見終わった後に、すっきり爽快になれるコメディ映画です。
公開当時、低予算で無名の俳優さんばかりだったのに、大きな話題となりました。
映画館2館での上映予定だったのが、あれよあれよと全国展開へ。
面白かったのは、「見たヤツ、これから見るヤツの前で、絶対に内容を話すべからず!」という通達が、知らない人同士でも広がっていったこと。
映画好きの連帯を見た気がしました(笑)
というわけで、この映画の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方は、ここまででお願いいたしますm(_._)m
映画『カメラを止めるな!』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
「早い・安い…」の中年だって譲れない瞬間があるのです
この映画の主人公である映像ディレクターの日暮さん。
主な仕事内容はバライティ番組の再現VTRだそうです。
時々はカラオケの映像なども作られるとのこと。
キャッチフレーズは「早い・安い・質はそこそこ」。腰も低くて、ちょっとした仕事も頼みやすい感じの方です。
でもね、もともとは映画監督を目指していたとか、やりたい仕事が他にあったのだろうと思います。
最初から再現Vの監督を目指したりはしませんもん。
いや、目指す人もいるかもしれませんが、かなりの少数派だと思われます。
監督は妻と、すでに社会人となった娘と暮らしています。
奥様は元女優です。すでに引退(追放されたという噂あり)していて、娘の真央は母の現役時代を知りません。
そんなわけで、ほぼ一馬力で、家庭を支えなければいけなくなった日暮氏。いつまでも夢を追っているわけにはいかなくなったのでしょうね。
家族のためなら、喜びを持って夢を捨てることもできたでしょうが、そのときの彼の気持ちを思うと、「つらかったなぁ」と肩の一つも叩きたくなるのです。
私には養うべき家族はいませんが、そんな私にも、意に染まない仕事をお金のためだけに、ずっと続けていくのだと悟った瞬間なんてものがあります。
そんなときの気持ちを言葉にするのは難しいです。
あえて言うなら、体がぺらぺらの薄っぺらになったように感じたというか、自分という人間の底を見て無気力感に襲われたというか……う~ん、難しい。
でも日暮さんは、家族のために、娘のために、意に染まない仕事も飄々とこなしていきます。
嬉しいことに、一人娘の愛娘は、かつての自分と同じ映画監督(たぶん)を目指すようにもなりました。
これは日暮さん、嬉しかったでしょうね。
しかし、娘さん、母親に似てのめり込むタイプなのですよ。
まだ駆け出しADの立場で、子役に「本物がほしいの!」なんて説教を始めて、結局クビにされてしまいます。
どうやら似たようなことを何度も繰り返しているようです。
そんな熱血娘なので、適当に仕事をこなしている父親に腹が立って仕方ないのでしょう、父親とは口もきかないし、陰でアイツ呼ばわりしています。
これはつらい……。
娘の気持ちも分かる。分かります。父親がとんでもない腑抜けに見えるのでしょうね。
でもね、父には父の言い分があります。父がプライドも何もかも、かなぐり捨てたからこそ、家族の生活は成り立っているのです。
ただ、この日暮氏、そんなことを声高に言う人ではありません。一人でひっそりと泣いていました。
そんな中での、無茶苦茶な条件のお仕事依頼です。カメラ1台のワンカットでゾンビ物の生中継。
いやいや、ムリムリ、となりますよね。日暮氏以前にも、散々断られた企画のようです。
しかし結局、そんな仕事を引き受けてしまった日暮氏。
ただ、幸か不幸か、ドラマの主演俳優が娘さんの推しだったのです。
当然、娘は喜びますよね? 撮影当日は奥様とともに見学にもやってきます。
でも、見学の申し出は奥さんを通してですし、現場に来たら来たで、父親そっちのけで推しばかり見ています。
ちょっと娘、ひどくない? と思っているうちに、事態は思わぬ展開を迎えて、家族間の問題どころではなくなるのです。
曲者揃いの役者たちが次々と問題を起こして、カメラ止める!? 止まっちゃう!? という瀬戸際の中、スタッフも監督も必死です。
必死に「カメラは止めない!」という目標に向かって邁進するわけですね。
そんな中で、つい素も出てきます。
最後のシーンを撮るのに必要なクレーンが壊れて、監督は困り果てます。
最後のシーンが取れないということは、なぜゾンビが復活したのかの説明がつかなくなるのです。
時間がない! そのシーン捨てましょう! とプロデューサーは言います。
「早くて安くて質はそこそこ」の監督ですが、そこだけは譲れなかった。捨てるなんてできなかった。その気持ちを勢いでプロデューサーにぶつけてしまいます。
場の空気はピキーン!!って凍りつきました。
プロデューサーは「作品より番組でしょ?」と言います。「誰もそこまで見てませんよ」とも。
そうなんですよね。監督自身、そう思って仕事をしてきたはずなのです。
でも熱くなっちゃった。
本当は監督だって、作品を大切にしたかったのです。だって自分の作品ですから。他の誰かが駄作だ、三流だと言ったって、自分の作品には愛があるのです。
監督が台本を床に叩きつけた瞬間、空気は凍ったものの、初老の私としては「よく言った!」と、またも監督の肩を叩きたくなったのでした。
どんな条件でも俺はやる! 伏線全回収の爽快感!(笑)
仕事とは、事前にどれだけ準備をしていても、いざ本番となると絶対になんらかの問題が出てくるもの、と思っています。
しかし、日暮氏が依頼を受けたドラマは、話がきた時点で1ヶ月前です。「いや、準備期間みじか!」と思うのは私だけでしょうか。
まあ、プロデューサーからしていい加減というか、適当でいいと思っている節があるのでね。
それでも現場の人は、どんな形であれ、完成はさせなくちゃいけないから大変ですよね。
映画『カメラを止めるな!』はまず、なんとか完成したドラマから始まります。
はい、無事に完成したのです。
しかし、「この変な間はなに…?」と思うシーン多数。
さらに、「同じことを繰り返しているだけ?」と困惑するシーンがあり、「ここからどんな展開が?」と思いつつ何も起こらないシーンがあり、「めっちゃカメラ目線やん…」というシーンがあります。
多数のモヤモヤしたものが残りつつも、ドラマは一応の完成をみます。
映画はその後、生放送の裏側であったことを見せてくれ、ドラマの視聴者であった私のモヤモヤも一気に吹き飛びます。
伏線を一つ残らず回収し、疑問にも思わなかったラストシーンの、本当の大変さも分かります。
これってメイキング映画と言ってもいいのでは?
あのシーンの裏側は実はこうなっていた! と疾走感を持って味わえるのです。
よくあるパターンで、映画の最後にメイキング映像が流れることがありますよね?
『カメラを止めるな!』でも本物の(笑)メイキングが流れるのですが、当然、本物のスタッフの撮影風景が流れるわけで、「え? この人たち誰?」ってなりました。
一粒で二度美味しい的なお得感がありましたよ。(笑)
さて、ドラマは役者・スタッフ・日暮家が一丸となり、ラストシーンに向かい怒濤のごとく邁進します。
ドラマの進行とともに、日暮家の確執も和解へと進んでいくように見ました。
和解まではいかないかもですが、このドラマ以降、父と娘の関係には、なにかしらの変化があるのではないだろうかと、期待を持ちつつ、爽やかな気分で映画を見終わるのでした。
映画情報
製作国/日本
監 督/上田慎一郎
出 演/濱津隆之/真魚/しゅはまはるみ
この映画、俳優等の養成所であるENBUゼミナールのシネマプロジェクトなるものの制作だそうです。
なので役者さんたちは無名の方ばかりだし、予算も少なめ。
もともとの上映館は2館のみ。
それが今では続編もあり、2022年にはフランスのリメイク版『キャメラを止めるな!』も公開となりました。
成功物語ですね。こういう話は何度でも聞きたいものです。
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