名作中の名作、名作のスタンダード、泣く子も黙る名作……
言い方はともかく、誰もが一度は、題名を耳にしたことがある映画ではないでしょうか。
この度、アマゾンプライムのお勧めで上がっていたので、久しぶりに見てみました。
相変わらずガツンとくる映像でした。
というわけで、『タクシードライバー』を語ってみたいと思います。
「私も若い頃、見たわ」という方、「なんとなく見てなかったなぁ」という方も、よろしかったら、ぜひお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(._.)m
『タクシードライバー』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。
どこにでもいる男の狂気
先に盛大なネタバレを書いてしまいますが、ベツィに振られたトラヴィスは凶行におよびます。
ベツィは、パランタインという大統領候補の選挙事務所で働いていました。
そのためか、ベツィへの、世間への、自分の置かれた状況への怒りや不満、いろんな感情が、パランタイン狙撃へと向かわせるのです。
このへんのトラヴィスには、賛否あると思いますし、私自身、変な方向にねじくれてしまったトラヴィスにイラッときました。
若い頃に見たときは、まったくイラつかなかったのに。ということは、年のせいか……。
そして、これも年のせいかもしれませんが、ベツィに振られるまでのトラヴィスには、抱き締めてあげたいほどに、切なさを感じます。
ベトナムから帰って来たトラヴィスはひどい不眠症で、戦場での経験がトラウマになっているのだろうなと思われます。
そして、貧しさと孤独に苛まれています。
彼のアパートの様子を見るかぎり、生きていくためのギリギリの生活といった感じです。
家族はおらず、友達や恋人がやってくる様子もない。
眠れないトラヴィスはポルノ映画館に行き、たまたま、そこの売店の女の子がいい感じで、声をかけます。
女の子を引っかけたいというより、人恋しさからという感じがします。
だけど、場所が場所だけに、女の子からはまったく相手にされません。
そりゃそうだ。
ポルノ映画館で声をかけられて、女性が警戒しないわけがない。ナンパするなら、せめてバーくらい行け、と思います。
思うに、トラヴィスは田舎の人です。田舎の人で、俗に言う“田舎者”です。
そして学歴もない。
それらのことが悪いとはいいません。
でも、そんな人が、知り合いもいない都会で、どんな目に合うのか。この映画の監督は、実に残酷に、現実を映しているのです。
一方、ベツィは? そして、ベツィの職場の人たちは?
トラヴィスは26歳です。ベツィや彼女の同僚のトムと、ほぼ同世代じゃないかと思われます。
ですが、ベツィたちはパリッとした服装で、清潔で明るい事務所の中、軽口を叩き合いながら仕事をしています。
トムはベトナムに行ったのでしょうか? 少なくとも戦争のトラウマを抱えているようには見えません。この先、トムは、ベツィのようなお嬢さんと結婚して、郊外に家を買い、子供を育てていく。普通といえば普通ですが、ミドルクラスの人生を歩む男です。
トラヴィスには、トムと同じ人生はありません。
本当なら、ベツィのような女性と付き合えるわけもない。世界が違うのです。
でもトラヴィスには、それが分からなかった。
ベツィも世間知らずというか、違う世界の人間に夢でも見たのか、トラヴィスのデートの誘いに応じてしまう。
もし、トラヴィスが貧しくとも、頭が良いか、もっと純粋に世間知らずの良い人であれば、ベツィと付き合うことができたかもしれない。
でもトラヴィスはベツィの同僚をこき下ろしてしまうし、映画はポルノを選んでしまうし、散々です。
ベツィがなぜ自分を嫌ったのか、トラヴィスには一生分からないでしょうね。
ただ悩む。悩んで、運転手仲間の男性に相談を持ちかけます。
このシーンがね、本当に、トラヴィスを抱き締めたくなるのですよ。
彼は自分の悩みさえ、言葉にすることができなかった。
言葉にする術を知らないのです。
そして、相談する相手を間違っています。現状を変えたいのに、同じ場所にいる仲間に相談したって、期待する答えなんて返ってきません。
そんなわけで、ここからトラヴィスはおかしくなっていくのですが、トラヴィスという男は元々おかしな、狂気を孕んだ人間だったのでしょうか?
私は、彼はどこにでもいる、普通の若者だったと思います。田舎にも都会にもいる、無知で、プライドがあって、自分なりの常識を持った青年です。
彼に、狂気に走る種がもともとあったのだとしたら、それは誰もが持っている類のものだと、私は思う。
追い詰められれば、誰だって信じられないことをしてしまう可能性はありますし、トラヴィスが特別凶暴な男だったわけじゃない。
どちらかというと、トラヴィスは優しすぎるくらいだったのではないでしょうか。
あえて言うなら、この、芯のない優しさが仇になった、ということが言えるかもしれません。
田舎へ帰るべきはアイリスではなくトラヴィスだった
もしトラヴィスがアイリスと出会うことがなかったら、トラヴィスの人生は変わっていました。
大統領候補を狙撃するつもりが、あえなく失敗。それはもう情けないほどに。
自分でも情けなかったのか、失敗したその日の夜、12歳のアイリスを食い物にする男たちを叩きのめしに行きます。
叩きのめすというか、銃を撃ちまくるわけです。
そして、優しい男の最後にふさわしくない終わり方を迎えるのです。
アイリスは家出少女で、男たちに利用され、春を売って暮らしていました。
そんなアイリスと知り合って、トラヴィスはまるで父親のように説教をしてしまいます。
アイリスはもちろん説得なんて聞き入れません。「なに? この頭の固いオッサンは」って感じかな。
「ウーマン・リブって知ってる?」なんて言って、アイリスはトラヴィスをからかいます。
ですが、12歳の少女が体で稼ぐ生活なんて、まともなわけがないし、学校へ戻れという説教は、実に正論です。
実に正論で、これはアイリスだけでなく、トラヴィスにも当てはまります。
なぜトラヴィスは両親の家に帰らなかったのでしょう。
彼が両親に送った手紙を見ると、トラヴィスは立派な仕事をし、立派な女性と付き合っていることになっています。
もしかすると、両親は、最近言うところの毒親でしょうか?
それにしたって、トラヴィスの価値観では、田舎に帰ったほうがニューヨークよりは生きやすいと思われます。
なにも親の家に戻る必要はないのです。実家のある場所の、ちょっと大きな町にでもアパートを借りて、知り合いや親戚に、仕事や女性を紹介してもらえばいい。
と、初老の私は思いますが、トラヴィスはまだ26歳で、自分にもチャンスがあるという期待が捨てられないのでしょうね。
そして、どうにもならない現実に、トラヴィスは荷物をまとめるより、銃を手に入れるほうを選びました。
銃を手にして、トラヴィスは、自分が大きくなった気がしたでしょう。
おろかだな…とは思いますが、若いうちは、こんなものかもしれません。
男たちを撃った後、トラヴィスは血まみれになってソファに沈み込みます。彼は永遠の眠りについたのでしょうか?
この後のシーンは、私は、彼の妄想じゃないかなと思いました。
最後の妄想がこれか……と思うのですが、これがトラヴィスの想像の限界なのでしょう。
この映画の監督は、とことん冷徹に現実を切り取ったのだなと思います。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/マーティン・スコセッシ
出 演/ロバート・デ・ニーロ/ジョディ・フォスター
日本での初公開年も1976年です。
久しぶりに70年代の映画を見ると、なんとも、濃さ(?)を感じました。
時代的背景が濃いせいでしょうね。
そして、スコセッシ監督が濃い。監督、とても濃ゆい、タクシーの乗客役で出演されております。なぜその役? と思ったのですが、致し方ない理由があった模様。
そして、アイリス役のジョディ・フォスターですが……超絶かわいい(笑)
ひどい役ですけど、一服の清涼剤ではありますね。
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