日本の底辺に生きる家族を描いています。
家族の中には小さな子供もいて、子供に弱い私は、ずっと見ることのできない映画でした。
でも、悲惨さと同じくらい愛のある映画でしたから、泣くことなく鑑賞できました。
さすが、あちこちで絶賛されただけのことはありますな~、と、上から言ってみる。
というわけで、この映画の感想を語ってみたいと思います。
「昔から樹木希林さん好きだったわ~」という方も、「悲しいだけの映画は見たくないのよ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
これは決して、悲しいだけのお話ではないですよ。
ただし、ネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方は、ここまででお願いいたしますm(_._)m
『万引き家族』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。
善悪は溶け合うことなく混じり合う
溶け合わないのに、混じり合うとは、これいかに?
樹木希林さん演じる祖母・初枝を見ていると、そう感じてしまったとしか言いようがないです。
まずね、初枝は、なぜ治一家を同居させたのでしょうか?
この治一家、初枝とは血のつながりがありません。
というか、治一家というものはなく、みんな、まったくの赤の他人でした。
なぜ初枝は、この人たちを自分の家に引き入れたのでしょう。
初枝は独居老人ですから、「寂しかったから」「心細かったから」と、それっぽい答えはいくらでも出てきます。
家に来た民生委員の男性は、かつては地上げ屋と共謀して、初枝の家を取りに来ていたことが会話から分かります。
初枝には実の子供もいるようですが、彼らは影すら見えません。
この辺の事情から、なんとなく、赤の他人を引き入れていたことも理解できるような気はします。
初枝は口が悪いですが、子供たちの面倒を甲斐甲斐しく見たりします。りんの体に傷があるのを見つけたのも初枝です。
信代の妹(設定)の亜紀は、家族の中で初枝を一番信頼しています。
信頼というか、犬が飼い主に懐くように、懐いている感じですね。
まあ、懐かれるのは分かります。実の孫に接するように、初枝は亜紀に接していましたから。
でも、この懐きようはな~…と思っていたら、亜紀には亜紀の秘密があったわけです。
ちょっと話は飛びまして、亜紀以外の家族全員が万引きをしていたのですが、祖母である初枝の万引きが一番大胆です。
子供服を盗むのに、信代が「多すぎ」って言う量を試着室に持ち込みます。
そして、まったく悪びれず、「着せりゃいいのよ」と言ってのける大胆さ。
また、パチンコ屋で、隣の人の玉を盗むのにも、堂々かつ笑顔。
で、話を亜紀に戻しますが、このおばあさん、亜紀の両親からお金をもらっていました。
これ、亜紀にとっては、かなりの裏切り行為です。
亜紀は、実の家族とうまくいっていませんでした。
初枝が自分の家に来いと誘ってくれて、亜紀としては、初枝が自分の理解者だと思ったのでしょう。
だとすると、亜紀の、初枝への懐き方に納得がいきます。
でも、実は、初枝は亜紀の両親のところへ、毎月お金をせびりに行っていたのです。
初枝と、亜紀の父親の関係は複雑で、この父親からもらうお金を、初枝は慰謝料と口を滑らせたことがあります。
初枝の夫を、亜紀の父親の母親(つまり亜紀にとって本当の祖母)が略奪婚したようです。
亜紀の父からもらうお金は、彼の母親がやったことの慰謝料なのか、亜紀を預かっていることの迷惑料なのか、定かではありません。
ですが、亜紀の父親からお金を受け取っていたことは、亜紀にとって、大きな裏切りであることに違いはないです。
そして、初枝も、そのことは分かっていたんだろうと思います。
それでも、初枝は実に飄々と、涼しい顔でお金を受け取っているのです。
涼しい顔をして、実に悪い人です、初枝は。
でも、りんの傷に薬を塗ってやり、おねしょをしないようにと、塩を舐めさせてやるのも、初枝の本当の顔です。
事実を知る前とはいえ、亜紀が初枝に懐きまくったのも、初枝の偽りでない優しさに触れたからでしょうね。
初枝という人間の中に、悪といえる部分と、善といえる部分は確かにあり、それは溶け合うことなく、一人の人間の中に共存しているのです。
だから、初枝が亜紀や治たちを家に引き入れた理由が、「寂しかった」でも「みんな可哀相だった」でも「お金目当てだった」でも「(偽家族を)便利に使えるから」でも、そのすべてと言われても、納得できるのです。
家族を求めた男女の物語
まったくの赤の他人が、家族のふりをして暮らしている。
お金もなく、社会のセーフティネットからもこぼれ落ちて、這い上がることもできない人間同士がくっつき合っている。
まともな生活を送っている人から見たら、気味悪く、得体の知れない人たちだと感じられるでしょう。
でも、この家族の核となっていた治も信代も、ただの優しい人たちでした。
二人が、子供や老人に当たり散らすことは、一回もなかった。
ある夏の夜などは、縁側に面した居間で、治は子供たちに手品を披露。手品のタネを明かして、からかう信代。初枝は縁側に出て、ビール片手に見えない打ち上げ花火を眺めます。
家は平屋で、回りは高いマンションばかりですから、花火はまったく見えません。
初枝の隣に腰を下ろしながら、治は「風邪ひくぞ、くそババア」と声をかけます。
そして、「見えないでしょ?」と言いながら、家族全員が縁側に集まってくるのです。
すごく、いい家族だなと感じられます。
しかし、この時点で、治は仕事をしていないし、信代もパートをクビになっています。
この辺りから一家の崩壊が始まっていくのですが、治も信代も、まだ気付いていません。
いつかは、この生活にも終りが来る。それは分かっていたはずです。
治も信代も、自分たちの人生が破綻していることは、とっくに知っています。
でも、祥太とりんを拾い、もしかすると、このまま、親子としてやっていけると夢を見たのかもしれません。
窓から、道端で父子がサッカーをしているのを見た治は、ビニール袋をボールにみたてて、そこにいない祥太の名前を呼びながら、サッカーごっこを始めたことがありました。
それを亜紀が見て、笑っていましたけど。
私は笑えなかったなあ。
信代は警察で、刑事から、「子供たちは、あなたのことをなんて呼んでいた?」と訊かれて、泣いていました。
そのときの信代の目がね、とても奇麗でした。
本気で、祥太やりんとの、絆を信じていたのかもしれません。
でも、子供たちから「母」と呼ばれたことは、一度もなかったのです。
治と信代は、世間や子供たちから見ると加害者でしたが、幼かった頃の治と信代も、また親から暴力を受け、福祉の手の届かないところで生きてきたのです。
だからって罪を犯していいというわけじゃないです。もちろん。
ただ、そんな二人が、心の底から、家族を求めていたというお話だったのです。
信代の逮捕で、偽の家族は解体されます。
祥太は施設に行かされますが、りんは虐待していた親の元へと返されました。
映画の最後で、りんは、やはり家から閉め出されて、アパートの廊下で一人遊んでいました。
結局のところ、りんを一番思いやっていたのは、偽の家族のほうでした。
りんが大人になったとき、自分を大切に思ってくれた人たちがいたということを覚えていたら、彼女の人生は、信代とは違うものになるんじゃないのかな~、と思うのです。
映画情報
製作国/日本
監 督/是枝裕和
出 演/リリー・フランキー/安藤サクラ/樹木希林
いろんな要素が詰め込まれた『万引き家族』、よくぞ2時間にまとめたなと思います。
一人ひとりの人生を描くことで、それぞれ一本の映画ができそうです。
そして、それぞれの映画を、ぜひ見てみたいです。
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