この映画、私は映画館で見ました。
初老あるあるで、つい最近のことのような気がしていましたが、この映画が公開されて、もう18年たつそうです。
それだけの時間が過ぎて視聴してみると、やはり感想は変わりますね。
主人公の女性は、ネットなどで言われる、メンヘラっぽいところがありますが、当時はそれに対して特に思うところはなかった気がします。
自分にも共通点があったからですかね?
ですが初老の今は、足をバタバタさせたくなったり、うんざりしたりもするのです。
これは初老女子による、初老女子のための感想ブログです。
『ヴァイブレータ』はR15+の映画ですし、大人の方でネタバレOKの方のみ、お付き合いください。
ご一緒に、黒歴史を堪能いたしましょう。
『ヴァイブレータ』あらすじ
早川玲、31才、フリーのルポライター。
彼女の頭の中では、いつも、誰かがしゃべっている。
普段はアルコールと過食嘔吐で声たちを抑えているが、抑制も限界にきている。
そんな時、トラック運転手の岡部希寿(たかとし)と出会う。
偶然の岡部との出会いに、玲の胸は振動し、岡部も玲を誘う。
玲は岡部のトラックに乗り込み、道連れにしてほしいと頼む。
岡部は玲をつれ、東京から新潟へ。
知らない同士の、小さな旅が始まる。
『ヴァイブレータ』感想
早川玲の頭の中では、いつも誰かがしゃべっています。
映画の始まりはコンビニの店内なのですが、たぶん玲の家の近くです。
仕事帰り(?たぶん)で、玲はワインを買いに寄ったのでしょう。
一人で店内をうろつきながも、頭の中ではずっと声がしていて、玲は思わず「うるさい」と口に出してしまいます。
他の客がちらりと玲を見て、華麗にスルーしていきます。
東京で、夜で、コンビニで、独り言をつぶやく人なんて、珍しくもありませんね。
ですが、玲の心は、かなり追い詰められている感じがします。
思わず「うるさい」なんて言ってしまうのもそうですが、雑誌を開くと、雑誌の中から、女優さんが話しかけてきます。
いや、リアルにそう見えてる? だったら本当にやばいよ? と思われます。
女で31才でフリーランス。
仕事も大変だろうけど、セクハラもすごそうですし、ストレスが尋常ではないのだろうなと想像できます。
冒頭のコンビニは、そんな玲の心情を反映してか、ひどく殺伐とした場所として、見る人の目に映ります。
そこにやってきたのが、長距離トラック運転手の岡部です。
岡部を見た玲の胸は振動し、玲は彼を食べたいと思います。
買い物を済ませた岡部の後を追う玲。
外は雪です。
雪っていいですね。雨の百倍いいです。
雪の中、岡部の口笛が聞こえて、音をたどっていくと、岡部がトラックの運転席でお酒を作っていました。
雪の中で、一瞬立ち尽くす玲。
ラジオからの曲が、玲の姿にかぶさります。
明るいけれどムーディーな曲です。フランク・シナトラっぽい。なんてロマンティック。
このところで、私の胸は、ぽっと温かくなりました。
なんででしょうね。彼女の胸のヴァイブレータに、私も感応したのかもしれません。
玲はトラックに乗り込み、見ず知らずの男といる恐怖を口にしながらも、岡部と体を重ねます。
そして朝、岡部に向かって「道連れにして」と頼むのです。
長距離トラックの行く先は新潟です。
正直、行き先はどこでもいいです。流れていく景色を、ただ眺めているだけで癒やされます。
とくに夕方、道端の外灯がともり始める頃なんていいですね。なんでもない県道が美しく見えてきます。
夜になると、窓についた雪が溶け、テールランプや、外灯や看板の灯が滲んで見えて、不思議な高揚感もわいてきます。
玲もそう感じたのではないでしょうか。
おかげで、旅の前半は機嫌よく楽しそうです。
でも彼女の抱える問題が消えたわけではなく、ちょっとしたキッカケで、彼女の声たちが戻ってきます。
そして、突然のパニック。
パニックを起こしてからの玲は、見ていて正直、めんどうくさいなぁと感じてしまいました。
彼女と彼女の荷物を放り出して、さっさと逃げなかった岡部は本当にいいやつだと思います。
パニックの夜を乗り越え、機嫌の良い仮面を剥いだ二人は、向き合って食事をします。
食事を終えた二人が店を出たところで、岡部が意外なことを言い出します。
トラック運転してみる~? だそうです。
突然のことに、玲は、いやいや冗談でしょ!?ってなる。
見ていた私も、内心で同じことを叫んでいました(笑)
なんだかんだ言いながらトラックの運転席にいる玲に、横からつきっきりで、岡部が指示を出します。
どのくらいの距離を走ったのか。何十メートル? 何百メートル? 数キロ走ったとしても、車ならたいした距離じゃありません。
でも、その間、玲は必死でハンドルを握っていたと思います。
そしてハンドルを握っている間、玲は自分の中の声とか、自分の存在がどうとかなんて、きれいに忘れていたはずです。
運転を終えたあとの、玲の笑顔がそれを物語っていました。
同じとき、玲の横で、脱力した横顔を見せた岡部には同情しつつ笑ってしまいましたが。
東京に帰ってきた二人は、最初に出会ったコンビニに戻ります。コンビニの駐車場で別れる二人に言葉はありません。
トラックは去っていき、玲は数日前の続きのように、コンビニでワインを買います。
映画の始まりでは殺伐として見えたコンビニ店内ですが、最後は、ちょっと、ほっとする場所に見えるから不思議です。
それはたぶん、玲の中のうるさい声が消えて、彼女が優しい顔をしているからだろうなと思います。
彼女の問題は何も解決していませんし、声はいずれ戻ってきます。
それは玲も、見ている私たちも分かっています。
でも、どうにもできない。
声が戻ってきたときに、また考えるしかない。
どうにもできない問題を抱えて、私たちは日々、なんとか自分をなだめたり、小さな発散を繰り返して、人生を進めていきます。
どうにもならないとき、考えるのを止めてみるのも手ですが、止めたくても止められないんですよね。玲の声たちみたいに。
そんなときは、とにかく体を動かす。
もしくはトラックを運転してみる(笑)
この映画を見ていて、途中うんざりしながらも温かい気持ちになれるのは、昔の自分を見ている気がするからなんですね。
アサラーの頃の切実さが、初老にもなると、思い出に変化する。すごい。
年をとるって、悪いことばかりじゃないですね。
それが分かった良い映画です。
映画情報
製作国/日本
監 督/廣木隆一
主 演/寺島しのぶ(早川玲)大森南朋(岡部希寿)
赤坂真理さんの小説が原作です。
小説も読んだけど、映画の記憶が強いです。
この映画の寺島しのぶさん、前半はまるで、素人の女性が映画の中に入ってきたような感じでした。
でも後半、リアルに一人の女性がそこにいるという気がして、すごく良かったです。
書き忘れちゃいましたが、足バタバタしたくなったのは、前半の、上機嫌の玲に対してが多かった。
なんというか、若い頃の自分をリアルに見る機会があったら、悶死するかもしれません、私。
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