この映画は、大きなハサミの手を持つ青年のお話です。
青年は手だけではなく、青年自身、すべてが人の手によって作られた人造人間です。
手だけが武器のようなハサミなのは、マッド・サイエンティストが世界征服をたくらんで青年を作ったから。
という訳ではなく、孤独な老発明家が、孤独を癒やすために青年を作り出しました。
発明家の孤独は青年が癒やしてくれましたが、青年の孤独は誰が癒やしたのでしょう?
というわけで、映画『シザーハンズ』の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『シザーハンズ』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
“ティム・バートンの世界”という名のスノードーム
この映画の監督であるティム・バートン氏は、たくさんの肩書を持つ人です。
ウィキペディアによりますと、映画監督、プロデューサー、脚本家、芸術家、そして元々はアニメーターだったそうです。
才能にあふれた人なのですね。
この場合の才能がなにかというと、確固たる自身の世界観を表す力ってことだと私は思います。
そして、『シザーハンズ』はまさに、ティム・バートンの世界がぎゅっと閉じ込められた映画なのです。
映画は雪の降る夜、祖母が孫娘に「なぜ雪が降るのか」という話をするところから始まります。
おとぎ話の始まりですね。
主人公はハサミの手を持つ人造人間の青年エドワード。
エドワードを発見するのはペグという、化粧品のセールス・レディです。
「ああ、今日はついてない(溜息)」という日が誰にでもあるものですが、ペグもちょうどそんな感じだったのです。
ペグは自分の住む町の友人たちの家を回りますが、化粧品はまったく売れません。
しかしペグは意欲あふれるセールス・レディですから、ふと目に止まった山の上のお城へ行ってみようと思いました。
このお城とペグの住む町の対比が、もう、おとぎ話です。
中産階級の中でも似たような人々が集まって暮らす町は、当時としてはそこそこ近代的で、しかし山の上のお城は前時代の遺物であり、さらには廃墟と化していました。
中へ入っても蜘蛛が巣をはり、その上に埃が積もり、屋根は一部抜け落ちています。
お化け屋敷の雰囲気てんこ盛りなのに、ペグは果敢に進んでいきます。
そして人造人間の青年エドワードを見つけるのです。
ペグは本当に前向きな人で、手がハサミという、とんでもない人間を家に連れ帰ってしまいます。
エドワードの手は、私たちが普段使う程度のハサミではなく、枝切りバサミのように大きな刃物です。
初めてエドワードを見たペグは、刃物を持った危険な人物だと思って逃げ出そうとしたほどでした。
しかし、エドワードは「行かないで」と呟くのです。
その時の彼の様子は、途方に暮れた子供のようでした。
エドワードは青年にしか見えませんが、ペグの「親御さんは?」という問い掛けにも、「眠って、そのまま」という拙い言葉を返します。
で、うちにいらっしゃい、となるわけです。
「え!?ペグって一人暮らしなの!?」と思ったのですが、夫も子供もいて、普通に一緒に暮らしています。
いやいや、子供はともかく、そんな変な人を連れ帰るなんて夫は許すまいと思うのですが、夫もすんなり受け入れちゃいます。
いい人なのか、能天気なのか、楽天家なのか。
町の女性たちの反応も、まあ、いい感じです。
ペグがエドワードを車に乗せて走っただけで、女性陣のネットワークで情報が行き渡ります。
時代的に、既婚女性には専業主婦が多く、ベッドタウンという感じの町において、ゴシップは最大の娯楽の一つなのでしょう。
彼女たちはすぐにペグの家へ押しかけ、エドワードを紹介するよう要求します。
女性陣だけでなく、男性陣も面白がってか、けっこう歓迎ムードです。
自分を作ってくれた発明家が亡くなり、孤独だったせいで、エドワードは戸惑いながらも町の人たちを受け入れていきました。
町で暮らし始めたエドワードは、植木の剪定に素晴らしい才能を発揮し、町の家々の庭に、恐竜や人型の巨大盆栽を完成させていきます。
そして、ヘアカットにもセンスのあるところを見せ、有名人になりました。
ここまではよかった。
初老の皆様なら、世間を知らず、子供のように純真無垢な人間が有名になったとしたら……あまりいい想像はできませんよね?
最悪だったのは、ペグの娘キムのボーイフレンドに、結果として犯罪者に仕立て上げられたことです。
そうなると、あれだけすり寄ってきていた近所のマダムたちも、くるっと手のひらを返して、エドワードをこき下ろすのです。
犯罪者と思われたなら致し方ないところもありますが、それでも変わり身の早さはコントのようです。
これがティム・バートンから見た世界です。彼にとって、世界はこんなふうに、不穏なコメディとして見えているのだと思います。
どこにでもある小さな町、どこにでもいる普通の人々、その人たちの明るさ・怖さがガラスドームの中で再現され、バートン監督の手でくるりとひっくり返されるのを待っているのです。
愛を知って孤独も幸せになる
何も知らず、孤独だったエドワードは、町にやってきてから短期間の間に、様々な感情を覚えることとなりました。
初めての家族や、友達とのふれあい。人に歓迎され、誉められる喜び。一転して人に悪意を向けられる悲しみ、怒り。
そして、愛ですよね。やっぱり。
エドワードは最初からキムに好意を抱いていました。キムは全然でしたけど。
キムにはすでにジムというボーイフレンドがいたのです。
しかし、このジムが最悪で、彼のせいで警察に捕まったエドワードは、何も言い訳せず一人で罪を被りました。
反対にジムは、エドワードに罪をなすりつけて平然としており、キムの気持ちはエドワードへと向き始めるのです。
でもね、結局エドワードは、普通の人間にはなれないのです。
だって手がハサミですから。どうしたって普通じゃありませんから。
クリスマスの日、ペグは例年通りクリスマスパーティーを開くことにして、ご近所のお友達を招待します。
しかし夜になっても誰も来ません。
ツリーの飾りつけをしていたキムは、ふと窓の外に白いものが舞っていることに気付きました。
庭に出てみると、エドワードが大きな氷で天使の像を彫っているところでした。
氷のカケラが雪のように降りそそぎ、キムはその下で踊ります。
それに気づかないエドワードは、梯子を降りるときに、誤ってキムの手を傷つけてしまいました。
さらには、暴走してきた車からキムの弟を助けるのですが、弟の無事を確認しようとして彼にも切り傷をつけてしまいます。
あっという間にご近所さんたちが集まり、吊るし上げられそうになったエドワードは城に逃げ帰りました。
エドワードは、キムも、キムの弟も、愛していたのです。
愛する人を傷つけずにはいない自分、そんな自分にエドワードは誰よりも傷ついていました。
結局、エドワードはお城に戻り、以前のような孤独な生活を送るしかありませんでした。
でも以前と違い、エドワードはたくさんの感情を知っています。
そしてキムの言葉、温もり、キスの記憶があります。
エドワードにとって、孤独はもう寂しいものではなくなったのです。
愛の記憶と、愛する人たちを傷つけずにすむ生活に、彼は喜びを見出したのではないかなと思います。
キムは年を取り、孫に昔話を聞かせていますが、エドワードは昔のままの姿で、今年もまた、小さな町に雪を降らせます。
キムには可愛い孫もいることから、それなりの人生を送ったのだとわかります。
でも、エドワードとキムは、どちらが幸せだったのか。
小さな町に降る雪は、ティム・バートンの手でくるりと回転させられたスノー・ドームなのだ、と私は思うのです。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/ティム・バートン
出 演/ジョニー・デップ/ウィノナ・ライダー
日本での公開は1991年です。
バートン監督は『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』というストップモーション・アニメの原案・製作を担当しています。
私はこの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』も好きなので、『シザーハンズ』も、ぜひ、ストップモーション・アニメで見てみたい。
というか、ストップモーション・アニメ向きですよね、『シザーハンズ』。
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