室内劇・登場人物少数という、ただでさえ好き嫌いが分かれるのに、登場人物がクセ強すぎて、さらに好みが分かれるという映画です。
正直、私は、好きじゃないな~派なのですが、主人公を演じるのが、『ハムナプトラ』シリーズのブレンダン・フレイザーなのです。
好きだったのに、いつの間にか見なくなっちゃって。寂しく思っていたので、ぜひ応援したい。
というわけで、映画『ザ・ホエール』の感想を語ってみたいと思います。
「え? 好みじゃないのに応援になるの?」という方も、「それは触れない約束よ」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただし、いつも通りネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『ザ・ホエール』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
部屋から出よう!と反面教師的に教えてくれる映画
この映画は、主人公であるチャーリーの、人生最後の5日間を描いた映画です。
人生最後と聞くと、「なにかの病気?」と思われますよね?
まあ、病気っちゃ病気です。
うっ血性心不全で、症状はステージ3まで進んでいるようです。
映画の始まりである月曜日、チャーリーはさっそくあの世へ逝きかけていました。この後も、5日の間に、何度も逝きかけちゃいます。
親友で、チャーリーの面倒を見ているリズによると、「彼は来週にはいない」ということです。
その日、チャーリーの血圧を測ると、上は238で下は134でした。
いや、怖いわ、その数値。
リズは「救急車を呼びなさい!」と再三チャーリーに言いますし、これまでも言ってきました。
しかし彼は頑なに拒否します。
救急車や病院で請求される料金のことを気にかけていて、お金のことは大きな問題ですが、なによりチャーリーに治そうという意志がないのです。生きる希望がない。
どうですか? ここまで読んでイライラしません?
え? 希望をなくした理由が分からないから、イライラのしようがない?
なるほど、なるほど。
理由はですね、チャーリーには最愛の彼氏がいたのですが、その彼氏・アランが亡くなってしまったからですね。
かつてチャーリーは、アランとの生活を選び、自分の妻と娘を捨てました。
そうまでして選んだアランなのに、彼は自ら命を絶ってしまった。
そのため、チャーリーは生きる気力をなくし、いつしか体重は272kg、血圧は上で書いた通りとなったわけです。
いや、アランのことは同情申し上げますが、なぜ太る。しかも、なんでそこまで太れるのか。
もうね、チャーリーがソファーから立ち上がる様は、なんとも言えない迫力があります。背が高いから、よけいにそう思うのかも。
この映画の題名が『ザ・ホエール』ですけど、彼が立ち上がった姿は、まさにクジラのような圧迫感です。
世の中には、異様にクジラが好きだという方もいらっしゃいますよね。
確かに綺麗だったりしますが、私は恐怖心のほうがちょっとだけ勝ってしまいます。
大きいということは、それだけで荘厳だったり、恐怖だったりします。
チャーリーの娘はチャーリーの体を「おぞましい」と言いました。「おぞましい」も「怖い」の親戚みたいなもんです。
そして、病的な肥満というのは、見た目だけの問題ではなく、健康をも蝕み、四肢の欠損と変わりない不自由さをもたらします。
チャーリーはソファーから立ち上がるにも補助がないと立ち上がれませんし、何かを落としても、拾うことすらままならない。
そんな状態だから部屋から出ることもありません。
仕事は大学の講師ですが、授業はオンラインで、映像はカメラが壊れたことにしてオフ状態にしています。
買い物は、ほとんどリズがしているようです。
そして彼は、このまま、あの世へと行ってしまう。
ここまで読むと、こんな状況で1人寂しく人生を終えることがかわいそう…と感じられるかもしれませんが、私は…う~ん…本人が望んだことなのだから仕方ないかなぁと思ってしまうのです。
人の気持ちを変えることは至難の業です。チャーリーの気持ちを変えられるのは、亡くなったアランを生き返らせるくらいしかないでしょう。
もしかしたら、もっと早い段階で娘と会うことができていたら、と思わないでもありません。
でも、チャーリーの元妻であるメアリーが、娘に会わせることを拒み続けていたので、これまた、どうにもなりません。
いくら憎い元夫とはいえ、娘の権利を勝手に奪うのは母としてどうなの?とも思うのですが、元妻の気持ちも、まあ分かる。
離婚(もしくは単に別居?)したのは、チャーリーが男を作って逃げたからです。
当然、事前予告なんてないでしょうし、ある日、突然、夫が男と消えるのです。そりゃ、どうぞ好きなだけ憎んでくださいって感じです。
でもなあ、やっぱり娘に会わせないのは、娘に対してもひどい仕打ちになっていたわけで、そこはメアリーにも非があります。
で、娘のエリーはといえば、見事にひねくれてしまいました。これもね~、まあね~、仕方のないことですよね~。
自分はもう長くないと自覚したチャーリーがエリーを呼び寄せると、ひねくれまくった娘は、高校を退学寸前になっていました。
チャーリーは心底娘を愛していますし、彼女を助けようとします。
ですがエリーは、実の母親が“邪悪”と評するほど、ひどい悪意を他人に向けるようになっていました。もちろんチャーリーも例外ではないというか、彼こそ格好の標的です。
前述の、父に対して「おぞましい」なんてことも平気で言いますし、両親を自分のSNSでバカにするのも朝飯前。
チャーリーを救おうとやってくる宣教師のトーマスに対しても、トーマスの罪を、彼の実家や教会に暴露するという暴挙に出ます。
トーマスに関してだけは、その行為がトーマスの救いになったのでいいのですけどね。
でも母親のメアリーは、怒りと悲しみが限界っぽいです。
そんなところに、チャーリーが能天気に、「あの子は素晴らしい」的な発言しかしないとくれば、もうね。
チャーリー、空気読めなさすぎ。
そんなわけで、メアリーは怒り心頭なのですが、彼女は彼女で、もっと早くに娘を元夫に丸投げしちゃえばよかったのに~と思います。まあ意地があって、できなかったわけですが。
つまり、チャーリーの人生最後の5日間は、妻と娘と親友に怒鳴られ、責められる日々なのでした。
こう書くと、なんかコメディっぽいですね。笑わせる意図はまったくない映画なのですけどね。
チャーリーって、宣教師と話しているときは宣教師より“師”らしくて、さすが先生って感じだし、娘のことに関しては底抜けに前向きです。
だったら、アランのことに関しても、そんな彼の長所が発揮できればよかったのですけどね。
亡くなったアランは、もともと家庭に問題があって、心に傷を抱えている人でした。ゲイであることが問題を大きくし、最終的には自ら命を絶つ道を選んだのです。
う~ん。これはチャーリーだって、さすがに傷つくか。
生きる希望がなくなり、食べることだけが救いとなったチャーリー。
仕方ない。仕方ないとは思うけれども。
自分の人生が終わりになるという時になって娘の危機を知り、なんとか娘を助けたいと思いながらもタイムオーバーです。
繰り返しますが、これはコメディではありません。
結局のところ、人間いろいろありますが、さっさと切り替えて、引きこもっているなら、外に出て日光を浴びるに限ります。
この映画で、チャーリーはその真実を、体を張って見せてくれるのでした。
娘は邪悪か天才か
散々だったチャーリーの人生最後の日々ですが、実は最後の最後で、彼は喜びを得ることができました。
それは彼の最愛の娘であるエリーのおかげです。
でもエリーは、母親からは“邪悪”で、エリーがチャーリーのところに来たのは金のためとしか思われていませんでした。
まあ、エリーの日頃の行いからしたら、それも仕方のないことです。
エリーはチャーリーの姿をSNSに晒して、「彼が燃えたら地獄に脂の炎が渦巻く」と書いていました。
自分達の娘がどれほど邪悪か分からせるために、メアリーがチャーリーにそれを見せたのですが、チャーリーの答えは「彼女は文才がある」でした。
メアリーは呆れていましたが、親馬鹿チャーリーには通用しません。
エリーが12、3歳頃に書いた、『白鯨』についての感想文はチャーリーにとって宝物でした。
月曜日、発作を起こしたチャーリーは、偶然、飛び込みでやってきた宣教師のトーマスに、エリーの感想文を読み上げてほしいと頼みます。
彼は息を引き取る瞬間には、その感想文を聞きながら逝きたかったのです。
幸い月曜日はトーマスの前で逝くことを免れ、その後エリーに連絡を取ることになります。
しかし高校生のエリーは“邪悪”な存在となって現れました。
チャーリーに対する暴言もひどいですし、宣教師のトーマスに対しても、脅しをかけて言うことをきかせたりと、私も途中、この子はガチもんなのかな?と思いつつ見ておりました。
でもまあ、生まれつき邪悪な存在ということではなく、繊細で傷つきやすく、頭の良い子なので、納得できないことが多すぎて、悪い方向に突っ走ってしまったタイプなのだろうな~と予想。
それでも後戻りできない一線を越えていたら、邪悪以外の何者でもなくなってしまう。彼女はどうなる?どうする?と思っていたら。
最後の最後で、エリーは父の前で『白鯨』の感想文を朗読します。チャーリーにとって、これ以上望むべくもない最高の逝き方でしょう。
結局のところ、エリーは父に愛してほしかったし、そばにいてほしかっただけなのです。
残念ながらエリーは父を亡くしてしまうわけですが、父が自分をどれだけ愛していたか、これでもかと実感できたわけですから、救いとなったのではないかと思います。
一応はハッピーエンドで終わった…ということでいいのかな。
私がこの映画で一番気の毒に思うのは、チャーリーの親友であるリズなのですが、なんたって彼女はアランの妹です。
リズも、兄とチャーリーから解放されて、新しい人生を歩んでくれたらいいなと思います。
まあ、なんだ。狭い空間に閉じこもっているのは、心身ともによろしくないよ、という教訓が得られる映画なのでした。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/ダーレン・アロノフスキー
出 演/ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ
日本での公開は2023年です。
この映画の監督であるアロノフスキー氏は、映画『ブラック・スワン』の監督でもあります。
『ザ・ホエール』を見て、その事実を知ると、なるほど…と感じてしまった。
よろしければ『ブラック・スワン』も、合わせてどうぞ。
そして、今回、ブレンダン・フレイザー氏の応援になったかな~。なったらいいな~と思いつつ終わりにします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました\(_ _ )
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