映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』ネタバレ感想 橙色の温かさと水色の冷たさと

ピーナッツバター シネマ手帖・洋画
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この題名の意味がなんなのか、すぐに分かる人がいたら天才だと思います。

私は全然わからずに、哲学的なことをコネくり回した映画かしら? なんて思っていたら違ってました。

『ピーナッツバター・ファルコン』って、プロレス大好き男子のリングネームなのです。

ぜんぜん強そうじゃないですよね?(笑)

というわけで、この映画の感想を語ってみたいと思います。

「見た見た~」という方も、「題名から内容が想像つかなくて見てないわ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただしネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m

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『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。

ダウン症のザックは20代であるにもかかわらず、老人の養護施設に入れられていた。ザックには、憧れのレスラーであるソルトウォーター・レッドネックが運営するレスラー養成学校へ入りたいという夢があった。もちろん、そんなことが許可されるわけもなく、ザックは施設を脱走する。脱走後にザックが隠れたのはタイラーのおんぼろ船で、タイラーは漁師仲間の漁具に火をつけて船で逃走。成り行きから、タイラーはザックとともに養成学校を目指すこととなった。

橙色の温かさと水色の冷たさと

不思議な色調の映画です。

淡い橙色の光に包まれているときもあれば、淡い水色に縁取られているシーンもあります。

私の目にそう映るだけ? ただの印象だとしても、私にはそう見えるのですから、私にとっては真実ですね。

暖かな色とひんやりした冷たい色が、それぞれのシーンを縁取ります。

この映画のテーマだなと、私は思う。

主人公のザックはダウン症の男の子で、たぶん、もうすぐ22歳です。

なのに老人ホームに入れられています。

理由は、役所の怠慢なんだろうな~。ザックが言うには、彼は家族に捨てられたそうで、それが本当なら、家族が干渉してこないダウン症の子のことを、誰が真剣に考えるのかというね……。

ザックには大好きなビデオがあって、ソルトウォーター・レッドネックというレスラーの試合を収めたものです。

その中で、ソルトウォーターは、自分が運営するレスラー養成学校の宣伝をしています。

ザックはそこに行きたいのです。

もちろん、施設職員の皆さんは耳にフタです。

そこでザックは脱走を試みます。おばあさんやおじいさんが協力してくれて、なんとか成功。

ザックに冷たい人もいれば、温かく接してくれる人もいるわけです。

ここにも「温かい」と「冷たい」がある。

でも、もしかすると、窓に嵌められた鉄格子を壊してくれた同室のおじいちゃんは、ザックのビデオをこれ以上見るのが嫌という理由で手伝ってくれただけかもしれません(笑)

これもまた、あるあるですよね。一人の人間の中にも、「温かい」と「冷たい」が混じり合っている。

おじいちゃんがザックを不憫に思うのも本当、ザックを鬱陶しく思うのも本当です。

そして、タイラーもまた、一言で言うには難しい人です。

脱走したザックを、成り行きとはいえ助けてくれたタイラーですが、彼は犯罪者でもあります。

同じ漁師仲間・ダンカンの蟹取りカゴを盗んで、最後には漁具に火をつけます。

ダンカンが言うには被害総額は1万2000ドルで、廃業の危機だそうです。

放火だなんて、なんと極悪非道なやつでしょう、タイラーは!

ですが、そのへんも、たぶん話を聞けば、タイラーに同情できる部分もあるのだと思います。

例えば、ダンカンが持っている蟹漁の免許は、もともとタイラーのお兄さんが持っていたものだったのかもしれません。

でもお兄さんが亡くなって、隙をつくようにして、ダンカンが免許をかっさらっていったのかもしれません。

合法の範囲内なのでしょうが、タイラーにしたら騙されたような感情が拭えなかったのかもしれません。

すべては憶測ですけど。

憶測が当たっていたとしても、タイラーのやったことは許されないことです。

そんな犯罪者のタイラーですが、ザックには優しい。

ザックにはレスラーになるという夢がありますが、なりたいのは悪役レスラーでした。

なぜかとタイラーが尋ねますと、自分は家族に捨てられたからだとザックは言います。

タイラーは静かに、でも熱く、ザックは悪くないのだと力説します。

二人が旅を続けていく間、タイラーはずっとザックを肯定し続けます。まるで兄か父のような献身さです。

そんなタイラーのおかげで、ザックはソルトウォーターに会うことができましたし、誰かの家の庭でやる試合にも出してもらうことができました。

ただ、現実に、目の前で他のレスラーが叩きのめされているのを見て、ザックは初めて恐怖を感じます。

そして、ここでも、ザックに冷たい現実を叩きつけるサムソンというレスラーがいます。

自分は慈善事業をやってんじゃねぇってなもんです。

まったくの素人であるザックをこてんぱんに叩きのめしてくれるのですが、これも、どこまでが本心なのか分かりません。

最後にはザックに投げ飛ばされてくれますし、すべてはザックのためにやってくれたことと考えるのは、うがち過ぎでしょうか?

そして、ザックがサムソンを投げ飛ばしたあと、その場に乱入してきたダンカンのため、試合の結果は吹き飛んでしまいます。

なので、試合後も、ザックがレスラーに憧れたままだったのかは分かりません。

夢みる少年は現実を知って、どうしたのでしょうね?

ラストは意外な方向へ転がってしまうので、その辺りは見ている人が想像するしかありません。

私の想像としては、レスラーの夢は消えたのかなと思います。

でも、たぶん、ザックは別の夢を手に入れたのではないでしょうか。たとえば、家族とか。

そうであってくれればいいな~という願望もこめて、私はそう想像します。

羊orオオカミ? 魂が決めるって?

様子をうかがう羊

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羊かオオカミか。

これは旅の途中で出会った盲目のおじさん・ジャスパーの言葉です。

ジャスパーはザックとタイラーを羊だと言いました。

2人はオオカミじゃない。ただ群れからはぐれた羊だそうです。

う~ん、いいんだか悪いんだか。

でも、タイラーって羊でしょうかね?

放火犯ですよ?

人間の善悪は魂で決まると、タイラーはザックに言いました。

でも、善の中の悪、悪の中の善もある。タイラー自身がその証拠です。

魂だって迷うのですよ、きっと。

タイラーに漁具を焼かれたダンカンは、タイラーを執拗に追いかけてきて報復しようとしますが、ザックに銃を突き付けられ退散します。

退散しながらダンカンは、金に困っているのはみんな同じだと言います。そう言ったときのダンカンは、とてもまともに見えました。

まあ、放火したタイラーが悪いので、執念深いダンカンにはぞっとしますが、彼が怒るのは間違いない反応ではあります。

つまり、ダンカンだって、悪人ってばかりじゃない。

一方、ソルトウォーターは最高に優しい羊でした。

彼がザックのために“ソルトウォーター”の衣装を身に付けてあらわれたとき、私は号泣してしまいました。

でもソルトウォーターの優しさは、思わぬ結果を招きます。

この映画は、2つの極端の間を行ったり来たりする映画のようです。

そのせいか、映画の終りには、つい裏を読みそうになって、最後のシーンが誰かの妄想のようにも思えるのですが、本当なのだと信じたい。

フロリダに向かうザックの表情はおだやかでした。

それが本当のことだと信じて、この映画を見終わりたいと思うのです。

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映画情報

製作年/2019年
製作国/アメリカ
監 督/タイラー・ニルソン/マイケル・シュワルツ
出 演/シャイア・ラブーフ/ザック・ゴッサーゲン/ダコタ・ジョンソン

日本での公開年は2020年です。

ザック役のザック・ゴッサーゲンは、ダウン症の俳優さんです。

彼を見ていると障害ってなに? と思ってしまう。

これからも時々、スクリーンで彼を見られるといいな~と思いました。

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