映画『グランド・ブダペスト・ホテル』ネタバレ感想 冒険活劇とコメディをサンドして探偵小説でデコレーションした映画

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探偵小説風味の冒険活劇コメディ映画です。

なんのこっちゃと思われた方のために、『グランド・ブダペスト・ホテル』の感想を語ってみたいと思います。

「題名からだと何の映画か分からなくて~」という方も、「好きな俳優ばかり出てるから思わず見ちゃった~」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただし、ネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m

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『グランド・ブダペスト・ホテル』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

ズブロフカ共和国の国民的作家が遺した小説、『グランド・ブダペスト・ホテル』。この小説は、作家が若き日にグランド・ブダペスト・ホテルに滞在中、ホテルのオーナーであるゼロ・ムスタファ氏から語られた物語である。それは当時まだロビー・ボーイであったゼロ・ムスタファと、初代コンシェルジュであったグスタヴ・Hの物語でもあった。

冒険活劇とコメディをサンドして探偵小説でデコレーションした映画

もし、子供の頃、ポワロやホームズの探偵小説にはまったことがある人なら、この映画の始まり方には胸がワクワクするかもしれません。

というか、私がワクワクしたのですけどね。

私は、ホームズの小説には小学生の頃、某テレビ局の『名探偵ポワロ』には十代後半にハマりました。

『グランド・ブダペスト・ホテル』は探偵が主人公ではないのですが、始まりは古き良き時代の探偵小説を思わせます。

映画の語り部は“作家”で、彼の独白から物語が始まるのです。

『シャーロック・ホームズ』がワトソン先生の語りで進む形式ですから、そこらへんから懐かしさを感じるのかな~、なんて思いました。

語り部の作家さん、名前が紹介されていないので、作家氏と呼ぶことにします。

作家氏はまだ若かった1968年に、作家病の保養のため、グランド・ブダペスト・ホテルに滞在していました。

作家病とは、まあ、平たく言ったらスランプなのかなと思います。

1968年のグランド・ブダペスト・ホテルは、そんな神経衰弱に陥った人に、打って付けの場所でした。

人里から遠く離れていて、寂れていて、宿泊客は少なく、客たちは皆お互いに干渉しません。

そんなグランド・ブダペスト・ホテルですが、かつては豪華なホテルで、宿泊客も華やかなセレブたちばかりでした。

作家氏はのちに、と言ってもすぐ後にですが、ホテルのオーナーであるムスタファ氏と知り合い、栄華を誇った頃のグランド・ブダペスト・ホテルについて聞くことになります。

寂れた姿もデカダンな香りが漂って素敵ですが、全盛期の姿こそ至高です。

というか、この映画のビジュアルは、全編通してアーティスティックです。

どこまでがセットで、どこまでが絵か、それとも合成なのか分かりませんが、とにかく見てくれにも「命かけてます!」感が半端ないです。

そして、まるで舞台で演じられる芝居のように、登場人物の心理に呼応して、照明を暗くしたり明るくしたりします。これも現実から離れていくようで、ワクワクするのですよ。

そこから映画の主役は若き日のゼロ・ムスタファ氏と、彼の師匠である初代コンシェルジュのグスタヴ氏へと移ります。

時代は1932年、グランド・ブダペスト・ホテルは高級ホテルとして名を馳せ、ホテルが栄えた理由の一つが初代コンシェルジュであるグスタヴ氏の存在でした。

最初は仕事ができるだけの人かと思って見ていると、これがなかなか癖のある人物で、胡散臭いというか怪しげでもあります。

でも憎めない。

ホテルに来る大金持ちの老女たちとベッドを共にし、これが他の人なら「うげぇ~」となるところですが、グスタヴ氏ですと、ぎりぎりのところで回避できます。

なんでだろ? 悪気がないから? 恥だと思っていないから?

まあ、とにかく、そんな人です。

そんな人が、伯爵夫人・マダムDの遺産相続に巻き込まれて刑務所にブチこまれたり、私立探偵という名の○し屋に狙われたりもします。

ですが、刑務所からは脱獄しますし、○し屋も返り討ちにしてしまいます。

いや応なしに騒動へ巻き込まれたゼロも大活躍です。

遺産騒動はグスタヴとゼロにとっては大団円で終わるのですが、グスタヴ氏は遺産騒動とは無関係のところで、あっけなく命を落とします。

そしてゼロの恋人にして妻、最愛のアガサと彼らの息子も、結婚後2年でこの世を去ります。

今なら簡単に治せる病により、ゼロは妻と息子を失ったのです。

ゼロ・ムスタファ氏の打ち明け話は終わり、ムスタファ氏と作家氏はそれぞれの場所へと帰っていきます。

このシーンで、不思議な懐かしさが胸を占めます。

この懐かしさはなんだろうと考えてみるに、なくなってしまった世界への郷愁ではなかろうかと思います。

ムスタファ氏が話してくれたものは、なくなってしまった世界についてであり、初老となった私もまたなくなった世界を持っていて、だからこそムスタファ氏に共鳴してしまうのかな~、なんて思います。

中盤の冒険活劇やコメディはどこへやら、最後はまた探偵小説風味のほろ苦い感傷にひたって終わるのでした。

アガサとは? ついつい深読みしてしまう

白いチューリップ

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映画の舞台となっているズブロフカ共和国は架空の国ですが、歴史に詳しい人が見れば、「ああ、あの国がモデルね」と分かるのかもしれません。

知識のない私には、この人達は鉤十字をつけた人達のパロディなのかな~などと思うくらいです。

ですが、そんな仕掛けがたくさんあって、見る人が見たら、何重にも楽しめるのだと思います。

そう思って見ていたせいで、なんでもかんでも隠れた意味があるような気がして、例えば、ゼロの恋人であり後の妻であるアガサは、(もしやポワロを書いたアガサ・クリスティに敬意を払って付けた名前なの?)なんて、勝手に想像したりして。

また、マダムDが集めていた絵画をめぐっても、深読みしてしまったり。

グスタヴ氏はマダムDから『少年と林檎』という絵画を相続しました。

マダムDは根っからの貴族らしく芸術に対する理解があって、たくさんの絵画を集めていたようです。

グスタヴ氏は高額と分かっている『少年と林檎』は絶賛していましたが、『少年と林檎』と同じ部屋にある他の絵画のことをクズだと吐き捨てていました。

そこにはエゴン・シーレ風の絵や、クリムト風の絵があったにもかかわらずです。

マダムDの息子で悪党のドミトリーも、エゴン・シーレ風の絵を叩き壊していたのですよね。

それらを見て、ドミトリーはもちろんグスタヴ氏も、消えゆく時代の象徴なのかな~とか、単に監督が印象派やら分離派やら、その辺りに派生した芸術なんて「くそくらえ」と言いたいのかな~、なんて考えたり。

きりがないですが、そんなことを考えていると楽しかった。

そして、この映画の出演陣がかなり豪華です。楽しい!

あまり俳優さんを知らない私でも知っているほどの俳優さんが、「え? この人、どこに出てた?」というほど、ちょい役で出ています。

ビル・マーレイの名前があったのに、どこに出ていたのか思い出せず、見直してようやく分かったという……。

伯爵夫人のマダムDは、もう可愛くて可愛くて。でも、知らない役者さんだと思っていたら、ナルニア国の白い魔女だった。

しっかりおばあちゃんになっていたので、全然分かりませんでした……。

グスタヴ氏のムショ仲間には『レッド・ドラゴン』でFBI捜査官、『テルマ&ルイーズ』で警部役をしていたハーヴェイ・カイテル。

『テルマ&ルイーズ』での彼、好きだったんですよ~。コロンボを渋くしたような役柄で。

あ、私立探偵役のウィレム・デフォーはしっかり分かりました! まあ、あれだけはっきり顔が出てれば分かるか……。出番も多いですしね。

どんな役でも素敵だわ~、デフォー様。

このようにですね、『グランド・ブダペスト・ホテル』という映画には、面白い仕掛けがたくさん詰め込めています。

「こんなところに、こんな役者さんが!」という驚きもあれば、「これは風刺なの?」という部分もあれば、コミック的に戯画化した表現もあって、まるで、ゼロの妻だったアガサが作る、シュークリームをつくねたケーキのように美しくもユニークという映画なのでした。

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映画情報

製作年/2014年
製作国/アメリカ・ドイツ
監 督/ウェス・アンダーソン
出 演/レイフ・ファインズ/トニー・レヴォロリ

日本での公開も2014年です。

出演者は錚々たるメンバーですが書き切れないので主役のみで終わらせました。

マダムDの息子・ドミトリー役は映画『戦場のピアニスト』の人で、役柄が全然違うのでアレですが、こちらの悪党役の方が似合ってる。

こっちの方が好きだわ~。

 

↓ビル・マーレイが出ていた映画の感想です。こちらも合わせて読んでいただけますと幸いです。

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