映画『ステージ・マザー』ネタバレ感想 “再生”がテーマの優しいおとぎ話的映画

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よくあるテーマと言われればその通りなのですが、優しい気持ちになりたい時には良き映画です。

主人公は、ドラァグクイーンの息子を持つ母です。

「ということは、ステージに立つドラァグクイーンの息子を搾取する、マネージャー的母親なのかしら?」と思われました?

ブ~。不正解です。

日本でも批判的に使われることのある「ステージママ」ですが、英語ではもっとハッキリ批判的なイメージがあるそうです。

でも、この映画に出てくる母は、子供を搾取する母ではありません。

というわけで、映画『ステージ・マザー』の感想を語ってみたいと思います。

「日本でステージママと言えば、あの人よね~」という方も「映画のステージ・マザーってテキサスの方? イメージないわ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただし、ネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m

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『ステージ・マザー』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

テキサスで夫と暮らすメイベリンには息子がいる。しかしゲイである息子リッキーはサンフランシスコで暮らし、両親とは疎遠な日々を送っていた。そんなある日、リッキーの訃報が届いた。メイベリンは止める夫を振り切り、息子の葬儀に駆けつける。そこで知ったことは、リッキーの経営するバーがメイベリンに残されたという事実だった。

“再生”がテーマの優しいおとぎ話的映画

うん。なんというか、よくある映画ではあるのです。

初っぱなから、身も蓋もない言い方で、すみません。

この映画を見始めて、なんだかデジャヴ~と感じてしまって、「ん~、なんだろ~~~」と思うに、『プリシラ』と『バグダッド・カフェ』を足した感じだな~と思い至ったわけです。

でもね、映画のテーマは、どんだけ被ったっていいのです。だって人生ってそんなものでしょ?

私たちのドラマなんて、そこら辺にあふれていますからね。

「おまえと一緒にすんな」と思われた方。重ねがさね、すみません。

で、映画の話に戻りますけど、映画『プリシラ』は2人の女性の再生がテーマでした。そして、『ステージ・マザー』も再生がテーマです。

なにが再生するのかというと、メイベリンの息子・リッキーの傾きかけたゲイバーの再生、ゲイバーに集まる人々の再生、そしてメイベリン自身の再生です。

故郷を出たリッキーは、恋人と共に、自分の夢の詰まったバーを作り上げていました。

しかし、訃報を受けてメイベリンが駆けつけたとき、リッキーの口座にお金はほとんど残っていませんでした。

亡くなる直前、リッキーはよろしくないお薬をやったり、お酒を召し上がったりしていましたが、そりゃあ、あの残高なら、そうなります。

リッキーの恋人は共同経営者でもあったのですが、結婚していなかったため、すべてはメイベリンに残されました。

アメリカは同性婚が認められているのですねぇ。同性婚については色々と言う人もいますけど、実際生活をともにしているのに、パートナーが亡くなった後、すべての権利から外されるというのは悲劇です。

この辺はもっと日本も考えるべきですよねぇ。

でも、しかしです。そんなアメリカにいながら、なぜ、リッキーと恋人のネイサンは結婚していなかったのか。

それは、やはりメイベリンが関係してくるのです。母親に認められて結婚したいというリッキーは、母が来てくれるのを待っていたというのです。

初めてメイベリンと会ったネイサンが、メイベリンに対してけっこうな塩対応だった理由がこれで分かります。

メイベリンのせいで結婚はできないわ、そのおかげでバーも家も何もかも失うのです。

共同経営のリスクは最初から分かっているのだから、片方が亡くなった場合の対策してなかったのかね~なんて思いますが、若さゆえ、突然に人生の終わりが来るなんて想像もつかなかったのでしょう、たぶん。

まあ、そんなわけで、テキサスに住む平々凡々な主婦であるメイベリンが、突如ゲイバーの経営者となってしまったのです。

ですが前述の通り、リッキーの口座にはお金がなく、つまりバーの経営はうまくいっていません。

遺産として残されたバーですが、やっていくつもりならマイナスからの出発です。

そして、メイベリンはやっていくつもりです。もちろんネイサンはズカズカ入り込んでくんな!という態度ですが、メイベリンを拒むことはできません。

で、このリッキーのゲイバーは昔からよくある、小さなステージがあって、そこでドラァグクイーンが口パクで歌うというショーをやっています。

ネイサンは経営側なので、ショーの構成などはリッキーの担当でした。

店の名義や何やらかんやら、すべてリッキーのものでしたが、そもそも店の要がリッキーだったわけです。

で、メイベリンにリッキーの代わりができるのか? ということですが、結論から言うと、できちゃったんですね。

メイベリンは教会で聖歌隊の指揮者をしていました。

聖歌隊の指揮者~? と店のクイーンたちは笑っていましたが、でもリッキーのエンターティナー性って、間違いなくメイベリンから受け継いだものです。

で、メイベリンがいくつか提案をするのですが、聖歌隊をやっているだけあって、まずは口パクを止めて、生歌で勝負させます。

そうなのですよ、この映画の冒頭で私も思いました。

私はドラァグクイーンが出てくる映画、けっこう好きで、彼女らの口パク芸も好きではあるのですが、やっぱり少々飽きてきたところはあります。

私の好きだった映画『プリシラ』も、ドラァグクイーンたちが口パクで踊っていましたが、この映画が今から31年前ですよ。

『ステージ・マザー』が2020年の映画ですから、そこから数えても26年前です。26年前と同じことをやっていれば、そりゃ飽きもきます。

しかも迫力でいえば26年前のほうが上ですからね。

メイベリンはゲイバーの歴史なんて知るよしもないですが、とにかく店の寂れ方を見て、歌える若い子がいるのもリッキーの葬式で確認済みでしたので、勝負に出たわけです。

さらには、あんまり役に立たないと思われていたネイサンは曲が作れる人で、店は一気に盛り上がっていきます。

内容を変えるだけでなく、メイベリンは宣伝にも力を入れます。

店の場所がサンフランシスコという観光地だったことで、観光客を取り込むことを考えます。

で、それが功を奏したと。

「そんな簡単にいくか~い!」と突っ込まないでいただきたい。だから、これは大人のおとぎ話とお断りしているわけです。

メイベリンも若いクイーンたちも努力しました。

大人になると、努力が報われることは少ないです。

だからこそ映画の中で努力や苦労が報われて、みんなが幸せになるのを見るのが楽しいのです。

メイベリンの快進撃はまだ続きます。

クイーンの中には、プライベートで苦しんでいる子たちもいます。というか苦しんでいない子のほうが少ないかも。

妻のいるチェリーというクイーンは、妻に事実を話すことができず、妻に何年も会えていません。

そんなチェリーに、メイベリンは妻と会うことを促し、一人では無理というチェリーに付き添いまで申し出ます。

ゲイである息子を受け入れらないエリックの母に、自分の経験を話し、母子の和解に手を貸します。

そんなこんなをしているうちに、メイベリンも変わってくるのです。この変化は良くも悪くもですけど。

私が笑ってしまったのは、最初はチェリーたちの冗談に目を白黒させていたメイベリンが、メイベリンの妹がやってきたとき、チェリーの冗談を口にして大笑いしていたシーンです。

どんどんクイーンたちに染まっていくメイベリンは、実に楽しそうでした。

テキサスにいたときのメイベリンも、それなりに幸せだったのだと思います。クイーンの1人に「結婚生活は幸せ?」的なことを聞かれて、思い悩むことなく「まあ、そうね」と言えるくらいには幸せでした。

ですが、息子が亡くなったのに会いに行こうとしない夫を振り切ったときから、結婚生活の終わりが始まったのだと私は思う。

そして、ゲイバーのオーナーという思いがけない立場となり、メイベリンの人生は大きく変わり始めました。

リッキーの救いにはなれなかったけれど、リッキーの店を救い、リッキーの恋人と仲間を救い、自分の人生をも再生させた、実にすがすがしい、おとぎ話的おばちゃんの快進撃映画なのでした。

 

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おとぎ話からこぼれ落ちた人が1人…

そんな素敵なおとぎ話からこぼれ落ちた人、その名はジェブ。リッキーの父親で、メイベリンの夫です。

この人ね、悪い人じゃないのです。なんとな~く、憎めない人なのですよ。

でも最終的にメイベリンに捨てられてしまいます。

いったんは、迎えにきたジェブとともに、メイベリンもテキサスに帰るのですけどね。

帰ってみると、ジェブとその友達がテレビ観戦している横でおさんどんをさせられたり、聖歌隊のメンバーからサンフランシスコでなにをやっていたのか探りを入れられたりして、うんざりします。

その辺はうんざりするだけで済みましたが、決定打はリッキーについて、夫婦ともに、心の底からの思いをぶちまけたことで、夫婦関係?家族関係?が破綻したのです。

ジェブがサンフランシスコまでメイベリンを迎えにきたときの彼の言葉に、私はちょっとグッときたのですけどね…。

ジェブは、メイベリンが家にいないと、家に音がしないと言うのですよ。

これは事実上の「I miss you」ですよね。

このすぐ後に「I love you」とはっきり言うのですが、私的には「家に音がしない」のほうが胸にきました。

まあ、メイベリンには、「ジョニー・キャッシュでもかけとけば」と冗談で返されていましたけど。

で、このとき、メイベリンは条件付きで帰ることに同意します。条件はリッキーのバーをネイサンに讓ることです。

メイベリンは、ネイサンのことを義理の息子とも言って、これはジェブにとっては、かなり面白くない言い方だったと思いますが、最終的にはメイベリンの条件を受け入れます。

ジェブがメイベリンを愛していることは間違いないし、メイベリンだってそれは分かっているのでしょう。

でも、亡くなった後でさえ、リッキーを受け入れられないジェブを、メイベリンもまた受け入れられなかったのだから、仕方のないことです。

なんだかな~。もちろんメイベリンは悪くないし、かといってジェブが悪いとも私には断言できないのです。

そりゃ、メイベリンを家政婦と勘違いしてない?とか、困ったところはありますけど、そういうことじゃないのですよね。

結局、なるようになったということでしょうか、メイベリンは今度こそ本当に家を出ます。

たぶん彼女がジェブの元に戻ることは、もうないのでしょう。

サンフランシスコに戻ったメイベリンは、真っ先にボーイフレンドのところへ会いに行っていましたし、最後にはバーのステージに立って歌ってましたしね。

メイベリンについては、おとぎ話の定石通り「めでたし、めでたし」といった感じです。

……かわいそうなジェブ。

息子のバーの権利を放棄して妻を選んだのに、その妻は消えてしまい、しかも妻はこっそり、バーの売り上げの2割を得ているのです。

そうなのですよ。

やっぱり、おとぎ話とはいえ、大人ですからねえ、少々えげつないわ~という部分はあって当然なのですよね~。めでたし、めでたし。

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映画情報

製作年/2020年
製作国/カナダ
監 督/トム・フィッツジェラルド
出 演/ジャッキー・ウィーヴァー/エイドリアン・グレニアー

日本での公開は2021年です。

上では触れませんでしたが、リッキーの親友役でルーシー・リュー氏が出演されていました。

私が彼女を初めて見たのはTVドラマ『アリー my Love』です。

それが放送されていたのが2000年前後ですから、20年以上前です。

なのに彼女は変わってない…!

アジア人が若く見えるって本当なんだ…と実感しました。

そして、チェリー役のマイア・テイラー氏、なんか既視感あると思ったら『タンジェリン』のアレクサンドラ役の方でした。

クイーンのメイク方法でみんな同じに見えるのね~と思っていた私、アフォだわ…。

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