『バグダッド・カフェ』ロングセラーの理由は、誰もが癒やされる、大人のためのおとぎ話だから。
特に、疲れた人、傷ついた人の心が軽くなる、おとぎ話のような映画です。
というわけで、『バグダッド・カフェ』の感想を語ってみたいと思います。
「『バグダッド・カフェ』の映像を見ただけで癒やされるの」という方も、「映画は見たことないけど、主題歌はいいよね~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただし、ネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
『バグダッド・カフェ』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
人生に疲れた大人のおとぎ話
この映画はおとぎ話です。
心癒やされるハッピーエンドのお話です。
まず、大人のおとぎ話なので、出てくる人たちは、みんなどこかに傷を抱えています。
多くの背景は語られませんが、主人公の一人であるジャスミンは、異国の地で夫から置き去りにされ、もう一人の主人公ブレンダは生活苦にあえいでいます。
ブレンダの夫は役立たずだし、息子は働く気がなさそうで、娘は家のことなど考えていません。
「詰んでるな~」って感じですよ、ブレンダさん。
『バグダッド・カフェ』に住み着いている人たちも、実社会からドロップアウトしたような人たちです。
本当なら、もっと悲壮感に溢れていてもいいようなものですが、砂漠の景色や光の加減のせいか、どこか滑稽な明るさが漂っています。
意図してそう作っているのでしょう。冒頭で流れる音楽も、まるで、町外れにできた、小さな移動遊園地なんてものを彷彿とさせます。
バグダッド・カフェが遊園地なら、そこに集う人々は回転木馬や観覧車でしょうかね?
でも、きっと壊れかけています。
乗るの怖いな~と思うような遊具たちです(笑)
ただ不思議なのは、この遊園地で遊んで帰ると、なんとなく元気になっているのですよ。
バグダッド・カフェにいる間に、ジャスミンは自分を取り戻し、ブレンダにも笑顔が戻ります。
それを見ている私たちも、いつの間にか癒やされているという次第です。
これは再生の物語

イメージ画像
バグダッド・カフェの女主人、ブレンダからすると、ジャスミンはストレンジャーです。
見知らぬ、不思議な存在です。
バグダッド・カフェにだって、売れない画家や入れ墨師のお姉さんだったりと、少々怪しげな人たちが住み着いているのですが、その人たちをブレンダが邪険にすることはありません。
ホテルに旅行者がやって来ることは不思議でもなんでもないですし、ジャスミンは身なりもきちんとしています。
ただ、バグダッド・カフェには、食事や給油のためにトラック運転手たちが立ち寄るくらいで、浮かれ気分でやってくる旅行者なんていません。
そんなところに歩いてやってきたジャスミンですから、訝しがられても仕方がないとは思います。
しかしブレンダは、ジャスミンを目の敵にします。
なんでだろう?
役に立たない亭主を追い出して、怒りの捌け口がなくなったから?
生活苦のせいで、ジャスミンが優雅な旅行者に見えてしまったから?
お金がないという苦しみは、本当に身を焦がすようですから、ブレンダがイライラするのは分かります。
だからって、それを他人にぶつけるのは違いますけどね。
一方、ストレンジャーのジャスミンですが、確かに、ブレンダ目線で見れば不思議な存在です。
ただ、映画の冒頭から目にしている私たちにすれば、孤独な一人の女性にしか見えません。
後にジャスミン自身が、自分に子供がいないことをブレンダに打ち明けます。
それはきっと、ジャスミンにとってつらいことだったのでしょう。
その告白を聞いてから、ブレンダのジャスミンに対する態度が変わっていきます。
ブレンダにも、ようやく、一人の人間としてのジャスミンが見えてきたのです。
そこから、二人の女性に変化が表れます。
ジャスミンはカフェの手伝いを始め、ウエイトレスをしながら、お客に手品を披露するようになりました。
手品は評判を呼び、客が増え、バグダッド・カフェは繁盛します。
ブレンダとジャスミンだけでなく、やる気のなさそうなホテルの従業員まで楽しそうです。
しかし、皮肉なことに、かつてブレンダがジャスミンを追い出そうとして呼んだ保安官がやってきて、ジャスミンに国へ帰るよう警告します。
かくしてジャスミンは去り、バグダッド・カフェは閑古鳥の鳴く、寂れたモーテルに逆戻りしてしまいました。
普通なら、ここで映画は終わるのでしょうが、この映画はおとぎ話ですので、ジャスミンはバグダッド・カフェに戻ってきます。
ドイツ人の彼女が、たった一人で戻ってくるのです。
最初から最後まで、ジャスミンの実生活がどんなものか、語られることはありません。
でも夫もいて、アメリカに旅行に来るくらいの余裕がある家庭の奥様であったことは確かです。
そんな彼女が、いろんなものを切り捨てて、またバグダッド・カフェへ戻ってきたのです。
この映画の主題歌『コーリング・ユー』では、『私はあなたを呼んでいる』と歌っています。
『あなた』とは好きな相手のことかもしれないし、ソウルメイトとなった友人のことかもしれない。
たとえば、ブレンダがジャスミンを、ジャスミンがブレンダを、とかね。
ただ、私は、自分に対して呼びかけているようだなとも感じました。
疲れて、考えるのをやめて、からっぽになってしまった自分の内に対して、私はあなたを呼んでいるのよ、あなたを必要としているの、と、言っているような。
再会したジャスミンとブレンダの挨拶は実に他人行儀で、でも、二人とも笑顔でした。
ブレンダの柔らかな笑顔は印象的です。
もうからっぽじゃなくなったジャスミンとブレンダは、次のステージへと歩み出すのでしょう。
「現実世界で、そんな簡単にはいかないよ!」
と言いたいのは分かります。
「ど素人のマジックでお客を集められるわけないじゃん!」ですとか、「友達同士で経営なんて、すぐに破綻するわ!」とか、突っ込みどころはいろいろあるでしょう。
だから、これはおとぎ話なのです。
現実に、仕事や家庭や人間関係が大変だとしても、それを変えることは容易じゃありせん。
つらい環境の中で疲弊して、いつしか心なんてすり減って、心がすり減っていることにさえ気付かないこともあります。
そんな現実を知っているからこそ、このおとぎ話的映画が、大人の心に染みるのだろうな~と私は思うのです。
映画情報
制作国/西ドイツ
監 督/パーシー・アドロン
出 演/マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー
主題歌/『コーリング・ユー』ジェヴェッタ・スティール
日本での初公開年は1989年です。
ウィキペディアによりますと、「当時のミニシアターブームを代表する一作」だそうです。
私は当時、ミニシアターではなく、「単館系」と言っていました。
あの頃は見たい「単館系」がたくさんありました。
いい時代だったな~。
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