映画『スピリッツ・オブ・ジ・エア』ネタバレ感想 “私”の、あるいは“誰か”の空想を映像にした映画

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空を飛ぶ夢を見ていた男のお話です。

現代の話ではありませんが、過去の話でもありません。

たぶん、ずっと未来のお話です。

そして「誰かの空想を映像にした映画」といえば、この映画を作った人の空想に決まっている、と思いますよね。

ですが、この映画、私の頭の中を映像化したのかもしれないです。

というわけで、映画『スピリッツ・オブ・ジ・エア』の感想を語ってみたいと思います。

「空を飛ぶ夢なんて、誰だって見たことあるよね」という方も、「そんな空想癖、私にはないわ」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m

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『スピリッツ・オブ・ジ・エア』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

荒野に2人で暮らす兄妹、フェリックスとベティ。兄のフェリックスは自分の作った飛行機でこの地から去ることを夢に見ている。妹のベティは、父の亡くなったこの地に強い執着を抱いている。そんな2人のもとに、ある日、スミスと名乗る逃亡者がやってきた。スミスは北へ向かうと言うが、北には垂直の山がそびえ、山の向こう側がどうなっているのかは誰も知らなかった。

“私”の、あるいは“誰か”の空想を映像にした映画

いやはや、不思議な映画です。

登場人物は3人だけ。荒野のド真ん中での話ですので、人だけでなく、建物もフェリックスたちの家しかありません。

映画の始まりは異世界感もありますが、錆だらけになったマルボロの看板が出てきたりするので、異世界ではなさそうです。

フェリックスとベティは、なぜ誰もいない荒野で暮らしているのか。2人はキリスト教徒の父親に連れてこられました。たぶん小さな子供の頃のことでしょう。

そして父親はすでに他界しています。父の他界後も、2人は荒野で暮らし続けていたのですね。

そこにやってきたのが、スミスという逃亡者です。字も読めず、食事のマナーも知らず、殺伐とした雰囲気をかもし出しています。

スミスは具体的に罪の内容を語りません。ただ、北に向かっているとだけ、フェリックスに話しました。

この“北”というのが、スミスにとっても、フェリックスにとっても、“希望”の象徴なのですね。

フェリックスたちの住む荒野の入口は南にしかなく、北には壁のように立ちはだかる山がそびえています。

垂直の山を登ることは不可能に近く、山を越えられたとしても、山の向う側がどうなっているのか、フェリックスでさえ知りません。

ですが若いフェリックスにとって、またフェリックスより若く、ついでに逃亡者であるスミスにとって、知らないということは、不安より希望をより強く感じられるのだと思います。

フェリックスは山を越える方法として、飛行機という乗り物を教え、それに乗って山を越えればいいと言います。

ただ、飛行機の現物はまだありません。フェリックスは飛行機を作ろうとしていたのですが、失敗続きなのです。彼が車椅子に乗って生活しているのも、それらの失敗が原因でした。

そんな現状なのに、スミスはフェリックスの提案を受け入れます。飛行機が面白いと思ったのか、他に方法がないと思ったのかは定かではありません。

逃亡者であるスミスは遅くとも5日後には出発したいと言い、フェリックスは本気を出します。

そこから2人の男は飛行機作りに没頭していくのですね。

この流れ、もうね、昔々の私の妄想が垂れ流されているのかと思いました。

そして思うのですが、かつての映画好き・小説好き・漫画好き少年少女なら、誰もいなくなった世界で自分がどうするかという妄想を抱いたことが、一度くらいはあったのではないでしょうか。

「あるある!」と思った方なら、これはあなたの妄想を映像にした映画なのです。

「誰もいなくなった世界」は「核戦争後の世界」や「終末を迎えた後の世界」に置き換えることも可です。

さらにオプションとして、空を飛んだり、自分以外の人類と奇跡の出会いを果たす、等々もありです。

そんなかつての妄想を映画なんかにしたら、きっと目も当てられない大失敗になると思うのですが、この映画は成功していると思います。

賛否あるとは思いますが、私的には「成功」に一票投じたい所存です。

フェリックスとスミスが飛行機を作っている間、私も一緒になって高揚感を味わうことができました。

小学生の頃、ある場所に友達と大きな穴を掘り進め、この先どうなるのだろう、どこに行くのだろうと、体が飛び上がりそうなほどワクワクしたときの感覚や、子供ながらに煮詰まって、誰もいない廃虚と化した世界で、真っ青な空を見上げる妄想に感じた爽快さ。

そんな感覚を思い出させてくれた映画は成功と言っても過言ではないと思うのです。

山の向こう側にあるものは

飛行機雲

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さて、これまでも飛行機を作り続けてきたフェリックスですが、スミスがあらわれ、具体的な期限が切られたことで、フェリックスもさらに本気になります。

これね、なにがすごいって、フェリックスは実際の飛行機というものに乗ったこともなければ、見たことさえないということです。

辺鄙な場所に住んでいるために飛行機を見たことがない、とかいう話ではありません。

フェリックスとベティ、そしてスミスは、私たちよりずっと先の未来に生きています。そして、彼らの時代には、なんらかの理由で文明が消滅してしまっているのです。

それなのに、なぜフェリックスが飛行機を知っているのかというと、本からの知識です。想像するに、フェリックスの父親が持っていた本なのではないでしょうか。

本っていいですよね。未知との遭遇は、なにも外に出ていかなくとも、家の本棚で十分に事足りるというわけです。

この、本から新しい世界が開くっていうのも、共感ポイントかもしれません。

フェリックスがスミスに、本の挿絵について語るシーンがあるのです。「飛行機の絵の背景に書かれた世界を見たか?」「清潔で、豊かで」なんてことを語るのです。

どこか恍惚としたようなフェリックスの言い方に、知らない世界への憧れを感じます。

そうそう、少年はそうやって旅に出るのですよね?

スミスは、「そんな昔の話に何の意味が?」って感じでしたけど。

で、まあ、そんな彼らにとって空を飛ぶことは、私たちが思う以上に夢物語です。

だからこそ飛行機を作っているときのフェリックスは幸せだったのだと思います。飛行機が完成したときよりもね。

飛行機が完成したら、フェリックスはスミスと一緒に行くつもりでした。もちろん妹のベティも一緒にです。

でも、私はずっと疑問だったのです。

フェリックスは本当にスミスと行く気なのだろうかって。

ベティは荒野の家に執着していて、彼女を家から引き剥がすことはできなさそうだし、なにより、フェリックスには飛ぶことだけが目的のように見えました。

その点、スミスは北へ行くことが目的なのでブレません。

スミスは一緒に行こうと言いますが、やはりフェリックスはスミスだけを飛行機に乗せました。

うん、ずっとそうなる気がしてた。

そして、スミスは飛び立って行きました。

途中で落ちるかもしれない、山に激突するかもしれない、山を越えられたところで無事に着陸できるかも分からない。

それでも飛び立って行ったスミスにも、清々しいながら悲しさがありました。

スミスがいなくなって、フェリックスとベティの生活は元に戻っただけなのですが、フェリックスはそれまでになかった喪失感を抱えてしまったのが切ないです。

それに、ふと思ったのですが、フェリックスは山の向こう側に、もしかしたら過去の美しい世界があるような気がしていたのではないでしょうか。

だとしたら、フェリックスの抱えた喪失感は、もしや2つになった?

いつか、スミスの飛んで行った姿が、フェリックスの心の支えになる日が来たらいいな……と思います。

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映画情報

製作年/1988年
製作国/オーストラリア
監 督/アレックス・プロヤス
出 演/マイケル・レイク/ノーマン・ボイド

日本での公開は1991年です。

映画『アイ,ロボット』の監督が36年前に作った映画です。

映画から若さがあふれていますね~。

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