漫画を描き始めた女子高生と、かつて漫画少女だったおばあさんの物語です。
おばあさん役の宮本信子さんがとても上品で芯のあるおばあさんを演じてらして、近い将来、こんなおばあさんになりたいわぁと思う一方、女子高生役の芦田愛菜ちゃんが苦悩する姿は「いつか来た道」すぎて足バタものです。
というわけで、映画『メタモルフォーゼの縁側』の感想を語ってみたいと思います。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『メタモルフォーゼの縁側』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
かつての漫画少女たちへ。足バタ不可避の映画ですぞ
皆様、漫画はお好きでしょうか?
「学生時代は好きだったけどね~」ですとか、「漫画家になりたかったわ~」ですとか、「今でもたまに読むけど、ぱっと読めるものだけ」ですとか、色々おありかと思います。
では、どんなジャンルがお好きでした?
これも様々あると思われますが、この映画の主人公たちが好きなのはボーイズ・ラブ、略してBLというジャンルでございます。
75歳の雪さんにとって、それはまったく未知の世界で、たまたま目にした漫画がBL物でございました。
表紙の絵に惹かれてBL漫画を手に取り、深く考えず購入した雪さん。
そしてめくるめくボーイズ・ラブという世界へ入っていくのでした。
初老になると、この雪さんの柔軟性はすごいな~と感じます。
私なんて、もう新しいことを始めるのが億劫だったり、やってみてもすぐに飽きてしまったり。
年を取っても好奇心旺盛でいられる人は、心が健康もしくは若いんだな~と思います。
そして、本屋でアルイバイトをしているうららちゃん、高校2年生。
映画の前半はうららちゃんの、いわゆる陰キャぶりが描かれます。
なので前半は穏やかというか、正直、退屈に感じられるかもしれません。
うららが特別つまらない子だというわけではありません。普通の高校生です。特に問題もなく高校へ通い、アルバイトをしています。
ただ覇気がないのですよ。
うらら自身が自分をつまらないものと感じているように思います。
うららのクラスには英莉という美人でスタイルがよくて勉強もできて、うららの幼馴染みのイケメン君を彼氏にしている女の子がいます。
この幼馴染みのイケメン君は顔がいいだけではなく、いいやつでもあるのです。
英莉は天から二物どころか、これでもかってほど与えられているのです。
同じクラスにそんな女の子がいたら、まあ、僻んでしまうのも仕方ない。自意識がとんでもなく主張してくるお年頃でもありますしね。
「人は人!自分は自分!」なんて言ったところで、心にわいてくる黒いものは止められません。
で、そんなうららの楽しみはBL漫画を読むこと。
好きなことがあるのはいいことだと思うのですが、うららはBL趣味を羞じていて、誰かに話すことはもちろん、買ったBL漫画はダンボールに入れ、机の下に隠しています。
そんなうららが雪さんと知り合い、雪さんと喫茶店で初めて話すことになったとき、うららはテーブルに置かれたBL本を店員さんの目に触れないよう、咄嗟に隠します。
また、雪さんの口から屈託なく「BL」という言葉が発せられると、回りの目を気にした態度をとり、雪さんをしょんぼりさせてしまうのでした。
う~ん、うららの気持ちも分かるのですが、この年になると「気にせず楽しんじゃいなよ~」としか思えず、ちょっと退屈になってきます。
しかしです、雪さんの「うららさんは漫画、描かないの?」という問い掛けから、俄然、足バタモードへと突入していくのです。
うららは「私なんて全然!」「読むほうが好きなんです!」と言うけれど、本当にそうなのでしょうか?
私は描きたかったなぁ。
小学生の頃、一生懸命、自由ノートに漫画書いたなぁ。
ストーリーは好きな漫画のパクリだった気がしますけどね(笑)
話をうららちゃんに戻しますと、なんと、うららちゃん、漫画を書き始めるのですよ。しかも同人誌の即売会で、描いた本を売ることも決めちゃいます。
ど、どうした、突然!? 笑えるほどの行動力です。これも若さですね~。
でも、やっぱり不安で、即売会には雪さんを誘います。雪さんは二つ返事でOKですよ。
雪さん、誘ってもらったこともですが、うららが葛藤しながらも前に進もうとしていることが分かって嬉しかったのです。
その嬉しさ、分かります。分かりすぎるほど分かります~。
うららは漫画用の原稿用紙やペンなど諸々を中古で買い入れ、さっそく漫画を描き始めます。
これが想像以上にヘタクソ(笑)
うららの絵を見るだけで足バタ可能です。
本人も、「これを売るとか、正気か?」って自分にツッコミ入れてましたよ。
それでも、気合いを入れて原稿を仕上げます。
雪さんが先走って、本の印刷を印刷所の方に頼んでしまったので、きっちり締切りができたせいもあります。
このときの、うららの没頭具合がね、とても懐かしいのです。
必死で、本気で、回りが見えなくなるほど、やりたいことに没頭できた時間が私にもあったのですよ。
はるか昔のことですけどね~。足バタです~。
それに受験生がなにやってんだと、老婆心ながら見ていてハラハラもして、これも足バタ。
そして、そこまで頑張って作った漫画ですが、雪さんが腰痛で即売会に参加できなくなってしまい、そうすると臆病風に吹かれたうららも一人で出店する勇気を出すことができませんでした。
分かるけど~。
うらら、いいから! 失敗でいいから、行くんだ!出るんだ!
と、またもや足バタですよ。
うららは青春真っ只中で、青春とは、振り返ると足バタ不可避なものなのですね~。
夢中になれるものがある幸せ
うららちゃんの幼馴染みのイケメン君、紡クンと言いますが、彼がうららに「夢中になれるものがあって羨ましい」という趣旨の発言をします。
そうなんですよね。同じ歳でも、特別やりたいことがない子もいます。
それはまったく悪いことじゃないです。かえって、将来を現実的に考えられていいのではと思うこともあります。
それでも、紡の言葉に込められた羨望が痛いほど分かるのです。
紡クンの彼女のキラキラ女子・英莉ちゃんは留学したいという思いがあって、一生懸命勉強しています。
うららが羨む英莉ちゃんだって、しっかり努力しています。
うららは英莉ちゃんのことを「ずるい」と思ってしまうし、そう思ってしまう自分を嫌悪もしています。
だからこそ漫画を書く決意をした…部分もあるんじゃないかなと思います。
そして、自分でも思った以上に漫画に没頭してしまう。
紡クンの側には、やりたいことのある女子ばかりがいますね(笑)
そんな子たちばかり見ていると、「いいな~」と思う気持ちにもなりますよね。
そして、やりたいことを必死にやってきたはずの初老にしても、没頭する感覚をすっかり忘れてしまっていたので、うららや英莉の姿を見て、羨ましかったり、暖かい気持ちになったりするのです。
雪さんも同じ気持ちだったと思います。うららを励ます雪さんの言葉には、“いつか来た道”感が満載です。
雪さんは書道教室の先生なのですが、書道を始めたキッカケは字が汚い自分が嫌だったことや、気がつけば、そんな自分が指導する立場になっていたことをうららに語ります。
「人生には思いもかけないことがおこる」と雪さんが言うとき、私も「本当にね~」と共感しておりました。
考え方もそう、仕事もそう、善くも悪くも「まさかこんなことになるとは」ということ、人生にはあるあるです。
うららが将来漫画家を目指すのかどうか、それは分かりません。
でも、雪さんと出会って、無我夢中で漫画を描いたこと、そんな経験ができたことは、彼女の宝物になるかもしれないと思うのです。
そして、雪さんも。
一人暮らしの雪さんには娘がいます。娘は海外にいるのですが、母を心配して、一緒に暮らそうと何度も言っていたのです。
雪さんはその誘いをずっと断っていたのに、うららと出会ったあと、娘の住む地へと旅立っていきました。
うららと会ったことで、雪さんも変わったのです。
歳を取ると、「この歳になって……」という言い訳をしがちで、もちろん歳を取って知らない土地へ行くということは大変な選択だと分かっていますが、もともとが明るく前向きな雪さんですから、うららを励ます過程で自分を省みて、新しい土地で暮らす意欲がわいてきたのではないでしょうか。
新しい土地に行っても、雪さんとうららの交流が続いていることが最後のシーンで分かります。
そして、どうやらBL趣味も続いているようです。
でも、新しい土地で、雪さんなら、さらに新しく夢中になれるものを見つけるかもしれないな、と思えるのでした。
映画情報
製作国/日本
監 督/狩山俊輔
出 演/宮本信子/芦田愛菜
原作は鶴谷香央理さんによる同名の漫画です。
ウィキペディアによりますと、原作の『メタモルフォーゼの縁側』はwebで連載されていたそうです。
雑誌の「なかよし」とか「りぼん」とか「花とゆめ」とかじゃないのですね。
時代を感じるな~。
ちなみに“メタモルフォーゼ”とはドイツ語で変化、変身という意味だそうです。
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