いやはや、怖い映画です。
サイコスリラーというより、もはやホラーです。
バレエ映画と思って夜中に見ていると、ヒエ~ッ!となります。
私がそうだったのですが(泣)
というわけで、映画『ブラック・スワン』の感想を語ってみたいと思います。
「ホラー? どんとこい!」という方も、「ナタリー・ポートマンのバレリーナ役とか似合いすぎ!」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『ブラック・スワン』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
母親は実在する? 妄想はどこから始まっているのか?※ホラーにて閲覧注意
この映画をご覧になった方にお聞きしたいのですが、ニナの母親って生きていると思いました?
私はしょっぱなから、この母親って、ニナの妄想なのかな~? と感じてしまいました。
ニナと母は2人暮らしなので、家の中のシーンではいつも2人だけです。当然ですけど。
このニナの母親って、娘のためだけに生きているようです。ニナの食事の用意をし、ニナの体調を気遣い、バレエ団にまでついてくることはないですが、できればついて行きたい雰囲気をかもし出しています。
娘の帰りが遅くなれば何度も電話し、友達が訪ねてくれば追い返す。
そこまで娘のことを気にかけ、尽くしているのに、ニナが主役に抜擢された夜、大きなケーキを買ってきたりします。
当然ニナは食事制限をしていますし、当然、母親もそのことを熟知しています。
でもケーキを見たニナが浮かない顔をすれば、怒って、ケーキをゴミ箱に放り込むふりをします。
そんなことをされれば、娘は罪悪感から、嫌でもケーキを食べますよね。
クリームを舐めさせられたニナの表情は、塩でも舐めさせられているかのようでした。
もともと母親もバレリーナだったのですよ。でもニナを妊娠したことで、彼女はキャリアを諦めました。
ニナのためにキャリアを捨てた、とニナには思わせていました。
ですが、もし母親がバレエを続けていたとしても、ニナほどにはなれていなかったと思います。
ニナを妊娠したのが28歳のときで、その時にもらえていた役は群舞のみ。だとしたら、妊娠しなかったとしても、たいしたキャリアにはならなかったと、素人の私にもわかります。
ニナももう、母親の欺瞞には気づいているのですよね。
ニナを「不感症の小娘」と言ったのは、プリマのベスでした。
今回、白鳥の湖でニナが主役をやるにあたり、プリマだったベスは引退へと追い込まれました。ベスは納得していなかったのですが、バレエ団の演出家であるトマが、彼女の引退を宣言してしまったのです。
で、ベスの怒りはニナに向かうわけで、彼女がニナに面と向かい「不感症の小娘」と言ったのですよ。
これ、たぶん、ベスだけなく、他の人たちも陰でそう言っていたのだと思います。
実際、トマも練習中に、「それじゃ不感症の踊りだ」と言うシーンがありました。
「不感症」というのは、優等生的で面白みがないって感じでしょうか。
なぜニナがそんな女性になったのかといえば、これはやはり、母親の存在が大きいのだろうなと思うわけです。
母親はニナを囲い込んで、誰にも近づけようとしなかった。
たぶん、ボーイフレンドはおろか、友達とも自由に遊べなかったのです。
真面目で素直だったニナは、ひたすら練習に打ち込む日々だったでしょう。
そんな生活だったから、感情面が成長できなかったというか、ひたすら感情を押さえ込む癖がついてしまった。
それでもニナはチャンスを掴みました。正攻法ではなかったですが、まあドンマイ。
しかし、娘が出世しそうになると、この母親は娘の邪魔をするのです。
こっわ、としか言えません。毒親やん。
でもね、この母親、時々ふっと存在感がゼロになるのです。
2人で暮らすアパートに母親がいない。そもそも気配がしない。
かと思うと、次のシーンではニナの名前を呼びながらやってくる。
このお母さん、「もうこの世の人ではないのでは?」と、ふと感じるのです。
本番に近づくにつれ、ニナは妄想がひどくなり、いったいどこまでが現実で、どこからが妄想なのか、ニナ本人も混乱していくのですが、見ているこちら側も混乱していきます。
家の中で血を流していた女性の幻はベスだと思うのですが、もしや、あれは母だったのかと思い始めます。
母の存在に始めから違和感があったのですが、ニナが家の中で女の幻を見るあたりから、母親はすでに亡くなっていると確信し、もしやニナが手を下したのかも、とまで考え始めるのです。
ニナも追い詰められ、見ている私も追い詰められ、もうこれホラーやん、と夜中に泣きそうになったのでした。
舞台人としてパーフェクトなエンディング
さて、思った以上に怖かった『ブラック・スワン』ですが、バレエ映画としてもちゃんと面白かったです。
本番の前日からひどい妄想に悩まされたニナですが、なんとか初日の舞台に立つことができました。
いまさらですけど、『白鳥の湖』の主役とは、白鳥役と黒鳥役の一人二役なのですね。
で、ニナは、最初から、白鳥には問題なしと言われていました。繊細で傷つきやすいお姫様の役は、彼女にぴったりでした。
問題は黒鳥で、王子を誘惑する官能的な役が彼女には無理として、トマはニナを主役にする気はなかったのです。
ですが、主役を発表する前、トマに直談判しにきたニナに可能性を感じ、トマはニナに賭けたのです。
演出家であるトマもはやり芸術家肌というか、舞台人というか、山師的な部分が旺盛な人です。
そういう人は「未知の部分」とか「可能性」とかに弱いような気がします。
で、ニナに賭けた。しかし、思うようにニナが開花しません。
なのでニナを誘うような真似をしてみたり、ニナがライバル視しているリリーに色目を使ってみたりして、わざとニナを煽ったんですね。
ニナが過剰に反応しただけでなく、私にはトマの煽りだと思えました。
おかげでニナは見事に開花しました。
真面目で素直なニナは、「自分で触れ。楽しみを知れ」というトマの言葉を実行しようとしてできず、しかし別の方法で楽しみを知ったのです。
この「自分で触れ」って意味は、初老諸姉ならお分かりいただけますよね。
男を誘惑する役を演じるにあたり、不感症のニナに、トマは自分で触って感じろと言ったのです。
ですが、言葉通りのことを実践しようとすると、母親が部屋にいたりして、できない。これもニナの罪悪感が、母親の形となって見えていたのだと思います。
さんざん苦しんだニナは、いよいよ公演の初日を迎え、楽屋へ向かいます。
しかし、ニナの母親が「ニナは体調不良で行けない」とバレエ団側に伝えていました。なので、楽屋にあらわれたニナを見て、トマも代役のリリーも驚きます。
この連絡っていうのも、実際はニナがしたんじゃないのかな?
どちらにしろニナは来ないと思っていたので、心配したトマは休むように言いますが、人が変わったように冷静で強気な様子のニナに、トマは心底嬉しそうな顔を見せるのです。
ここで、人の業ってすごいな~と感じました。トマはニナの変身に歓喜したのです。
トマだけじゃありません。
白鳥のシーンで失敗したニナを罵った王子役の男性が、ニナが黒鳥を踊りきったシーンでは、心からの賛辞を口にします。
どこかでニナを見下していたリリーも、ニナの迫力ある黒鳥を見た後、興奮した様子でニナを褒めたたえました。
いや~、すごい。すごいという言葉しか出てきません。
完璧に踊りきってみせたプリマに、惜しみない賛辞。お世辞じゃないんです。
舞台人の業ってすごい。
一番すごいのは、もちろんニナですけど。
彼女はトマに、「自分で触れ」と言われても触れなかった代わりに、ガラスの破片で自分の腹部を刺したのです。妄想の果ての結果だったのですが、私は「触る」の代償行為だったと思います。
そして、自分で自分を追い詰めた彼女は、最高の黒鳥を踊ったのです。
最後に、舞台の上で血まみれになりながら、「完璧よ!」とニナは叫びます。
いや、完璧なんだけどさ。
私も、ここで終われば完璧だと思ったけれどもさ。正気の沙汰じゃないよね。
白い衣装の真ん中に、まるで赤い花が開いていくように、血が滲んでいきます。
最後に、ニナの命がどうなったのかは分かりません。
ですが、ニナは満足なのです。黒鳥を踊りきり、トマに絶賛され、観客席からの大喝采を耳にして、命が惜しいとニナは思ったでしょうか。
否。ニナはダンサーとして、舞台人として、最高のエンディングだと思ったでしょう。
それはトマや、他のダンサー仲間たちも同意だったのではないでしょうか。
そしてそして、一人のダンサーが覚醒する瞬間を目撃した観客も、映画を見ていた私もまた、否と答えるのです。
人間って、こっわ……。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/ダーレン・アロノフスキー
出 演/ナタリー・ポートマン/ヴァンサン・カッセル
日本での公開は2011年です。
ナタリー・ポートマン演じるニナにプリマの座を奪われたベス役を、ウィノナ・ライダーが演じています。
『ブラック・スワン』のウィノナは怖かった。
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↓可憐だったウィノナが見られる映画がこちら。こちらの感想もどうぞ。
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