映画『ミリオンダラー・ベイビー』ネタバレ感想 ボクサーはマ○である、イーストウッドもまた○ゾである

勝者 シネマ手帖・洋画
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クリント・イーストウッドが、監督兼主演のヒューマンドラマです。

監督は輝かしい経歴を持つ大スター。

主人公は貧しい女性ボクサー。

ときたら、「ハッピーエンドの成功物語でしょう!」と思って見始めたのですが、想像はみごとに覆されました。

というわけで、この映画の感想を語ってみたいと思います。

「この映画、余韻は悪くないんだよな~」という方も、「イーストウッドがマ○って本当!?」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m

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映画『ミリオンダラー・ベイビー』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

ボクシング・ジムを営むフランキーは、ある日、31歳のマギーという女性からトレーナーになってほしいと頼まれる。女性ボクサーなど眼中にないフランキーは、取りつく島もなく断る。しかし、友人であり、仕事仲間であるスクラップのすすめや、手塩にかけたボクサーがあっさりと去って行ったことで、マギーを受け入れる心境となった。必死に食らいついてくるマギーに、フランキーは『モ・クシュラ』という名前までおくり、二人は快進撃を続ける。しかし、汚い手を使うことで有名なチャンピオンと対戦したことで、二人の人生は大きく変わっていく。

ボクサーはマ○である、イーストウッドもまた○ゾである

ボクシングファンの皆様。イーストウッドファンの皆様。失礼なことを言ってしまい、大変申し訳ございません。

特にイーストウッドファンの皆様は、「なんでやねん!?」と半ばキレておられるかもしれません。

ですが、聞いていただきたい。

この映画、主人公であるマギーの成功物語に仕立ててしまえば、実に後味のよい映画になると思うのです。

それを敢えてしなかったイーストウッド監督は、なにを考えているのでしょうか?

原作があるらしいので、原作に忠実にということなのかもしれませんが、ならば、なぜこの原作を選んだ?

どこまでが監督で、どこまでが脚本家、どこまでが制作サイドの意向なのか分かりませんが、すべては監督の責任として語らせていただきます。

マギーのトレーナー役であるフランキー(イートスウッド)には娘がいますが、彼は娘から完全に拒絶されています。

手紙を出しても受け取り拒否で戻ってきます。

足繁く教会へ通っているのに、神父にも嫌われています。

何人ものチャンピオンを育てあげてきましたが、ジムの経営はどん底。

もうすぐタイトル戦に挑戦できるという選手は、フランキーの元から去っていきました。

慎重派のフランキーがなかなかタイトル戦をやらせてくれないので、しびれを切らしたのです。

フランキーには、そうしてしかるべき理由があるのですから、それを説明したらいいのです。しかし、しない。

俺の方法が正しい。俺の言うことを黙って聞けって感じでしょうか。

友達であり、フランキーのジムで働くスクラップも忠告しますが、まあ聞くわけありません。

そして、そこにやってくるマギーもまた、頑固で不幸な女性です。

彼女は筋金入りの貧乏でした。

唯一マギーを愛してくれた父は早くに亡くなり、母は生活保護を受けてトレーラー暮らし。

妹も生活保護、しかも不正受給。弟は刑務所。

正直底辺です。でも、底辺を生きていても、真っ当な精神の持ち主たちなら、マギーも救われたでしょう。

後々、マギーはボクサーとして稼げるようになり、母親に家を買ってやれるまでになります。

立派な娘です。普通なら誇りに思うところです。

ですが、マギーの母親は性根が腐っていました。

家を買ったくれたマギーに、「余計なことをした」と言います。

「家なんて持っていたら、生活保護が受けられない!」ですって。

マギーは仕送りを増やすと言いますが、母の怒りは収まりません。

マギーがボクサーになったことも鼻で笑います。お笑い種なのだそうです。

このシーンね、本当に、母親役の役者さんに拍手を送りたい。

めちゃくちゃ憎々しいのですよ、このお母さん。

かわいそうなマギー。

彼女は、彼女自身のためにボクサーになったのだとは思いますが、そこには、家族に認めてもらいたいって思いも大いにあったと思います。

でも、母親から見たら、生活保護を不正受給している妹のほうが真っ当で、かわいい存在だったのでしょう。

妹は生活状況だけでなく、性根もまた母に似て、マギーを見下していました。

ボクサーとして成功しつつあったマギーは、家族からは敵視さえされているように見えました。

かわいそうな上に、孤独なマギー。

それはフランキーも、スクラップも同じでした。

スクラップの言葉に、「人は毎日死ぬ。床掃除や皿洗いをして」というのがあります。

確かに。でも、それを想像すると悲しすぎます。

だから人は、そんなことは考えないようにして、死には尊厳があるとかなんとか言うのですよ。

マギーもフランキーも、スクラップほどには達観できていなかった。

いや、マギーはしていたのかな?

苦しかったのはフランキー一人だったのかもしれません。

マギーはくっそ汚い手を使うチャンピオンと対戦し、結果、首から下が動かなくなってしまいます。

そして、フランキーに、自分の人生を終わらせてほしいと懇願します。

私なら、そんなお願いをされるだけで、心が折れそうですよ。

でも、フランキーは誠意あるトレーナーで、最終的にはマギーの頼みを受け入れるのです。

ほらね?

イーストウッド様、こんなにつらい役、なんで引き受けたの?

しかも監督まで。

だから、私は彼がマ○ではないかと言うのですよ。

ボクサーに関しては言わずもがなですが、ここでも、かつてボクサーであったスクラップの言葉を引用させていただきたい。

ボクシングには魔力があって、ボクサーたちは「限界を超えた苦痛に耐え、肋骨が折れ、腎臓が破裂し、網膜が剥離しても戦い続ける」のだそうです。

ほらほら~。

初老の私が子供の頃は、テレビのゴールデンタイムにボクシングを放映していて、人気もありました。

当時、拳一つで戦うボクサー達をかっこいいと思っておりましたが、リングに上がるまでの苦労を超えた苦労を思うと、ボクサーはやはり○ゾ…?などと考えてしまうのです。

モ・クシュラの笑顔がもっと見たい!

愛しき者

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「モ・クシュラ」とは、マギーが鼻の骨を折りながらも、試合を続けて勝利した瞬間に、フランキーが彼女に呼びかけた言葉です。

その後、マギーはヨーロッパを転戦するのですが、観客から「モ・クシュラ」と呼ばれ、愛されます。

それはゲール語というもので、マギーには意味が分かりませんでした。

最後の最後にフランキーは、言葉の意味は、「愛する人よ、お前は私の血」だと教えます。

二人が互いを互いに、父と娘に投影していることは分かっていましたが、フランキーがマギーを「モ・クシュラ」と呼んだ瞬間、マギーは娘以上のものになっていたのではないでしょうか。

血肉を分けた存在以上の、彼の心というか、精神を引き継いだ存在にまでなっていた。

言葉の意味を知ったマギーの笑顔は最高に美しかった。

でも、それは呼吸器を外すと分かっている前の笑顔で、あまりに切なすぎました。

なんでもっと、マギーの輝く笑顔をたくさん見せてくれなかったのか。

トレーラーハウスで暮らすしかなかった女の子が、試合のために世界を旅したこと。

試合の合間に、彼女の目に映った外国の風景がどんなものだったのか、それがどんなにマギーを喜ばせたのか、もっともっと見たかった。

マギーは自分の人生に満足していました。少なくとも悔いはないと言い切りました。

頑固者です、マギーは。

フランキーは自分以上の頑固者のために、つらい役回りをさせられます。

「モ・クシュラ」と呼んだ相手の人生を、自らの手で終わりにする。

そんなの、ただでさえつらいのに、孤独な老人にこの役は本当に荷が重すぎます。

でもね、フランキーもまた、頑固者なのですよ。

ハッピーエンドとは到底呼べないストーリーですし、マギーの輝かしいシーンをもっと見たかったという恨みはありますが、どんな結末であれ、自分の人生を自力で勝ち取った女性の姿は、不思議と後味が悪くないのでした。

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映画情報

製作年/2004年
製作国/アメリカ
監 督/クリント・イーストウッド
出 演/クリント・イーストウッド/ヒラリー・スワンク/モーガン・フリーマン

日本での公開は2005年です。

モーガン・フリーマン演じるスクラップにあまり触れられませんでしたが、この人の頑固っぷりもなかなかでした。

頑固であることに迷いなし!という感じの人を演じて、完璧すぎるフリーマン様。

というか、イーストウッドとフリーマンなんて贅沢すぎる!と思うのです。

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