映画『タクシードライバー』ネタバレ感想 どこにでもいる男の狂気

雨の車窓 シネマ手帖・洋画
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名作中の名作、名作のスタンダード、泣く子も黙る名作……

言い方はともかく、誰もが一度は、題名を耳にしたことがある映画ではないでしょうか。

この度、アマゾンプライムのお勧めで上がっていたので、久しぶりに見てみました。

相変わらずガツンとくる映像でした。

というわけで、『タクシードライバー』を語ってみたいと思います。

「私も若い頃、見たわ」という方、「なんとなく見てなかったなぁ」という方も、よろしかったら、ぜひお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願いいたしますm(._.)m

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『タクシードライバー』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。

ベトナム帰還兵のトラヴィスは不眠症に悩まされていた。タクシードライバーとなって夜の街を徘徊するも不眠症は解消されない。12時間勤務の後、長い夜をポルノ映画館で過ごすこともあった。そんな日々の中、美しいベツィに出会い、彼女をデートに誘う。しかしデート先がポルノ映画館であったため、ベツィは激怒。ベツィから拒絶され、トラヴィスの精神は均衡を崩していく。

どこにでもいる男の狂気

先に盛大なネタバレを書いてしまいますが、ベツィに振られたトラヴィスは凶行におよびます。

ベツィは、パランタインという大統領候補の選挙事務所で働いていました。

そのためか、ベツィへの、世間への、自分の置かれた状況への怒りや不満、いろんな感情が、パランタイン狙撃へと向かわせるのです。

このへんのトラヴィスには、賛否あると思いますし、私自身、変な方向にねじくれてしまったトラヴィスにイラッときました。

若い頃に見たときは、まったくイラつかなかったのに。ということは、年のせいか……。

そして、これも年のせいかもしれませんが、ベツィに振られるまでのトラヴィスには、抱き締めてあげたいほどに、切なさを感じます。

ベトナムから帰って来たトラヴィスはひどい不眠症で、戦場での経験がトラウマになっているのだろうなと思われます。

そして、貧しさと孤独に苛まれています。

彼のアパートの様子を見るかぎり、生きていくためのギリギリの生活といった感じです。

家族はおらず、友達や恋人がやってくる様子もない。

眠れないトラヴィスはポルノ映画館に行き、たまたま、そこの売店の女の子がいい感じで、声をかけます。

女の子を引っかけたいというより、人恋しさからという感じがします。

だけど、場所が場所だけに、女の子からはまったく相手にされません。

そりゃそうだ。

ポルノ映画館で声をかけられて、女性が警戒しないわけがない。ナンパするなら、せめてバーくらい行け、と思います。

思うに、トラヴィスは田舎の人です。田舎の人で、俗に言う“田舎者”です。

そして学歴もない。

それらのことが悪いとはいいません。

でも、そんな人が、知り合いもいない都会で、どんな目に合うのか。この映画の監督は、実に残酷に、現実を映しているのです。

一方、ベツィは? そして、ベツィの職場の人たちは?

トラヴィスは26歳です。ベツィや彼女の同僚のトムと、ほぼ同世代じゃないかと思われます。

ですが、ベツィたちはパリッとした服装で、清潔で明るい事務所の中、軽口を叩き合いながら仕事をしています。

トムはベトナムに行ったのでしょうか? 少なくとも戦争のトラウマを抱えているようには見えません。この先、トムは、ベツィのようなお嬢さんと結婚して、郊外に家を買い、子供を育てていく。普通といえば普通ですが、ミドルクラスの人生を歩む男です。

トラヴィスには、トムと同じ人生はありません。

本当なら、ベツィのような女性と付き合えるわけもない。世界が違うのです。

でもトラヴィスには、それが分からなかった。

ベツィも世間知らずというか、違う世界の人間に夢でも見たのか、トラヴィスのデートの誘いに応じてしまう。

もし、トラヴィスが貧しくとも、頭が良いか、もっと純粋に世間知らずの良い人であれば、ベツィと付き合うことができたかもしれない。

でもトラヴィスはベツィの同僚をこき下ろしてしまうし、映画はポルノを選んでしまうし、散々です。

ベツィがなぜ自分を嫌ったのか、トラヴィスには一生分からないでしょうね。

ただ悩む。悩んで、運転手仲間の男性に相談を持ちかけます。

このシーンがね、本当に、トラヴィスを抱き締めたくなるのですよ。

彼は自分の悩みさえ、言葉にすることができなかった。

言葉にする術を知らないのです。

そして、相談する相手を間違っています。現状を変えたいのに、同じ場所にいる仲間に相談したって、期待する答えなんて返ってきません。

そんなわけで、ここからトラヴィスはおかしくなっていくのですが、トラヴィスという男は元々おかしな、狂気を孕んだ人間だったのでしょうか?

私は、彼はどこにでもいる、普通の若者だったと思います。田舎にも都会にもいる、無知で、プライドがあって、自分なりの常識を持った青年です。

彼に、狂気に走る種がもともとあったのだとしたら、それは誰もが持っている類のものだと、私は思う。

追い詰められれば、誰だって信じられないことをしてしまう可能性はありますし、トラヴィスが特別凶暴な男だったわけじゃない。

どちらかというと、トラヴィスは優しすぎるくらいだったのではないでしょうか。

あえて言うなら、この、芯のない優しさが仇になった、ということが言えるかもしれません。

田舎へ帰るべきはアイリスではなくトラヴィスだった

田舎町

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もしトラヴィスがアイリスと出会うことがなかったら、トラヴィスの人生は変わっていました。

大統領候補を狙撃するつもりが、あえなく失敗。それはもう情けないほどに。

自分でも情けなかったのか、失敗したその日の夜、12歳のアイリスを食い物にする男たちを叩きのめしに行きます。

叩きのめすというか、銃を撃ちまくるわけです。

そして、優しい男の最後にふさわしくない終わり方を迎えるのです。

アイリスは家出少女で、男たちに利用され、春を売って暮らしていました。

そんなアイリスと知り合って、トラヴィスはまるで父親のように説教をしてしまいます。

アイリスはもちろん説得なんて聞き入れません。「なに? この頭の固いオッサンは」って感じかな。

「ウーマン・リブって知ってる?」なんて言って、アイリスはトラヴィスをからかいます。

ですが、12歳の少女が体で稼ぐ生活なんて、まともなわけがないし、学校へ戻れという説教は、実に正論です。

実に正論で、これはアイリスだけでなく、トラヴィスにも当てはまります。

なぜトラヴィスは両親の家に帰らなかったのでしょう。

彼が両親に送った手紙を見ると、トラヴィスは立派な仕事をし、立派な女性と付き合っていることになっています。

もしかすると、両親は、最近言うところの毒親でしょうか?

それにしたって、トラヴィスの価値観では、田舎に帰ったほうがニューヨークよりは生きやすいと思われます。

なにも親の家に戻る必要はないのです。実家のある場所の、ちょっと大きな町にでもアパートを借りて、知り合いや親戚に、仕事や女性を紹介してもらえばいい。

と、初老の私は思いますが、トラヴィスはまだ26歳で、自分にもチャンスがあるという期待が捨てられないのでしょうね。

そして、どうにもならない現実に、トラヴィスは荷物をまとめるより、銃を手に入れるほうを選びました。

銃を手にして、トラヴィスは、自分が大きくなった気がしたでしょう。

おろかだな…とは思いますが、若いうちは、こんなものかもしれません。

男たちを撃った後、トラヴィスは血まみれになってソファに沈み込みます。彼は永遠の眠りについたのでしょうか?

この後のシーンは、私は、彼の妄想じゃないかなと思いました。

最後の妄想がこれか……と思うのですが、これがトラヴィスの想像の限界なのでしょう。

この映画の監督は、とことん冷徹に現実を切り取ったのだなと思います。

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映画情報

製作年/1976年
製作国/アメリカ
監 督/マーティン・スコセッシ
出 演/ロバート・デ・ニーロ/ジョディ・フォスター

日本での初公開年も1976年です。

久しぶりに70年代の映画を見ると、なんとも、濃さ(?)を感じました。

時代的背景が濃いせいでしょうね。

そして、スコセッシ監督が濃い。監督、とても濃ゆい、タクシーの乗客役で出演されております。なぜその役? と思ったのですが、致し方ない理由があった模様。

そして、アイリス役のジョディ・フォスターですが……超絶かわいい(笑)

ひどい役ですけど、一服の清涼剤ではありますね。

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