初老にとっては、いつか来た道だなあ…と思われる映画です。
映画が始まってすぐに私の思ったことは、
「なるほど。最初は弱々しいサンドラが、試練を経て成長していく映画ね」
なのでした。
どうです? 初老諸姉なら、いつか来た道でしょ?
さらには、「その手の映画だって、もう沢山見てきたわ~」と言われるかもしれません。
しかしです! そんな海千山千の初老諸姉にも、ラストできっちり、清々しく感じていただける映画です。
といわけで、『サンドラの週末』の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みますので、お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
映画『サンドラの週末』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
初老にはいつか来た道? 人生の中のトンネル期間
この映画、なかなかにパンチの効いた設定です。
細かい設定は語られないのですが、セリフの端々から状況が見てとれます。
サンドラは工場勤めのブルーワーカーです。
夫と子供が2人いて、夫の稼ぎだけでは家賃も出ないそうですよ。
なのでサンドラが働くことは必須なのですが、彼女の働く職場では人が余った状態です。
というか、サンドラが休職したことで、彼女の抜けた16人という人数で作業が回ってしまうことが判明します。
そうなると、経営者としてはサンドラがいらないわけです。
だから「サンドラに辞めてくれ」と言うならわかりますが、なぜか、サンドラの同僚たちに投票させるという方法を取るのです。
これ、すごくないですか?
これまでサンドラと一緒に働いてきた人たちに、サンドラを取るか、ボーナスを取るかと選択を迫るのですよ。
しかも、上司である現場主任が、投票する同僚たちに、サンドラが復帰したとしても、誰か1人を辞めさせると脅したのです。
16人で仕事が回ると分かった以上、17人もいらないというのは理解できます。
しかし、自分たちのボーナスと、同僚のクビを天秤にかけさせるなんて、極悪非道にもほどがある。
そんなこと現実にあるのでしょうか?
でも、見ているこちらがとまどっているうちに、月曜の投票に向け、サンドラと夫のマニュは、同僚たちの家へと車を走らせるのです。
どうですか? 地味なようで、なかなかのパンチ力でしょ?
こんな状況ですが、サンドラは最初、自分からは社長に何も言えず、同僚のジュリエットが一人で社長に掛け合ってくれたのです。
サンドラは精神的に問題を抱えているように見えます。
体調を崩していたというのも、精神的なものだったのじゃないかと推測されます。
いまだに、しょっちゅう精神安定剤らしき薬を飲んでいます。
そのせいもあって、同僚たちの態度に、サンドラの精神状態は大きく揺さぶられます。
でもね、考えてもみてください。
たとえ普通の精神状態だったとしても、「私が失業しないために、あなたのボーナスを諦めてほしい」と同僚に言って歩かないといけないのですよ。
私なら考えただけで冷や汗ものです。
サンドラも生活がかかっていますが、それは同僚みんなにも言えることです。
中には、光熱費を滞納して、こっそり副業をしている人もいます。
妻は失業、しかし子供の学費は待ったなしという人も。
ほんと、誰もが、いろいろな事情を抱えて生活しているのですよ。
サンドラだって、夫に「公営住宅に戻ればいい」と言いますが、夫は拒絶します。
夫ーーーーー!!
自分の稼ぎで家賃も払えないなら、とりあえず、身の丈にあった場所に住みましょうよ!!
まあ、夫には夫の考えがあるのでしょう。たぶん。きっと。
そんな、それぞれの事情を抱える中で、究極の選択を迫り・迫られるわけです。
なんという絶望。お先真っ暗で、トンネルの中にいるみたい。
出口は見えず、そもそも出口があるのだろうかという恐怖。
人生には、そんなトンネルのような時期が時々あるものですが、サンドラもまた、トンネルの中でもがいているのでした。
切なくも清々しいサンドラの月曜日
土曜・日曜と、サンドラはトンネルの中で、何度も挫折しかけました。
同僚と一口に言っても、仲の良い人からそうでない人、明るい人からそうでない人(笑)、様々です。
「そうでない人」に対しては、最初から心構えがあるからいいとして、いや、よくもないですが、仲がいいと思っていた人からの門前払いは堪えます。
仲がいいからこそ、顔を合わせて断ることができなかったのかもしれませんね。
でもサンドラは傷つきます。
かと思えば、サンドラに謝罪して、「きみに投票する」と言ってくれる人もいました。
サンドラの顔に笑みが浮かびます。
このときのサンドラは、雲の上を歩いている気分だったでしょう。
しかし、別のところでは、サンドラが訪問したことで親子喧嘩が勃発します。
父も息子も、サンドラの同僚です。
そして息子のほうはサンドラの頼みに激怒し、彼女に殴り掛かろうとします。
息子は、咄嗟に止めに入った父を殴りつけ、そのまま逃亡。
父はサンドラへの投票を約束してくれましたが、サンドラの気分は最悪のぐちゃぐちゃです。
まあね、自分のせいで親子が殴り合いになったのですからね。
しかし、あの息子、なんと度量の小さいことか。彼の度量はお猪口並みですな(怒)
サンドラはそれでも生活のためと思い、夫にも鼓舞され(この夫…)、お願い行脚を続けます。
しかし今度は、アンヌという同僚が夫婦喧嘩を始めます。サンドラも、アンヌの夫から厳しい口調で罵られました。
これで、サンドラの中で何かが切れてしまい、彼女はおもむろに、一箱分の薬を飲んでしまうのです。
その直後、アンヌがやってきて告げます。
「あなたに投票する」
私、不謹慎ながら笑ってしまいました。
いや~、現実って、悲惨であればあるほど、滑稽だったりしますよね。
でも、ご安心ください。サンドラは無事でした。しかも逆に、闘志がわいてきたようです。
ただアンヌは、今回の夫婦喧嘩で離婚を決めてしまいました。
なんてこと!?
……まあ、でも、今回のことはキッカケにすぎなかったのでしょうから、本当に離婚するにしても、遅かれ早かれ、ということだったのかな?
そういうことにしておこう……。
この時点で日曜の夜ですが、闘志のわいたサンドラは行脚に復帰。
そして迎えた月曜日。
ネタバレになりますが、結果は…ダメでした。
サンドラは涙ながらに、支持してくれた同僚たちとハグします。
と思いきや、社長に呼び出されました。
意外にも社長はサンドラを褒めたたえます。
残念な結果にはなりましたが、半数がサンドラを支持し、投票したのです。
つまり、お金より、同僚との絆を取ったってわけです。
社長は感心したのか、あるいは、いつか、この女使えると思ったのか、サンドラを残留させてボーナスも出すと言いました。
ただし、2ヶ月待てと。2ヶ月後に臨時雇いしたヤツらの契約が切れるから、そうなったら戻ってきてくれと言いました。
自分の代わりに誰かがクビになるなら、お断りだ。それがサンドラの返事でした。
金曜日はただグズグズ泣いて、ジュリエットの背に隠れていただけのサンドラは、月曜の朝に社長と対峙し、はっきりと自分の考えを口にしたのです。
工場を出たサンドラは、夫に電話します。
仕事を探さないとと話すサンドラの顔は、うっすらほころび、外は晴れて、サンドラの足元には長い影ができていました。
これで映画は終わります。
サンドラは結局失業してしまいました。
しかし再投票の意味はありました。
最初に思ったとおり、試練を乗りこえ、サンドラは成長したのです。
初老の私は「やっぱりな~」と思いながらも、月曜日のサンドラに清々しさを感じて、よい気分になったのでした。
映画情報
製作国/ベルギー・フランス・イタリア
監 督/ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
出 演/マリオン・コティヤール/ファブリツィオ・ロンジォーネ
日本での公開は2015年です。
これはベルギーが舞台らしいですが、本当にこんな、同僚の間で投票…なんてあるのでしょうか?
もしサンドラが実在の人物で、この選挙が実際にあったとしたら、選挙後の職場では別のドラマが起きそうじゃないですか?
サンドラがいなくなっても、サンドラの影は職場に残りそうな気がします。
人の心は複雑ですからね。
こわ~……。
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