舞台は有名ファッション誌の編集部であり、そこで繰り広げられる、まるでスポ根物語のような映画です。
ファッション界という、きらびやかで華やかな世界に憧れる人は多いですよね?
ファッション誌の誌面作りに携わりたいと思う人も多いはずです。
しかし、この映画の主人公アンドレアは、ファッションにはまったく興味がありません。
なのに彼女の就職先はファッション誌の編集部なのです。
彼女のポジションが欲しい人からしてみれば、絶叫したいくらい腹が立つことでしょう。
というわけで、『プラダを着た悪魔』の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『プラダを着た悪魔』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
きらびやかなファッション誌の裏側にあるスポ根物語である!
この映画には原作の小説がありまして、原作者はあの有名な雑誌「ヴォーグ」の編集部にお勤めだったそうです。
ということで、この映画の舞台である「ランウェイ」編集部のモデルが「ヴォーグ」編集部であるということは想像できますね。
私は主人公のアンドレア同様にファッションには無関心なのですが、ヴォーグや女性向けファッション誌の、あのずっしりとくる高級感くらいは知っています。
中身はもう別世界で美しいですよね。
そのくらいは知っているのです、私でも。
で、アンドレアの知識もたぶんその程度だと思います。
彼女は彼女なりにファッションに興味があると思っていますが、もうね、次元が違うのですよ。
誰だって服は着るし、オシャレをしたい気持ちもあります。
でも世の中には服やオシャレに命をかけている人たちがいるってこと、その人たちが目の前にいるってことを、アンドレアは最初なかなか気付きませんでした。
まあ、初歩的なミスではあると思います。
彼女はまだ大学を出たばかりの生意気盛りで、自分に自信もある。
良い大学を出た後、望めば院へ行くこともできたのに、ジャーナリストになりたいという強い意志を持ってニューヨークに出てきたのです。
しかしジャーナリストだって狭き門です。いくら学歴が立派でも、社会に出れば経験のない若造の1人でしかありません。
で、ようやく彼女を採用してくれた会社は、「車かファッション雑誌のどちらか選んで」と言ってきて、彼女は車よりはとファッション誌を選んだのでした。
しかも生ける伝説と言われる鬼編集長・ミランダの下で1年働けば、どこででも通用すると言われ、「1年間がんばる!」と心に決めます。
しかし鬼と言われるのは伊達じゃなかったミランダ、彼女のワンマンぶりはすさまじく、アンドレアの名前を呼ぶこともせず、アンドレアの無知っぷりを意に介することもなく、怒濤の指示攻撃。
私は最初、(アンディ!ミランダに呼ばれたらメモ帳を持っていって!)と思って見ていたのですが、メモ帳を持っていったところで、「ガッバーナ」の綴りも分からないアンドレアですから、意味なかったかもしれません。
ミランダの鬼っぷりだけでなく、職場全体も超絶ブラックです。
朝は6時過ぎから、仕事の電話が第一アシスタントのエミリーから掛かってきます。
エミリーがアンドレアに仕事を押し付けて、楽をしようとしているのかと思いきや、エミリーはすでにオフィスにいて、そこから電話をしてきているのでした。
ランチタイムはエミリーでさえ20分、アンドレアは15分です。
夜は夜で、ミランダからハリケーンで飛行機が飛ばないからどうにかするようになんて電話がかかってきたりします。
さらにアンドレアを凹ませるのは、皆から見た目を笑われたり、奇異な目で見られることです。
面接の日、アソシエイト・エディターのナイジェルからは「なんてみっともない子だ」と眉を顰められますし、別の日、エミリーからはスカートを「おばあちゃんのお古」と言われます。
ちなみに、アンドレアは太ってはいないし美人です。特別野暮ったいわけでもありません。ただファッション界からみれば……というところです。
でもアンドレアは服装を変える気はありませんでした。
自分がランウェイにいるのは一時的なことで、本来ジャーナリスト志望であることは面接時に話しています。
しかし、ハリケーンの夜に飛行機の手配をすることができず、静かな口調でミランダにこき下ろされ、プライドをずたずたにされます。
みっともなくて太っていても、仕事はできると思ったのに失望した、という感じのことを言われたのです。
これはさすがにアンドレアにも響きました。キレたアンドレアはオフィスを飛び出します。
そしてナイジェルに不満をぶつけるのです。
「なぜミランダは私の努力を認めてくれないの!?」と。
で、ナイジェルから思い切り、きみは努力していないと返り討ちにあいます。
ファッションに重きを置かないという主義はいいとしても、ランウェイで働く限り、仕事に対する姿勢というものがありますよね。
それに社会に出ると、頑張ることは当たり前で、いちいち誉められることじゃありません。そんなこともまだアンドレアは分かっていなかったのです。
そこからのアンドレアは、ナイジェルから服や靴、鞄のサンプルを借りまくります。
ピンヒールを履いて、ミランダの無茶ぶりに全力疾走しているうち、ミランダに名前で呼んでもらえるようになり、まあ、とんでもないヘマをやらかしてヤケを起こしたりもしますが、なんとか乗り越えるアンドレア。
おかげでミランダからの信用は、第一アシスタントのエミリーを超えるものになっていきます。
そして、エミリーが心の底から楽しみにしていたパリ行きに、アンドレアが抜擢されたのです。
秋のパリはコレクション・シーズンで、当然ミランダは多くのコレクションに顔を出しますし、有名なデザイナーや編集者や様々な有名人に会うわけで、もちろんミランダのアシスタントも同行します。
これにエミリーでなく、アンドレアが同行するように、ミランダから直々に告げられました。
アンドレアは、いったんは断ります。
しかし上司命令ですから行くしかありません。なんて言うと悲壮感が漂いますが、アンドレアにとっては出世です。仕事としては悪い話ではないのです。
ただ、仕事がうまく回るようになっていくのとは逆に、私生活では同棲中の恋人ネイトとギクシャクしていて、このパリ行きが決定打となり、彼とはお別れとなってしまいました。
もちろんエミリーにも罵られ、傷心のままパリに旅立つアンドレアでした。
スポ根物語なら最後は清々しいと決まっております
ネイトとは破局、エミリーからは罵倒、友達も離れていってしまったアンドレアでしたが、これは仕方ないかなと思います。
その理由はネイトの言葉に集約されています。
「誠実に仕事をするなら君がストリッパーでもかまわない」
ワタクシ思わず、「それだ!」と指さして言っていましたよ。
パリ行きを「仕方ない」と言ってしまったアンドレア。いやまあ、アンドレアに選択の余地がなかったのは事実ですが。
「この仕事を踏み台にして、のし上がる」と思っていても、私は全然いいと思います。
ただ、というか、だったら「仕方ない」という言葉は口にすべきではなかったなぁと思うのですよ。
結局のところ、アンドレアには、すべては自分の決めたことという覚悟がなかったのですね。
その後、傷心のままパリへ到着したアンドレアですが、パリの街は美しく、コレクションやそこに集う人々の華やかさに気分も晴れます。
しかし、ここでも美しい舞台裏で様々な事柄が進行し、政治的思惑がうごめき、アンドレアはミランダのため、またもピンヒールで疾走するハメになります。
ただこれは、ミランダに命令されてではなく、自分自身の判断で、ミランダを助けるための行動でした。
ミランダを尊敬し始めたアンドレアがいたのでしょうね。
でもこの時、ミランダがナイジェルを裏切ったことで、アンドレアは自分の進むべき道はここじゃないと思い切ります。
ミランダにはミランダの、ナイジェルにはナイジェルの行く道があるように、アンドレアも自分の行くべき道に対する覚悟を決めました。
いや、でも本当に、ミランダもナイジェルもすごいな~と思います。
アンドレアがミランダに「誰もがあなたみたいになりたいと望んでいるわけじゃない」と言ったとき、ミランダは「ばか言わないで。みんなが望んでいるに決まってる」ときっぱり答えるのですよ。
言い切れるこの強さ、私には無理だ。羨ましすぎます。
ミランダに裏切られたナイジェルは、それでも「ミランダを信じよう」と答えます。私なら退職届を書いています。
さて、1年経たずしてランウェイを辞めたあと、新聞社の編集部で面接を受けるアンドレアの姿がありました。
この面接は、なんとミランダのアシストにより、合格となります。
映画の最後は、通りを闊歩するアンドレアの姿と、車の中でふっと笑い声をもらすミランダの表情が、実に清々しいのです。
この映画、たま~に、無性に、見返したくなる映画です。
なにせ清々しいスポ根物語なので。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/デヴィッド・フランケル
出 演/メリル・ストリープ/アン・ハサウェイ
日本での公開も2006年です。
原作となった小説の作者はローレン・ワイズバーガーさん。
映画と原作はちょこちょこ違うらしいです。映画向きに作られた部分もあるようなので、いつか小説も読んで比べてみたいなと思います。
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