの“盗み”という最悪なきっかけではありましたが、そこから交流が生まれ、お互いに好意を持ったから。

ウォルトはスーを評して、なかなか良い子だと言いました。

タオにはいろいろ意見をしましたが、タオは反発しながらも、ウォルトの言葉に耳を傾けました。

そうなると、ウォルトとしてはタオが息子のように感じられたのかもしれません。

“息子のよう”ではなくとも、タオとスーのことは、実の息子より身近に感じていたはずです。

そんな2人の人生を、従兄弟のウォンがメチャクチャにしようとしていました。

タオは、ウォルトと一緒に、ウォンを○そうと考えました。

ウォルトもそうするつもりだと、私は思っていたのです。警察は当てにならないですし。

ここまで、ロー家はウォンから銃撃を受けたり、スーが痛めつけられたり、ウォルトの家は盗みにも入られているわけですが、誰も警察に届けていません。

こんなにも警察って信頼されていないのだと、アメリカの現状に驚きます。映画だから誇張されているというだけなら、いいのですが。

そんなわけで、ウォルトが自ら、クズでク○野郎のウォンたちを始末すると思ったのです。

幸いというか、ウォルトは白人で、ウォンは移民です。差別主義が役に立つこともあるのです。

また、ご近所連中もウォンを疎ましく思っているわけで、警察にウォルトの名前を告げ口する人もいないでしょう。

しかも、前々からウォルトに懺悔をすすめにくる神父さんがいるのですが、彼は「自分がウォルトなら、タオと一緒に仇を取りにいく」と言ったのですよ。

私は神父さんが、嘘でもウォルトのアリバイを証言してくれると思っていたのに、いざウォルトがウォンのところへ行こうとすると、彼を引き止めようとしたのです。

なんで? 「もし自分がウォルトならヤっちゃうよ」って言ったよね?

この神父さんの言動は、私にはちょっと不可解でした。

で、ウォルトはタオを残して、1人でウォンのもとへ行き、なんとウォンとその仲間たちに撃ち○されてしまいます。

ウォルトは武器を持たずに行ったのです。丸腰でした。最初からウォンに自分を○させるつもりだったのです。

結果として、ウォンとその仲間たちは長期間刑務所行きになるだろうとのことでした。

タオとスーの人生は、ウォルトによって救われたのです。

「ウォルトが自分の命を犠牲にする必要あった!?」と思いったのですよね、私。最初は。

でも、ウォルトは何かしらの病気で、たぶん余命わずかだった。そのことを本人も分かっていた。

自分でケリをつけられるうちに、スーとタオの人生を守りきる必要があった。

だから、自分を犠牲にして、短期決戦でケリをつけようと決めた。その通りに実行した。

結果は両方向、円満に片づきました。

スーが救われたのはもちろん、タオもウォルトも犯罪者にならなくて済んだのです。

おかげで残れた家族が、犯罪者の家族と言われることもありません。

スーとタオ、彼らの母親、町の人達がウォルトの葬儀に参列しました。神父の演説も素晴らしかった。

でもタオたちの祖母は葬式に出ませんでした。いつものように、玄関のポーチに座っていました。

このお祖母さん、ウォルトを嫌っていて、そのことを隠そうともしていませんでした。

ウォルトは彼女の孫たちのために命を捨てたのですが、お祖母さんに自分の考え方を変える気はないのです。ある意味、ウォルトに一番近い人です。

彼女はただ、「あの男は自分のやるべきことをやったのさ」なんて考えているのだろうかと想像すると、ウォルトの下した決断はまちがっていなかったのかもな~と思えてくるのでした。

拍子抜けだった懺悔

海沿いの道

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この映画はなかなかヒネくれた作りになっております。

ウォルトがなにか重荷を背負って生きているということは、見ている人にもなんとなく分かるのですが、朝鮮戦争に出征していた彼なら、それは当然戦場での記憶だと思うじゃないですか。

ウォルトも、戦場での記憶は死ぬまで忘れないと、神父さんに語っています。しかし懺悔には行こうとしません。

ウォルトの妻は信心深い人で、夫が懺悔に行かないことを気にしていました。

ですから、ウォルトのところに神父さんが頻繁に来て懺悔をすすめるのは、妻の遺言でもあるのです。

神父さんもまた、ウォルトは戦場で犯した罪に苦しんでいるのだと思っていました。

ウォンのところに向かう前、死を覚悟したウォルトは、教会に来て懺悔を行いました。

それは税金のごまかしだったり、妻に隠れての浮気とも言えない行為だったり、最大の懺悔は、息子たちとうまく関係を築けなかったということでした。

思わず、「それだけ!?」と言ってしまった神父さんですが、これは映画を見ている人達全員が思ったのではないでしょうか。私もそうでした。

でもね、マッチョなウォルトは、戦場での記憶をすべて呑み込んでしまっているのです。

戦場でのことは死ぬまで忘れないと、ウォルトは最初から言っていました。

懺悔して気持ちを楽にしようなんて、さらさら思ってなかったのですよ。かっこいい~。

というわけで、神父さんには肩すかしな懺悔だったし、見る人の期待を裏切るストーリーは得だったのか損だったのか分かりませんが、ウォルトという人間像は見えました。

人生への幕引きも、彼らしいと言っていいと思うけど、潔いです。

なにもかも自分で手配を済まし、柩に横たわるときに着るスーツまで用意していたのです。

遺言も完璧で、ウォルトの大切な愛車グラン・トリノは彼の孫に台無しにされることなく、タオに遺されました。

車に詳しくない私は、「グラン・トリノってなんだ?」と思いましたし、私と同様に感じた諸姉も多いかと思います。

グラン・トリノとはフォード社から1970年代に販売された車です。

フォードに長年勤めていたウォルトにとって、自分でステアリングの何かしらも取り付けたグラン・トリノは、愛着なんて言葉では足りない思い入れがあったはずです。

それをタオに譲ったのですよ。さっぱりと。

ウォルトの死に方は「!?」となりましたが、悪くない終わり方だな~と、最後にグラン・トリノでドライブするタオを見ていて思うのでした。

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映画情報

製作年/2008年
製作国/アメリカ
監 督/クリント・イーストウッド
出 演/クリント・イーストウッド/ビー・ヴァン/アーニー・ハー

日本での公開は2009年です。

アメリカ映画を見ていると、日本車が出てくることがけっこうありますね。

だいたい、この映画のように、世代間の断絶に持ち出されたりするから、日本人の私としては見ていてなかなかに複雑な感情になったりします。

皆様はいかがですか?

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