映画『カメラを止めるな!』ネタバレ感想 「早い・安い…」の中年だって譲れない瞬間があるのです

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見終わった後に、すっきり爽快になれるコメディ映画です。

公開当時、低予算で無名の俳優さんばかりだったのに、大きな話題となりました。

映画館2館での上映予定だったのが、あれよあれよと全国展開へ。

面白かったのは、「見たヤツ、これから見るヤツの前で、絶対に内容を話すべからず!」という通達が、知らない人同士でも広がっていったこと。

映画好きの連帯を見た気がしました(笑)

というわけで、この映画の感想を語ってみたいと思います。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方は、ここまででお願いいたしますm(_._)m

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映画『カメラを止めるな!』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

廃墟となった浄水場で行われていたゾンビ映画の撮影は、偏屈な監督のこだわりにより行き詰まっていた。業を煮やした監督は血の呪文で本物のゾンビを召還。撮影スタッフは襲われ、次々とゾンビになっていく。というドラマを作ることになったディレクターの日暮。ドラマは生放送で、カメラ1台を一度も止めないワンカットで撮るという、無謀な設定なのであった。

「早い・安い…」の中年だって譲れない瞬間があるのです

この映画の主人公である映像ディレクターの日暮さん。

主な仕事内容はバライティ番組の再現VTRだそうです。

時々はカラオケの映像なども作られるとのこと。

キャッチフレーズは「早い・安い・質はそこそこ」。腰も低くて、ちょっとした仕事も頼みやすい感じの方です。

でもね、もともとは映画監督を目指していたとか、やりたい仕事が他にあったのだろうと思います。

最初から再現Vの監督を目指したりはしませんもん。

いや、目指す人もいるかもしれませんが、かなりの少数派だと思われます。

監督は妻と、すでに社会人となった娘と暮らしています。

奥様は元女優です。すでに引退(追放されたという噂あり)していて、娘の真央は母の現役時代を知りません。

そんなわけで、ほぼ一馬力で、家庭を支えなければいけなくなった日暮氏。いつまでも夢を追っているわけにはいかなくなったのでしょうね。

家族のためなら、喜びを持って夢を捨てることもできたでしょうが、そのときの彼の気持ちを思うと、「つらかったなぁ」と肩の一つも叩きたくなるのです。

私には養うべき家族はいませんが、そんな私にも、意に染まない仕事をお金のためだけに、ずっと続けていくのだと悟った瞬間なんてものがあります。

そんなときの気持ちを言葉にするのは難しいです。

あえて言うなら、体がぺらぺらの薄っぺらになったように感じたというか、自分という人間の底を見て無気力感に襲われたというか……う~ん、難しい。

でも日暮さんは、家族のために、娘のために、意に染まない仕事も飄々とこなしていきます。

嬉しいことに、一人娘の愛娘は、かつての自分と同じ映画監督(たぶん)を目指すようにもなりました。

これは日暮さん、嬉しかったでしょうね。

しかし、娘さん、母親に似てのめり込むタイプなのですよ。

まだ駆け出しADの立場で、子役に「本物がほしいの!」なんて説教を始めて、結局クビにされてしまいます。

どうやら似たようなことを何度も繰り返しているようです。

そんな熱血娘なので、適当に仕事をこなしている父親に腹が立って仕方ないのでしょう、父親とは口もきかないし、陰でアイツ呼ばわりしています。

これはつらい……。

娘の気持ちも分かる。分かります。父親がとんでもない腑抜けに見えるのでしょうね。

でもね、父には父の言い分があります。父がプライドも何もかも、かなぐり捨てたからこそ、家族の生活は成り立っているのです。

ただ、この日暮氏、そんなことを声高に言う人ではありません。一人でひっそりと泣いていました。

そんな中での、無茶苦茶な条件のお仕事依頼です。カメラ1台のワンカットでゾンビ物の生中継。

いやいや、ムリムリ、となりますよね。日暮氏以前にも、散々断られた企画のようです。

しかし結局、そんな仕事を引き受けてしまった日暮氏。

ただ、幸か不幸か、ドラマの主演俳優が娘さんの推しだったのです。

当然、娘は喜びますよね? 撮影当日は奥様とともに見学にもやってきます。

でも、見学の申し出は奥さんを通してですし、現場に来たら来たで、父親そっちのけで推しばかり見ています。

ちょっと娘、ひどくない? と思っているうちに、事態は思わぬ展開を迎えて、家族間の問題どころではなくなるのです。

曲者揃いの役者たちが次々と問題を起こして、カメラ止める!? 止まっちゃう!? という瀬戸際の中、スタッフも監督も必死です。

必死に「カメラは止めない!」という目標に向かって邁進するわけですね。

そんな中で、つい素も出てきます。

最後のシーンを撮るのに必要なクレーンが壊れて、監督は困り果てます。

最後のシーンが取れないということは、なぜゾンビが復活したのかの説明がつかなくなるのです。

時間がない! そのシーン捨てましょう! とプロデューサーは言います。

「早くて安くて質はそこそこ」の監督ですが、そこだけは譲れなかった。捨てるなんてできなかった。その気持ちを勢いでプロデューサーにぶつけてしまいます。

場の空気はピキーン!!って凍りつきました。

プロデューサーは「作品より番組でしょ?」と言います。「誰もそこまで見てませんよ」とも。

そうなんですよね。監督自身、そう思って仕事をしてきたはずなのです。

でも熱くなっちゃった。

本当は監督だって、作品を大切にしたかったのです。だって自分の作品ですから。他の誰かが駄作だ、三流だと言ったって、自分の作品には愛があるのです。

監督が台本を床に叩きつけた瞬間、空気は凍ったものの、初老の私としては「よく言った!」と、またも監督の肩を叩きたくなったのでした。

どんな条件でも俺はやる! 伏線全回収の爽快感!(笑)

親子で肩車

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仕事とは、事前にどれだけ準備をしていても、いざ本番となると絶対になんらかの問題が出てくるもの、と思っています。

しかし、日暮氏が依頼を受けたドラマは、話がきた時点で1ヶ月前です。「いや、準備期間みじか!」と思うのは私だけでしょうか。

まあ、プロデューサーからしていい加減というか、適当でいいと思っている節があるのでね。

それでも現場の人は、どんな形であれ、完成はさせなくちゃいけないから大変ですよね。

映画『カメラを止めるな!』はまず、なんとか完成したドラマから始まります。

はい、無事に完成したのです。

しかし、「この変な間はなに…?」と思うシーン多数。

さらに、「同じことを繰り返しているだけ?」と困惑するシーンがあり、「ここからどんな展開が?」と思いつつ何も起こらないシーンがあり、「めっちゃカメラ目線やん…」というシーンがあります。

多数のモヤモヤしたものが残りつつも、ドラマは一応の完成をみます。

映画はその後、生放送の裏側であったことを見せてくれ、ドラマの視聴者であった私のモヤモヤも一気に吹き飛びます。

伏線を一つ残らず回収し、疑問にも思わなかったラストシーンの、本当の大変さも分かります。

これってメイキング映画と言ってもいいのでは?

あのシーンの裏側は実はこうなっていた! と疾走感を持って味わえるのです。

よくあるパターンで、映画の最後にメイキング映像が流れることがありますよね?

『カメラを止めるな!』でも本物の(笑)メイキングが流れるのですが、当然、本物のスタッフの撮影風景が流れるわけで、「え? この人たち誰?」ってなりました。

一粒で二度美味しい的なお得感がありましたよ。(笑)

さて、ドラマは役者・スタッフ・日暮家が一丸となり、ラストシーンに向かい怒濤のごとく邁進します。

ドラマの進行とともに、日暮家の確執も和解へと進んでいくように見ました。

和解まではいかないかもですが、このドラマ以降、父と娘の関係には、なにかしらの変化があるのではないだろうかと、期待を持ちつつ、爽やかな気分で映画を見終わるのでした。

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映画情報

製作年/2017年
製作国/日本
監 督/上田慎一郎
出 演/濱津隆之/真魚/しゅはまはるみ

この映画、俳優等の養成所であるENBUゼミナールのシネマプロジェクトなるものの制作だそうです。

なので役者さんたちは無名の方ばかりだし、予算も少なめ。

もともとの上映館は2館のみ。

それが今では続編もあり、2022年にはフランスのリメイク版『キャメラを止めるな!』も公開となりました。

成功物語ですね。こういう話は何度でも聞きたいものです。

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