トム・ハンクスを初めて「好き!」と思った映画です。
お前の趣味趣向なんぞ知らんがな、と思われたら申し訳ない。
でもこれ、そういうブログなのです。
というわけで、トム・ハンクスに泣かされ笑わされた映画、『オットーという男』の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『オットーという男』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
深淵をのぞく者には天然をぶつけよ、という映画
オットーって、あまり運がよくない人のようです。
そして真面目な性格です。
ということで、生きづらい人生を生きています。
そんなオットーの人生に彩りを与えてくれたのが彼の妻、ソーニャでした。
しかしソーニャは半年前に癌で他界。
映画は、オットーがソーニャの後を追おうとして、ホームセンターでロープを購入するところから始まります。
そう書くと、すっごく陰気な始まりのような気がしません?
ところがどっこい、この爺さん、商品のロープを切ろうとして、店員に「手伝いましょう」と声を掛けられると、ヒス構文で返事をします。
なんだ、俺がロープも切れないと思っているのか? 指を切って店を訴えるとでも? という感じです。
うわ~、面倒くさい爺さんです。
悪い人ではないのですが、こじらせちゃっているのですね。
奥様のソーニャが亡くなって、彼の世界に楽しいこともなければ、理にかなうこともないのです。
もうね、世の中のすべてが、彼にとっては理不尽なのですよ。
例えば、オットーは、ロープを買おうとしてレジに行くのですが、彼の買った長さよりも数十円多く請求され、それはおかしいと店員に食ってかかります。
ロープは買う長さの分だけ払えばいいのに、レジの設定のせいで数十円余分に払わされるのです。
これは「おかしい」というオットーが正しいです。ですが、ほとんどの人が、面倒だからと黙って払ってしまうのです。
実際、オットーの後ろに並んでいる男性が、「私が余分の33セント払うよ」と、嫌味な感じではなく申し出てくれました。
ですがオットーは、「金が惜しくて言っているのではない」と、男性の申し出を断ります。
オットーの言う事はド正論です。
でもね、往々にして正論は煙たがられるのです。
そして、責任者を呼べと言ったら、出てきたのが副店長の若い女性で、オットーはそこにも文句をつけます。
あんたが副店長? 高校生じゃないのか? ですって。これはオットーが悪い……。
そりゃね、自分が年を取ってくると、責任ある立場の人も子供にしか見えなくて、「こいつで大丈夫か?」と思うことはあります。初老ですから、その気持ちは痛いほど分かります。
でも、それを口に出すのはナシですよ~。たとえ相手に落ち度があっても、見た目をディスるのは違います~。
というわけで、かなりこじらせているオットー。
そんなオットーは世の中のすべてに嫌気がさして、天井に金具を取り付け、金具にロープをぶら下げ、ロープの先端に自分がぶら下がる決意をします。
で、テーブルの下に新聞紙を敷きつめ、スーツをビシッと着込みます。
ついつい、新聞紙一枚ずつ敷いたって意味ないよとツッコミを入れてしまう私も、こじらせ初老です。
もっとゴツい敷物にしてほしいなあ~と思っているところに、お向いの賃貸物件に引っ越してきた人たちが、窓越しに見えました。
それがオットーの運命を変えるマリソルの一家なのですね。
引っ越してきたとき、マリソルの夫・トミーが運転していたのですが、縦列駐車があまりに下手で、見かねたオットーが外に飛び出していきます。
で、代わりに車を上手に停めてあげたわけです。
結局このときは、マリソル一家のために首○りは遂行できませんでした。
次にオットーが選んだ方法は、車での一酸化炭素中毒。
頑固ですね~。意地ですかね~?
でも、オットーの気持ちは、かなりの部分で分かります。
年を取るとともに、どうしたって第一線からは退かなければならなくなる。それは理解しているのです。
ですが、生真面目で融通がきかないために煙たがられ、定年間近になって元部下の下に降格させられるなんて、私でも悔しく感じます。
もし、妻のソーニャがいてくれたら、ソーニャのために生きようと思えたでしょうが、彼女ももう、この世にいません。
彼女のもとへ行こうと部屋を綺麗にし、電話や電気を止める手続きをするとか、こんな時まで真面目で頑固なオットー。でもそんな彼の気持ちに同化してしまうと、涙が出てくるのです。
しかしオットーの自○計画は失敗の連続で、なんというかオットーが真剣なだけに、笑ってしまうのです。
笑えるのはオットーと、オットーに感情移入している自分自身に。
あの世に行こうとしているオットーを見ているときって、自己憐憫に酔っているのですよ。だから客観視すると笑えてくるのです。
でも、愛する妻が亡くなって半年というオットーには、客観視する余裕はありません。
大切な人が亡くなったとき、亡くなった直後より、少し時間が経ってからドーンとくるものです。
それは60代のオットーにだって分かっていると思いますが、でもソーニャはオットーの人生のすべてでした。
そうなると、オットーの行動も仕方ないのかもしれないな~、なんて思います。
が、それを許さないのがマリソルでした。
図らずも、2回目の自○未遂を止めたのもマリソルで、車に排気ガスを引き込み、意識が遠のきかけていたオットーを容赦なく引き戻したのです。
マリソルは天然ってだけでなく、自分が正しいと思ったことはしっかり言葉にする人です。
オットーが2回目をしようとしていたとき、実はトミーが梯子から落ちて、救急車で運ばれておりました。
で、車の運転ができないマリソルは、病院までオットーに送ってほしいと言いに来たのです。
この時のマリソルの言い分は、夫のトミーがあなたに借りた梯子から落ちて救急車で運ばれた! 病院まで送って行って! でした。
あれ? 梯子を貸したのがオットーだから、彼が連れていくのが当然って言い回し?
と思う間もなく、断ろうとするオットーに、「いいから早く連れて行け!」という態度。
ここがね、すごいと思います。非常事態ですが、もし私だったら、“頼み込む”って感じでお願いすると思うのですよ。
それがマリソルの場合は、なにボ~ッとしてるの! 非常事態って分かってる!? という感じで、いっそ清々しい。
で、考える間もなく、オットーはマリソルと子供たちを病院に連れていくのでした。
そうそう。考え過ぎて、深淵にハマっちゃう人には、マリソルのように考える暇を与えないのが正解ですね。
でも普通の人は一緒になって考え過ぎてしまうから、やっぱり天然って最強なのです。
老人の底力に刮目せよ
マリソルのおかげもあって、オットーはようやく深淵から這い上がってきます。
あ、深淵とはニーチェのお言葉の、あれです。ご存じとは思いますが、一応書かせていただくと「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいている」というやつです。
意味は、まあ要するに、「ミイラとりがミイラになる」ってことだとワタクシなりの理解をしております。
オットーの場合、悲しみに浸りすぎて、悲しみに捕らわれてしまったってことですかね。
落ち込んでばかりいると、もう下しか見えなくなってくるのでよ。
ですが、オットーの視線は、マリソルたちのおかげでようやく上へと向くのです。
すると、大事な友人たちが危機に陥っているのが目に入るようになりました。
近所に住むルーベンとアニータ夫婦が、不動産会社に家を取られそうになっていたのです。
彼らは過去にオットーと確執もありましたが、オットーとソーニャに心配をかけたくなくて、そのことを黙っていたのです。
それを知ったオットーは自己憐憫に浸っていた自分を恥じ、ルーベンたちを救うべく行動を起こします。
ここからのオットーは格好良かったですよ~。
さすが年の功といいますか、それまで相手にしていなかったSNSジャーナリストなる女性も、友人夫妻のために最大限利用します。
ネットに不動産会社のダークなやり口をリアルタイムで流すことで、彼らを撃退しました。
うんうん、清濁併せ呑むことのできるオットー、年の功のお手本です。
これまでオットーは、不動産会社や勤めていた会社、ソーニャを事故で歩けなくしたバス会社に踏みつけにされてきました。
残念ながら、個人で組織に対抗しても勝ち目はありません。
ですが少なくとも、オットーは最後の最後に、友達を守るため、にっくき不動産会社に一矢報いることができたのです。
それだけでも、すごいことだと思います。
その後、オットーは近所の友人たちとの交流を復活させ、マルソル一家とは家族のように過ごします。
マリソルの子供たちは、オットーを“おじいちゃん”と認識していました。
オットーは心臓に持病があり、そこから3年後には本当にソーニャの元へと旅立って行きました。
オットーの旅立ちはとても穏やかで、彼がマリソル宛てに書いた手紙を読みながら、マリソルは笑みを浮かべるほどでした。
この映画には元になった映画があって、それは『幸せなひとりぼっち』という題名なのですが、オットーの晩年はまさに、一人ではあったけれど、ソーニャのいない世界で望みうる最高に幸せな時間となりました。
初老としては、この映画がハッピーエンドで本当によかった~と安堵するのでした。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/マーク・フォースター
出 演/トム・ハンクス/マリアナ・トレビーニョ
原 作/フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』
日本での公開は2023年です。
小説と同名のスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』をリメイクした映画です。
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