落ち込んでいる人も適度にクリスマス気分を味わえる映画です。
人生がうまくいっていないと感じて落ち込む時ってありますよね。そんなときに幸せムード満載のクリスマス映画なんて、とても見ていられません。
しかし、この映画は、落ち込んでいる人も安心して見ることができるクリスマス映画です。
最悪のクリスマス・イブを過ごす人たちを、インディーズ系の監督がいい感じに仕上げています。
「インディーズ映画の雰囲気、好きなんだ~」という方、あるいは「ロードムービーってなぜかハマるのよ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『タンジェリン』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
落ち込んでいる人に贈るタンジェリン色のクリスマス
この映画は、普通のクリスマス・ムードを求める人にとっては不向きな映画です。
映画の舞台はロサンゼルス。日付はクリスマス・イブ。
というわけで12月24日の話なのですが、冒頭から登場するシンディとアレクサンドラの服装はまるで夏のようです。
温暖な気候のロサンゼルスということもありますが、彼女たちの仕事は体を売ることなので、普通の人より露出度は高めです。
そういう仕事をしているくらいなので、ぶっちゃけ、お金はありません。
シンディは出所したばかりですし、アレクサンドラもシンディの家賃を立て替えていて、携帯も止められているほどです。
だから久しぶりの再会もドーナツ1個なのです。でも2人とも再会を喜んでいて、ここまでは良いムードです。
ですが、アレクサンドラがやってしまいました。
シンディが恋人の名前を出したとたん、アレクサンドラはシンディが彼と別れたのだと早合点して、「あんたがいない間に女と浮気するような男なんて」と、彼を悪く言ってしまうのです。
シンディが言おうとしたことは、恋人と婚約したという報告だったのにです。
当然シンディは驚き、怒るわけですが、浮気相手が本物の女だと知り、怒りは頂点に達するのです。
シンディもアレクサンドラも、体は男でした。で、激怒したシンディは、浮気相手を探して店を飛び出します。
この時点ではまだ、見ている私には分からなかったのですが、アレクサンドラはかなり焦ったと思います。
シンディはパワフルすぎるほどパワフルで、浮気相手を探して、あちこちで騒ぎを起こします。
一方アレクサンドラは、シンディに付き合いきれないと別行動を取り、街を歩き回っては出会う知り合いに、ライブのチラシを配りまくります。
今夜、アレクサンドラはライブで歌うらしいです。
街を歩き回る合間に、本来の仕事もします。あとで分かりますが、アレクサンドラには確実に稼がねばならない事情があるのです。
そして夜7時、バーの小さなステージで歌う予定のアレクサンドラでしたが、アレクサンドラはシンディが来ないと歌えません。
7時を過ぎてもシンディは来ず、ステージをキャンセルしそうになります。
シンディはその頃、浮気相手のダイナを捕まえ、恋人であるチェスターの元へ行こうとしていたのですが、ようやくライブのことを思い出し、急遽ライブ会場の店へと向かうのです。
ここ、ちょっと感動しました。男より友を取るのが意外だったもので。
で、なんとかライブは無事始まるのですが、アレクサンドラがあれだけ宣伝して回ったのに、来てくれたのはシンディだけ。あと、無理やり連れてこられたダイナのみ。
そしてライブがはねた後、シンディは、恋人でポン引きでヤクの売人であるチェスターとドーナツ店で対峙します。もちろんアレクサンドラとダイナも引き連れています。
さらには、アレクサンドラやシンディの客である、タクシードライバーが乱入してきます。
このタクシードライバーはラズミックといい、彼はシンディが出所したのを知って、いても立ってもいられず、シンディを買いに来たのです。
当然、シンディはそれどころではないのですが、反面これは、チェスターにヤキモチを焼かせるよい口実となりました。シンディはラズミックと一緒に外へ出ようとして、狙い通り、チェスターにヤキモチを焼かせることに成功します。
ここも、私的には感動ポイントです。まさか、チェスターがシンディに本気だったとは。単なる金ヅルとしてしか見ていないと思っていました。
だってシンディが服役するはめになったのは、チェスターを庇ったせいなのですよ。
しかも、シンディが自発的に庇ったわけではなく、チェスターが「結婚してやるから」と言って、無理やりシンディに罪を被せたのです。
いやいや、ヤキモチを焼くくらい好きな相手だったらですよ。そんな好きな相手に身代わりを頼む!? 罪をなすりつける~!? と思いますよね。
チェスターの言い分としては、自分とシンディが捕まった場合を考えたら、シンディの方が罪が軽くてすむ。それならシンディが捕まったらよくない? くらいの感じだったようです。
どうですか、この殺伐とした、クリスマスとは思えない雰囲気。
せめて雪くらい降ればいいのかもしれませんが、街中を疾走するシンディやアレクサンドラを包み込むのは、容赦なく照りつけるサンフランシスコの日差しです。日が落ちる寸前の西日は、まさにタンジェリン・オレンジの色。
そういえば、夕方、アレクサンドラがラズミックに、車用の芳香剤をクリスマス・プレゼントとして渡したのです。ルームミラーにぶら下げられる、いろんな形をした、あれです。
アレクサンドラがプレゼントしたのも、オレンジの形をしたものでした。もちろん色もオレンジです。
どこまでもクリスマスらしくないクリスマスですが、このプレゼントには唯一ほっとさせられるのでした。
若さとは愚かさ…かもしれないけどさ
さて、チェスターにヤキモチを焼かせることに成功したシンディ。
なんやかんやでラズミックも帰っていき、チェスターとシンディは元鞘に収まりそうになりますが、チェスターが爆弾を投げつけてきます。
シンディが服役中、チェスターは、アレクサンドラとも寝たことを暴露します。
このとき、ダイナは大笑いです。彼女はシンディにボコボコにされたわけで、そりゃあ笑いたくもなりますよね。
ポン引きのチェスターと、その商品である自分が関係を持ったのは、ある意味仕事のようなもので、ボコボコにされるのは理不尽だって思いがあったのです。
でも、そんな意見にシンディが耳を傾けるわけもありませんでした。
そこに正真正銘の裏切り行為が発覚。そりゃダイナは笑います。大修羅場を期待します。
が、期待に反して、アレクサンドラは静かに涙を流し、シンディはその場を後にするだけでした。
シンディの行動はめちゃくちゃで、商売仲間たちも彼女のことを「お騒がせ女」と言ったりしますが、実はアレクサンドラのほうがやっかいな人間かもしれません。
シンディが来なくてライブを中止にしかけたとき、私はシンディがコーラスでもやるのかと思ったのです。
でもシンディはただの応援でした。舞台に立つのはアレクサンドラ1人です。
なぜシンディが来ないだけでライブを中止にするのでしょう? 客を1人も連れて来られなかったら中止という約束だったとか?
そもそも、アレクサンドラはお金を払って歌わせてもらっていたので、その線は薄いです。
アレクサンドラがシンディの面倒を見ているようで、実はアレクサンドラもシンディに依存していたのですね。
お金を払い歌わせてもらっていたと分かった時点で、私は「うげ~」となりましたが、シンディを裏切っていたと暴露されたときは、もうほんとに、「なんだコイツ」となりました。
まだあっさり、「ごめん、あんたの彼とやっちゃった」と告白して殴られたほうが、よくないですか? なぜダイナの名前を出した?
でもまあ、振り返ると、私の若い頃もバカとしか言いようのないことばかりやっていたな~と思い出しました。
狭いコミュニティーの中でマウントを取り合ったり、成功するためと信じてアホみたいなことばかりやっていたり。努力の方向性を完全に間違っていても、視野狭窄に陥っていて気づかないのです。
昔のことを思い出していや~な気分になったところで、シンディが心ない男たちからオ○ッコを掛けられます。
プチ・パニックのシンディに、駆け寄るアレクサンドラ。
そんなわけで、2人はコインランドリーに行き着きます。
無言でコインランドリーのベンチに座る2人。夜のコインランドリーは2人だけです。
もしかしたら、この時、アレクサンドラは、自分が歌手になれないことを悟ったのもしれません。
シンディはこの時、自分にはまだ支えてくれる人がいるのだと、改めて理解したのかもしれません。まあ、男を寝取るような、質の悪い人ではありますが。
2人は気まずそうに視線を交わしながらも、手をつなぎます。
この2人は、若くて愚かかもしれないけど、小さな幸せが手の中に残っていてよかった。
とりあえず、メリー・クリスマスなのでした。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/ショーン・ベイカー
出 演/キタナ・キキ・ロドリゲス/マイヤ・テイラー
日本での公開は2017年です。
この映画の面白いところに、撮影がスマホで行われたことや、プロの役者がほとんど出ていないことがあります。
それらについての理由はなんとなく分かるのですが、分からないのは題名の『タンジェリン』。
どういった意図でタンジェリン?
日が落ちるまでの画像の色合いがそれっぽいですが、それだけ?
タンジェリンについて裏の意味があるのか調べてみたけど、分かりませんでした。
西日の強烈な色合いを見た瞬間のあなたの心境、それが答えです。
なんてことなのかな~、と思うことにします。
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