映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ネタバレ感想 浮遊する贅沢を味わう

色のない海 シネマ手帖・洋画
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言わずと知れた、ジム・ジャームッシュ監督の代表作です。

また、サブカルの代表ともいえる映画です。

私としましては、コアなファンがついている映画という印象を持っております。

というわけで、初老から見た、サブカル代表『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の感想を語ってみたいと思います。

ただし、ネタバレ・あらすじを含みます

それでもOKという方は、ぜひ、最後までお付き合いください。

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『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。

ニューヨークに暮らすハンガリー出身のウィリーは、ある日、クリーブランドに暮らす叔母が10日間入院するため、その間、ブダペストからやってくるウィリーの従姉妹・エヴァを預かってほしいと頼まれる。嫌々引き受けるウィリーと、愛想のないエヴァは、当然のように親しめない。しかし滞在期間が終わる頃には、ウィリーの友達・エディも含め、打ち解けあっていた。
一年後、いかさまポーカーで大儲けしたウィリーとエディは、車でクリーブランドのエヴァに会いに行く。3人は再会を喜んだが、クリーブランドは退屈だった。その後、ウィリーの思いつきで、3人はフロリダへと向かう。

若さの特権 浮遊する贅沢

3人とも、なんだか、とてもフワフワしているのですよ。

とはいえ、フワフワしていても生きていける、良家の子女じゃありません。

ウィリーはハンガリーからアメリカにやってきて、ギャンブルで生計を立てています。

エディは生粋のアメリカ人ですが、ウィリーとつるんでいるくらいですから、どんな生活かはお察しです。

エヴァはアメリカに来たばかりで、もちろん仕事はなし。

いわゆる底辺です。

ですが、悲壮感はゼロ。

まだ共産圏であったはずのハンガリーからやってきたエヴァには、けっこう深刻な事情があると思うのですけどね。

ウィリーはそんなエヴァを気遣いもしないし、エヴァはエヴァで飄々(ひょうひょう)としています。

だんだんと打ち解けるウィリーとエヴァですが、中身のある会話はゼロ。

これはウィリーと、エディとの間にも言えることです。

エディは仕事仲間兼、友人といった関係ですが、ウィリーとエディが二人でいて、競馬の話はしても、とくに意味のあることは話していません。

なんとなく一緒にいる感じ。

そして、なんとなく時間が流れている。

フワフワしてんな~と思います。

エヴァがクリーブランドへ行ってしまった後も、ウィリーとエディの生活は変わりません。

そんなある日、二人は競馬といかさまポーカーで大儲けすると、ふらりとエヴァに会いに行きます。

エヴァのバイト先に行くと、客の振りをして、二人はエヴァを驚かせます。

このシーンの二人はとても可愛かった。いい大人なんですけど、子供みたいにはしゃぐのですよ。

エヴァも二人に会えて嬉しそうでした。

でも、すぐにウィリーとエディは退屈してしまう。

エヴァはといえば、もうとっくにクリーブランドに退屈しきっていました。

ウィリーとエディがニューヨークに帰ろうとするとき、エヴァは「大儲けしたら私をさらいに来て」と言います。

なので、ウィリーはすぐにUターンしてきて、エヴァを連れてフロリダへと向かいます。

向かう先をフロリダにしたのは、なんとなくのイメージだと思います。

暖かくて素敵なビーチがあるから行ってみるかって感じだったのでしょう。

そして、クリーブランドでもそうでしたけど、フロリダでも、たいしたことは起こりません。

なぜなら、ウィリーはどこにいても変わらないから。

フロリダに来ても、まずは競馬です。

エディに誘われて、競馬ではなくドッグレースに行きますが、違いは馬と犬というだけ。

そして、ドッグレースに行ったウィリーとエディは大負けします。ウィリーは怒り狂って、二人に八つ当たり。すぐに謝罪しましたけどね。

その後、ようやく観光らしく海へ向かいますが、3人は会話もなく海岸をうろうろ。

ウィリーは機嫌が悪そうで、エヴァとエディはやれやれという感じ。

そして、暖かいフロリダの海は、凍ったクリーブランドの湖と同じにしか見えません。

画面がモノクロなのでそう見えるのですが、これってたぶん、3人の心象風景ってことなのかな。

どこにいっても同じ風景で色がない。

じゃあ、3人の心の中が殺伐としているかというと、そうでもない。

意味のない会話や、視線だけのやりとりが、なんとなく温かい。

フラフラとさまよい、さまよいながらも変化がなく、かすかに温かな心の交流はある。

その日暮らしの今や、先のない未来への不安は、若い3人にとって、遠い場所で鳴っている雷みたいなものなのでしょう。

遠い場所の雷なんて、今は怖いとも思わない。

怖いという感覚をリアルに感じることもなく、仲間とただフラフラとさまよう贅沢。

これぞ若さの特権です。

この映画で、初老はうしなった特権を思い出しながら、懐かしんだり、羨んだりしてしまうのでした。

パラダイスはどこに? 奇妙な人は誰?

パラダイス

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この映画は3部構成になっていて、第1部が「ニューヨーク」、第2部が「一年後」、そして第3部が「パラダイス」です。

映画が第3部に入るとき、「パラダイス」と字幕が出ます。

ほほう。パラダイスか。観光地フロリダだしな、さぞかしパラダイスなのだろうと思いましたが、前述した通り、あまり代わり映えしません。

さらに、楽園より奇妙な存在は誰なの? という疑問もあります。

正直、ウィリーもエヴァもエディも奇妙といえば奇妙です。

ウィリーはエヴァが好きでも、それを表す方法を知りません。知らないことに疑問も抱かない。

また、自分が嬉しいときも、嬉しい! という表現も知りません。

エヴァに会いにクリーブランドへ行く道中、エディの名前を呼び続けたり、通りすがりの人に話しかけて気味悪がられたり。

いや、素直に「嬉しいな」「楽しみだな」って言えよ! と思ってしまいました。

そんなウィリーしか友達がいないという時点で、エディも変わっています。

エヴァも、共産圏から、せっかく自由の国に来たというのに、嬉しそうでもないし、何かしたいという感じもない。

で、3人でフラフラしている。

しかしです、映画のラストで、3人はバラバラになってしまいます。

ウィリーはエヴァがブダペスト行きの飛行機に乗り込んだと勘違いし、自分がブダペストへ行くはめになります。

悲しみながら、エディは車で去っていき、エヴァはなぜか、3人で泊まっていたモーテルへと戻ってくる。

私の勝手な想像ですけど、この3人は、もう二度と会うことがないのではなかろうか。

そうなると、この映画で言うところのパラダイスとは、3人で、凍った湖やフロリダの海岸で過ごした、無為で温かな時間のことなのかな~と、初老の私は思うのでした。

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映画情報

製作年/1984年
製作国/アメリカ・西ドイツ
監 督/ジム・ジャームッシュ
出 演/ジョン・ルーリー/エスター・バリント/リチャード・エドソン

日本での初公開年は1986年です。

この映画を見ていて、なぜかフェリーニ監督を思い出しました。

今回U-NEXTで『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を見たのですが、映画を見終わった後に出てくるオススメに、フェリーニ監督の『8 1/2』が入っていました。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』が気に入った人は、フェリーニ監督の映画も見てみると、お気に入りが増えるかもしれませんね。

増えなくても責任は持ちませんけどねm(._.)m

 

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