言わずと知れた、ジム・ジャームッシュ監督の代表作です。
また、サブカルの代表ともいえる映画です。
私としましては、コアなファンがついている映画という印象を持っております。
というわけで、初老から見た、サブカル代表『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の感想を語ってみたいと思います。
ただし、ネタバレ・あらすじを含みます。
それでもOKという方は、ぜひ、最後までお付き合いください。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために、簡単なあらすじを。
若さの特権 浮遊する贅沢
3人とも、なんだか、とてもフワフワしているのですよ。
とはいえ、フワフワしていても生きていける、良家の子女じゃありません。
ウィリーはハンガリーからアメリカにやってきて、ギャンブルで生計を立てています。
エディは生粋のアメリカ人ですが、ウィリーとつるんでいるくらいですから、どんな生活かはお察しです。
エヴァはアメリカに来たばかりで、もちろん仕事はなし。
いわゆる底辺です。
ですが、悲壮感はゼロ。
まだ共産圏であったはずのハンガリーからやってきたエヴァには、けっこう深刻な事情があると思うのですけどね。
ウィリーはそんなエヴァを気遣いもしないし、エヴァはエヴァで飄々(ひょうひょう)としています。
だんだんと打ち解けるウィリーとエヴァですが、中身のある会話はゼロ。
これはウィリーと、エディとの間にも言えることです。
エディは仕事仲間兼、友人といった関係ですが、ウィリーとエディが二人でいて、競馬の話はしても、とくに意味のあることは話していません。
なんとなく一緒にいる感じ。
そして、なんとなく時間が流れている。
フワフワしてんな~と思います。
エヴァがクリーブランドへ行ってしまった後も、ウィリーとエディの生活は変わりません。
そんなある日、二人は競馬といかさまポーカーで大儲けすると、ふらりとエヴァに会いに行きます。
エヴァのバイト先に行くと、客の振りをして、二人はエヴァを驚かせます。
このシーンの二人はとても可愛かった。いい大人なんですけど、子供みたいにはしゃぐのですよ。
エヴァも二人に会えて嬉しそうでした。
でも、すぐにウィリーとエディは退屈してしまう。
エヴァはといえば、もうとっくにクリーブランドに退屈しきっていました。
ウィリーとエディがニューヨークに帰ろうとするとき、エヴァは「大儲けしたら私をさらいに来て」と言います。
なので、ウィリーはすぐにUターンしてきて、エヴァを連れてフロリダへと向かいます。
向かう先をフロリダにしたのは、なんとなくのイメージだと思います。
暖かくて素敵なビーチがあるから行ってみるかって感じだったのでしょう。
そして、クリーブランドでもそうでしたけど、フロリダでも、たいしたことは起こりません。
なぜなら、ウィリーはどこにいても変わらないから。
フロリダに来ても、まずは競馬です。
エディに誘われて、競馬ではなくドッグレースに行きますが、違いは馬と犬というだけ。
そして、ドッグレースに行ったウィリーとエディは大負けします。ウィリーは怒り狂って、二人に八つ当たり。すぐに謝罪しましたけどね。
その後、ようやく観光らしく海へ向かいますが、3人は会話もなく海岸をうろうろ。
ウィリーは機嫌が悪そうで、エヴァとエディはやれやれという感じ。
そして、暖かいフロリダの海は、凍ったクリーブランドの湖と同じにしか見えません。
画面がモノクロなのでそう見えるのですが、これってたぶん、3人の心象風景ってことなのかな。
どこにいっても同じ風景で色がない。
じゃあ、3人の心の中が殺伐としているかというと、そうでもない。
意味のない会話や、視線だけのやりとりが、なんとなく温かい。
フラフラとさまよい、さまよいながらも変化がなく、かすかに温かな心の交流はある。
その日暮らしの今や、先のない未来への不安は、若い3人にとって、遠い場所で鳴っている雷みたいなものなのでしょう。
遠い場所の雷なんて、今は怖いとも思わない。
怖いという感覚をリアルに感じることもなく、仲間とただフラフラとさまよう贅沢。
これぞ若さの特権です。
この映画で、初老はうしなった特権を思い出しながら、懐かしんだり、羨んだりしてしまうのでした。
パラダイスはどこに? 奇妙な人は誰?
この映画は3部構成になっていて、第1部が「ニューヨーク」、第2部が「一年後」、そして第3部が「パラダイス」です。
映画が第3部に入るとき、「パラダイス」と字幕が出ます。
ほほう。パラダイスか。観光地フロリダだしな、さぞかしパラダイスなのだろうと思いましたが、前述した通り、あまり代わり映えしません。
さらに、楽園より奇妙な存在は誰なの? という疑問もあります。
正直、ウィリーもエヴァもエディも奇妙といえば奇妙です。
ウィリーはエヴァが好きでも、それを表す方法を知りません。知らないことに疑問も抱かない。
また、自分が嬉しいときも、嬉しい! という表現も知りません。
エヴァに会いにクリーブランドへ行く道中、エディの名前を呼び続けたり、通りすがりの人に話しかけて気味悪がられたり。
いや、素直に「嬉しいな」「楽しみだな」って言えよ! と思ってしまいました。
そんなウィリーしか友達がいないという時点で、エディも変わっています。
エヴァも、共産圏から、せっかく自由の国に来たというのに、嬉しそうでもないし、何かしたいという感じもない。
で、3人でフラフラしている。
しかしです、映画のラストで、3人はバラバラになってしまいます。
ウィリーはエヴァがブダペスト行きの飛行機に乗り込んだと勘違いし、自分がブダペストへ行くはめになります。
悲しみながら、エディは車で去っていき、エヴァはなぜか、3人で泊まっていたモーテルへと戻ってくる。
私の勝手な想像ですけど、この3人は、もう二度と会うことがないのではなかろうか。
そうなると、この映画で言うところのパラダイスとは、3人で、凍った湖やフロリダの海岸で過ごした、無為で温かな時間のことなのかな~と、初老の私は思うのでした。
映画情報
製作国/アメリカ・西ドイツ
監 督/ジム・ジャームッシュ
出 演/ジョン・ルーリー/エスター・バリント/リチャード・エドソン
日本での初公開年は1986年です。
この映画を見ていて、なぜかフェリーニ監督を思い出しました。
今回U-NEXTで『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を見たのですが、映画を見終わった後に出てくるオススメに、フェリーニ監督の『8 1/2』が入っていました。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』が気に入った人は、フェリーニ監督の映画も見てみると、お気に入りが増えるかもしれませんね。
増えなくても責任は持ちませんけどねm(._.)m
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