SF、カンフー、コメディ、いろんな要素が盛りだくさんの、でも最後は「愛だろ愛」的な映画です。
SF警察の方々からしたら、「SFじゃなくてファンタジーの範疇よ!」と言われるのかもしれません。
あと、時間が2時間以上と長いです。
でも、そんなこたぁ気にせず、頭を空っぽにして楽しめばいいのです。
というわけで、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の感想を語ってみたいと思います。
「主演のミシェル・ヨーって人、『ウィキッド ふたりの魔女』にも出てるよね~」という方も、「旦那役の人、ジャッキー・チェンに似てる~」と言う方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
カンフー入りSFコメディと見せかけて実は哲学的映画?
始まりは、実に所帯じみたシーンから始まります。
アメリカの中国人家庭が舞台ですが、物にあふれ返った台所が妙に懐かしく感じられます。
そして、余裕がなく、きりきり舞いしているエヴリンにも、なんだか親しみがわきます。
仕事のこと、子供のこと、親の介護のこと、いろんなことに手一杯で、自分がギスギス・キリキリしていることにも気づけない。
そう、他人が同じ状況に陥っているときは、「肩の力抜きなよ~」なんて言えますけど、自分のこととなるとそうはいきませんからね。分かる分かる。
で、ギスギス・キリキリ状態のエヴリンを見ていると、コインランドリーの経営は大変なのだろうなと思われます。それなのに国税局から監査が入り、難癖をつけられます。
いや、難癖ではなく正当な指摘なのですけど、四苦八苦しながら家族経営している店なんて、少しくらい見逃してくれてもいいじゃん…と思ってしまう。
それはエヴリンも思うところで、国税局の監査官である女性・ディアドラに、ついつい、ふざけた言い方をしてしまうのです。
そして心証を悪くする。いかんですね~。
こう書くと、現実味あふれたお話になりそうですけど、国税局に着いた頃から夫の様子がおかしくなります。
夫のウェイモンドが夫でなくなります。
なんのこっちゃ、ですよね。
でも事実なのです。ウェイモンドはウェイモンドなのですが、別の世界線にいるウェイモンドで、別人なのです。
所帯じみた話から、いきなりのSF展開です。
別世界のウェイモンドが言うには、この世には無限の多元宇宙があり、自分はその中の一つの宇宙“アルファ”から来たと言います。
なぜ別の宇宙にいるはずのウェイモンドがやってきたのか。
実は今、全宇宙が消えてなくなる危機にあり、その危機を救えるのはエヴリンだけと、助けを求めてやってきたのです。
そして、アルファからやってきたのはウェイモンドだけではありません。
アルファのディアドラもやってきて、混乱したエヴリンはこちらの世界の、本物(?)のディアドラを殴ってしまいます。
そこからはもう、多元宇宙だかパラレルだか、とにかく色々な世界が入り乱れて大乱闘です。
で、さすが中国人のエヴリンやウェイモンド、別次元にはカンフーの達人となった自分がいて、その能力を駆使して“面白・かっこいい・カンフー”を見せてくれます。
もちろん、このウェイモンドはアルファのウェイモンドで、この人のことはアルファ・ウェイモンドと呼びます。
アルファの人達は、別次元の自分の力を利用することができます。
その方法をエヴリンにも伝授し、そのためエヴリンも、別次元でカンフーの達人となった自分の力を得ることができたのですね。
が、しかし、なのですよ。
別次元の自分とシンクロした瞬間、エヴリンは別の人生を生きる自分を見ることにもなりました。
その世界での自分は、キラキラと輝いていました。
あの日、あの時、別の選択をしていたら……。そんな妄想を誰もがしたことがあると思いますが、“たられば”を語ったところでどうにもならんわ~、となるのが普通です。
でも、そんな“たられば”がリアルとなった世界を知ってしまったら、人はどうなるのでしょう?
エヴリンは、「あちらの人生を生きることができる?」とアルファ・ウェイモンドに訊ねます。
まあ、そうなりますわな。
しかしアルファ・ウェイモンドは驚愕して、断固拒否します。そんなことをすればエヴリンは崩壊してしまうそうです。
「あら大変!じゃあ無理ね」とならないのが人間の不思議ですよ。
もちろんエヴリンは諦めるのですが、それは自分の崩壊が恐怖だからというより、それどころじゃなかったことが原因かと思われます。
強大な悪“ジョブ・トゥパキ”が全宇宙を破壞しようとし、そうするには邪魔になるだろうエヴリンを消すためにやってこようとしていました。
ジョブの思い通りになれば、エヴリンが輝いている世界もなくなるのです。
で、すべての宇宙を消滅させようとしている“ジョブ・トゥパキ”は、エヴリンとウェイモンドの娘、ジョイでした。
もちろん別世界のアルファ・ジョイです。
別世界のジョイなのですが、実のところ、別かどうかなんて関係ありません。
こちらの世界のジョイとエヴリン、アルファ・ジョイとアルファ・エブリン、どちらも親子関係がうまくいっておらず、分かり合えなくて、葛藤があったのです。
ただ、ジョブ・トゥパキとなったアルファ・ジョイは、こちらのジョイとは比べ物にならないくらい怖い存在になっちゃってます。
アルファ・ジョイは、言ってしまえば、神のような存在です。彼女は全宇宙を自在に行き来できるし、ブラックホールも作れるし、宇宙を破壊することなんて楽勝なのでしょう。
だったら、もっと、世界がより良くなるように力を使えばいいと思うのですが、アルファ・ジョイとしては「そんなことしてどうなるの?」というスタンスです。
「なにをしたところで、最後はすべて無に帰すのに?」という方向にいっちゃったのですね。
生きることに意味はないと思ってしまった人に、明確に、理路整然と、納得できる答えを提供できます?
たぶん無理です。
だからって、「みんなで無に帰そうよ」って言われて、「はい、そうしましょう」とは言えません。
そんなこと言われたら、心の底から嫌だなって思います。ジョブ・トゥパキだろうと神だろうと、上から目線で、「意味ないから、あんたの人生終了ね~」なんて、言われる筋合いはありません。
この映画、宇宙だ異次元だベーグルそっくりのブラックホールだと、面白そうなものが次々出てくる奇抜さなのですが、実は、人生とは、家族とはっていう、普遍的な問題を考えさせられるようになっている映画なのですね~。
最後に愛は勝てるのか?
さて、アルファ・ジョイに、答えようのない問題をつきつけられてしまったエヴリン。
「この人生で勝とうが負けようが、なんの意味があるの?」
「どうせ命はいつか終わってしまうのに?」
「また新しい人生を生きたところで、同じことの繰り返し」
「意味なくない?」
まあね~。意味ないよね~。
アルファ・ジョイの言葉は一つの真実です。しかもエヴリンの現実は辛いことばかりです。
一瞬、エヴリンはアルファ・ジョイの考えに引き込まれかけました。
でも、それじゃ、やっぱり納得できないのです。
エヴリンを虚無の世界から引き戻したのは、ウェイモンドの優しさと、エヴリン自身の、娘に対する愛でした。
親に反対されてもウェイモンドを選んだことに意味はないのか?
成長したジョイとは分かり合えないことが多くなったけれど、愛は消えてしまったのか?
いやいや、そんなこと、あるわけないじゃないですか。
エヴリンは自分を取り戻し、エヴリンの愛は各方面に広がって、無限の宇宙が救われたのでした。
映画のシーンは、冒頭と同じ、物にあふれた台所に戻ります。
冒頭ではカリカリしているエヴリンがいるだけでしたが、最後は家族が揃っていました。
もう一度チャンスがもらえて、家族で国税局へも出直しです。
今回の申告はうまくいきそうではあります。しかし、まだ合格はもらえていません。
とんでもないピンチを愛によって切り抜けたエヴリン達ですが、一番の強敵である税金が、実はまだ控えていたのですね。
これこそ、家族に離散をもたらす最大の悪かもしれず、エヴリンたちが無事勝ち抜くことを、愛は税金にも打ち勝つのだということを、示してほしいものだと思うのでした。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート
出 演/ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー
日本での公開は2023年です。
異次元からやってくるアルファ・ジョイの服装が奇抜なのは当然としても、コスプレ感がすごいです。
村上隆風の衣装とか、大好きです。
あとですね、この映画のカンフーは、もちろん基本ちゃんとしたカンフーなのでしょうが、笑える設定が多々ありまして、ウェイモンド役の人がジャッキー・チェンに似ていることもあって、ジャッキー氏を思い出しておりました。
そうしたら、エヴリン役のミシェル・ヨーは、ジャッキー主演の『ポリス・ストーリー3』に出ていたそうですよ。
さすが~。
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↓どうしたってミシェル・ヨーがカッコいい映画

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