映画『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』ネタバレ感想 生き続けることの難しさ

屋上菜園 シネマ手帖・洋画
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年を取ることの難しさを感じる映画です。

もし、私がずっと若い頃にこの映画を見ていたら、まったく別の感想だったと思います。

老いても恋人同士のままの2人が素敵~、ですとか。

ですが初老になると、この映画はいろいろ考えさせられるのですよ。

というわけで、『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』の感想を語ってみたいと思います。

「私も見た」という方も、「この映画、知らなかった!」という方も、よかったらお付き合いください。

ただし、ネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願いいたしますm(._.)m

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『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。

ルースとアレックスは40年暮らしたアパートメントを売りに出そうとしていた。理由はアパートにエレベーターがないこと。部屋は5階にあり、画家であるアレックスは眺めのいい部屋を気に入っていたが、ルースは老いていく夫の体を心配していた。部屋を売るための内覧会ではクセのある人たちが押し寄せ、夫婦は混乱ぎみ。しかも運悪く、近くでテロ事件(?)が起こり、家の値段を左右してしまう。家の住み替えを通して、ルースとアレックスの思いは過去と未来を行き来する。

生き続けることの難しさ

人は年を取ります。

当然です。誰もが知ってます。

年を取れば体力が衰えることも、収入が少なくなることも知っています。

しかしですよ、20代の頃に、常に80歳の自分を想定しながら暮らしていくことはできません。

知っているということと、実行できるということは違いますし、それにやっぱり“今”が大切ってこともあります。

ルースとアレックスの暮らす部屋は5階にあります。

アパートを購入した日、ルースはアレックスに“お姫様抱っこ”をされて部屋に入りました。

その日のルースは、40年後に年をとったアレックスを心配して、アパートを売る決心をする自分を想像もできなかったはずです。

もし今、若い人がこれを読んでいたとしたら、「だからなんなの? 住み替えればすむ話でしょ?」と、思うのではないでしょうか。

うん。そうなんですよ。それだけの話なのです。

でも、年を取ると、“それだけ”じゃなくなるのですよ。

「ああ、あれね。40年間の思い出ってやつね」と思ったとしたら、まあ、もちろん、それも正解。

家を売るとなって、ルースの姪で不動産屋のリリーが張り切きる中、ルースもアレックスも、思い出にひたる瞬間があります。

素敵な思い出もあれば、嫌な思い出もある。それでも、夫婦2人の思い出が詰まった部屋です。

でもですね、思い出だけでもないのですよ。

この思い、この感じ方をどう伝えたらいいのか。自分でも年を取って、初めて分かった感覚なんです。

この斜陽感をなんと言えばいいのか……。

あ、そうそう。経済的な先細りも、斜陽感に影響していますね。

結局お金!? と言うなかれ。

夢も希望もありませんが、お金の話は避けて通れません。

ルースは元教師ですし、アレックスも今は売れなくなったとはいえ、売れた時期もあった画家です。

子供はいないし、それなりに蓄えはあるし、たぶん年金もあるはずだし、何もなければやっていけそうです。

でも、まあだいたい、何もなければいいのにと思う時に限って、何かが起こるものなんですけどね。

内覧会の前日、2人が子供のように可愛がっているドロシーという飼い犬が、ヘルニアで入院してしまいます。

検査のためのCTだけで1,000ドルです。つまり10万円超えです。恐ろしい……。

もちろん手術代は別ですよ。金額はもう一桁はね上がります。

アレックスは最初から費用を気にして、ルースはそんなアレックスを軽く咎めます。ですが値段を聞いて、ルースも、やっぱりちょっと引いていました。

最終的には、アレックスがドクターに対して、お金は気にせず最善を尽くしてほしいと伝えます。

アレックスの考えは紆余曲折あって、お金でなく、ドロシーの命を取ります。

そして紆余曲折ありの、ジェットコースターのような数日を経て、アレックスは家を売らないという結論にもたどり着くのです。

それが正しい選択なのかは分かりません。というか、これが最善という選択肢はないような気がします。

ルースは足腰が弱っていく夫のために、エレベーター付きのアパートに越そうとしますが、夫のメンタルはそれで救われるのでしょうか。

したくもない引っ越しをすることで、急激に心が弱るということはないのでしょうか?

人は誰でも老いるし、誰もがそれを知っています。

でも、上手に老いていくことはとても難しいなあと、この映画を見ていると考えてしまうのです。

問題は依然そこにある たぶん天に召されるまで

ブルックリン橋

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眺めのいい部屋を売らないことにした2人ですが、問題は依然残ったままです。

階段を登れなくなる日が、いつか来ます。

だから映画のラストに、アレックスも「いつかは家を手放す」と言っています。

いつかは手放すけれど、今はまだこの家にいたいと。

うん。私はいつまでも、その部屋と運命を共にしたらいいと思うのですが、どうでしょうかね。

このへん、まだ初老で老い切っていない私は、アレックスより楽観的なのかもしれません。

この家で天寿をまっとうすると決めたら、なんとか、やりようがあるような気がします。

階段を上がれなくなったら、病院に入ればいい。

たとえ二度と家に戻れなくても、あの眺めいい部屋は自分の家としてあり、そこには愛する妻(夫)がいると思うだけで、心の支えになるかもしれない。

「簡単に言うけど、現実は厳しいよ!」と言われればそうですが、人間その気になれば、やりようはあるのかなと。

だいたい、エレベーター付きの部屋に引っ越したところで、別の問題が起きないとも限りません。

それに、アレックスたちが内覧に行った部屋で、アレックスたちのアパート以上にいい部屋はありませんでした。

アレックスは、契約しようとした家の窓から外を眺めながら、“眺め”は若い人にこそ必要で、自分はもう見つくしたと考えます。

とはいえ、実際、大好きな景色のない生活になったら、アレックスの気力はしぼんでいくのではないかと思うのです。

現実問題として足腰が弱ってくる。

でも現実だけを優先していると心が弱ってくる。

どちらも無視することはできないし、どちらを優先しても問題は出てきます。

これ、実際に年を取ってみないと、正解は分からないですよね。

少なくとも、大好きな家を売らないことにしたアレックスは、今現在満足しています。

先々への不安はありますが、それは胸にしまっている彼です。

映画の最後に、アレックスとルースが窓の外を眺めながらコーヒーを飲むシーンがあります。

いいシーンなんですよ。ルースがアレックスに寄り添って、雨降って地固まるって感じかな?

でも、束の間、アレックスは厳しい表情を見せるのですよね。

隣に並んでいるルースには見えない表情です。

私はそれを見て、アレックスは覚悟を決めたんじゃないかなと思いました。

何があっても受け止めるって。

いや~、いい映画でした。

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映画情報

製作年/2014年
製作国/アメリカ
監 督/リチャード・ロンクレイン
出 演/モーガン・フリーマン/ダイアン・キートン

日本での公開年は2016年です。

家の売却にまつわるストーリーでしたが、身につまされる初老の方も多いのでは?

映画で羨ましいのは、アレックスたちのアパートは価値が値上がりしていること。

そして買う側が新築にこだわっていないこと。

お国の事情があるからなのでしょうが、中古物件の売買がほとんどだというアメリカがちょっと羨ましいです。

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