映画『グリーンブック』ネタバレ感想 愛すべき男の名前はトニー・ザ・リップ

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不覚にも、このトニーという男を、とても愛しく感じてしまいました。

最初はどんな嫌なやつかと思ったのですよ。

黒人を差別して当たり前という男だったのに、すんなりドクに慣れちゃって。

乱暴者だけど、すごく素直な人なんだな~と思ったのです。

というわけで、この映画の感想を熱く語ってみたいと思います。

「私もトニー好きだわ~」という方も、「気になっていたのに見てないのよ!」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m

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映画『グリーンブック』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。

1962年、ニューヨーク。ナイトクラブ・コパカバーナの用心棒を勤めるトニーは、ナイトクラブが2ヶ月間の改装期間に入り、その間の仕事を探していた。声をかけられた仕事の中で最も割がよかったのは、ドクター・シャリーという黒人ピアニストの運転手だった。クリスマスまでの8週間、ドクター・シャーリーはディープサウスでのツアーを行い、トニーはドクの運転手としてツアーに同行することとなった。

愛すべき男の名前はトニー・ザ・リップ

トニーは愛する妻と二人の子供とともに、ブロンクスで暮らしています。

イタリア系らしく親族間の関わりがとても蜜です。

みんな近所に暮らしているのか、しょっちゅう集まっては、食事したりしゃべったりしています。

そして息を吸うように黒人を差別しています。

トニーだけじゃなくて、親族の男性はすべてです。女性は、少なくともトニーの妻は差別意識を持っていないように見えますけど、言ってもムダだと分かっているようで、男性陣を諫めるようなことは言いません。

そんなトニーが期間限定とはいえ、黒人であるドクター・シャーリーの運転手になるのです。

妻のドロレスはもちろん、周りの男性陣も、だれも約束の8週間トニーがもつとは思っていませんでした。

でもトニーって、面白い人なんですよね。いつもフラットな状態というか、なんというか。

ナイトクラブの仕事が2ヶ月間休みになって収入がない。家賃が払えない。金がいる。黒人の運転手をやる。ノープロブレムだ。

すんなり、こういう考えができる。

もちろん、いい気はしなかったでしょうね。最初はドク(ドクター・シャーリー)の身の回りの世話もしてほしいと言われていましたが、そこは断りました。

でも、黒人の世話はできないというより、女の真似事なんかできるかっていう感じだったのではないでしょうか。

まあ、どちらにしろ差別的ですが、すごく分かりやすい性格をしています。

笑っちゃったのは、運転手仲間との賭けのシーンです。

ある金持ちの家でドクが演奏会をしている間、トニーは家の外で待っていました。

他の運転手仲間はみんな黒人です。白人であるトニーは、本来なら家の中に入ることができたのですが、ドクに言葉遣いや名前のことで助言を受けたのに、まったく受け入れる気がなく、外で待つはめになりました。

でもですね、黒人運転手たちと一緒に、トニーはギャンブルに興じて、一人勝ちの上機嫌ですよ。

すっごく楽しそうなトニーを見ていると、ちょ、おま、差別はどうした? 忘れてないか? って感じになります。

で、ドクに、膝に泥をつけて、小金を稼いで嬉しいかって言われて、少々傷つくトニーです。

私も、ドクのセリフは、ちょっとひどいな~と思ってしまいました。

でも、いつだって品位を忘れないようにしているドクにしたら、トニーに苛立つことも多かったでしょう。

しかしトニーは、そんなことを言われてヘコみはしても、また次の日から普通に運転手をしています。

そして、ドクのピアノを聞いて、素直に感動もします。ドロレスに送った手紙の中でも、ドクのことを天才だと書いていました。

なんというか、トニーの黒人への差別意識って、男の子が子供の頃に、女なんかと遊べるかよ~という、根拠もない差別と大差なく感じました。

実際に一人の、ドクという黒人と向き合ってみたら、自然と普通に接しているんですよ、トニーという人は。

ほんと、面白い人です。

トニーの名前は、トニー・ヴァレロンガと言いますが、トニー・リップという通り名もあります。

それをドクが「トニー・ザ・リップ」と言うシーンがあるのですが、まさに彼はトニー・ザ・リップだと思います。

要するに「はったり屋トニー」ということなのですが、南部でのツアーの最中も、黒人のドクにはトラブルがついて回ります。それをトニーは口先一つで回避していくのです。

まあ、もちろん銃を持っていることをチラつかせたり、お金を使ったりと色々ありますが、なんというか、威圧感とか嫌らしさとかを感じさせないのですよ。

「なあ、分かるだろ? お互いうまくやろうぜ?」って雰囲気を自然に醸し出すのです。

そんな感じでドクの懐にも滑り込む。

これって、もう才能ですよね?

ツアーが終わったあと、家に帰り着いたトニーに、親族の男性がドクのことを差別的な言い方で呼んだのですが、トニーはそんな言い方はやめろと言います。

言われたほうはびっくりして、反発もせず、分かったって答えるのですが、これもトニーという人の影響力かなって思います。

だってねえ、映画を見ている私だって、この最後のシーンの頃には、トニーが好きすぎるくらいになっていましたからね。

最初、ドロレスがトニーと別れていないのは、彼の暴力が怖いからかなと思っていましたが、彼は別れるには惜しい男だったわけです。

震えるほどの孤独の中で

イブの夜

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トニーが言うように、ドクター・シャーリーは天才です。

そして、これまたトニーが言うように、黒人でも金持ちです。

トニーの言いようは無神経でしたが、でも真実でもありました。

南部でのツアーは富裕層相手の演奏会でした。南部の田舎ものの富裕層が、こぞってニューヨークに住む天才の演奏を聴こうとしたわけです。

どこへ行っても大歓迎を受けるドクですが、ステージ以外でのドクは黒人としての扱いを受けます。

慇懃にもてなしてくれる上流階級の人たちも、ドクが自分たちと同じトイレを使うことなんて夢にも思っていません。

すごいですよね。ベタ誉めする一方で、人間扱いもしないのです。

ドクの心情はいかばかりでしょうか。

でも、ドクは自分の苦悩を誰に話したらいいのでしょう?

低賃金で働くしかない同じ肌の色の人たちに?

それとも、高度な悩みを理解してくれる白人に?

トニーは、自分のほうがよっぽど黒人だってドクに言います。要は自分のほうが生活苦だっていいたいわけです。

トニーの言い分はトンチンカンですけど、ドクの痛い部分も突いてしまった。

ドクは元々クラシックの勉強をしていて、アレサ・フランクリンさえ知りませんでした。

「才能があり社会的に認められた人」だけど、そのせいもあって、ドクはマイノリティ中のマイノリティにもなっていた。

ほんと、つらいですよね。しかも、つらいと言うことさえできない。

そんな中でも、ドクは品位を保って生きるんだって決意があった。

ツアーの最後の日、ドクは黒人御用達のレストランでクラシックをぶちかますのですが、かっこよかったですよ。

「我、ここにあり」って感じでした。

そして、その後、地元のバンドと一緒に演奏します。お客さんもノリノリです。

黒人しかいないレストランに入ったときは小さくなっていたトニーも、嬉しそうでした。

ドクは黒人差別に一石を投じるため南部へ行きました。しかし思った以上の差別がそこにあり、ドクとトニーは最後のステージを放棄したのです。黒人専用のレストランにいたのはそのためです。

この映画は1962年が舞台ですが、いまだに人種差別は残っています。

個人的な意見ですが、差別というものはなくならないと思うのです。なので、人種差別もなくならないし、消えない。

ただ、個人と個人の間なら、一対一なら、例外もあると思うのです。

ドクとトニーの間には、そんな例外というか、小さな奇跡が起きたんだろうな、と思うのです。

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映画情報

製作年/2018年
製作国/アメリカ
監 督/ピーター・ファレリー
出 演/ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ

日本での公開年は2019年です。

題名になっている『グリーンブック』とは、黒人のための旅行ガイドブックです。

この土地で、黒人の宿泊できるホテルはこことここです、とかね。

公然とした差別があって、こういうガイドブックも普通に受け入れられていたのですね。

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