まさかまさかの、ダイアン・キートンが身近に感じられる映画です。
お洒落で、女としても人としても別格という風情の彼女ですが、この映画での役柄には、なんとも親近感を覚えてしまうのです。
というわけで、映画『ロンドン、人生はじめます』の感想を語ってみたいと思います。
「え? ダイアン・キートンが老後の資金問題に悩んだりするの?」という方も、「どんな映画でも彼女のファッションが楽しみなの~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただし、ネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
『ロンドン、人生はじめます』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
いくつになっても人生は始まりの連続なのだ
この『人生はじめます』という邦題、なかなかいいなと思いました。
人間いくつになっても、生きていくかぎり、人生は「始まり」の連続だと思うのです。
なんというか、一山越えるとまた次の山、次の山を越えると、またまた次の山。
嬉しい・楽しい山ならいいですが、どちらかというと苦労する山のほうが多いですよね。
いわゆる、一難去ってまた一難ってやつです。
ダイアン・キートン演じるエミリーも、夫が亡くなり、問題が山のように押し寄せてきました。
夫が亡くなるまで、家計がどうなっているのかなんて、エミリーはまるで考えていなかったようです。
まあ、それも納得の、高級住宅地の高級マンションに住む専業の奥様でしたからね。
しかし一人になったエミリーに、現実は同情なんてしてくれません。
迫りくる借金や税金の支払いと、高級マンションなだけに結構な修繕費のかかる住まい。
お金の問題だけでなく、なによりつらいのは、夫の死後に発覚した彼の浮気です。
これね~、怒りをぶつける相手がもうこの世にいないって、傍から見ているぶんには、もはや喜劇です。
夫の命日に墓参りに行く気もおきず、息子から遠回しに咎められ(と私には思えた)、ふらりとお墓に立ち寄るも、墓石に花や靴を叩きつけるエミリー。はい、ここ笑えます。
もちろんエミリー自身は笑えません。ほんと、怒りのぶつけどころが墓石しかないなんて同情します。
せめて、打ち込める仕事でも持っていればよかったのですが、夫の生前からやっていたボランティア活動を続けているだけで、仕事もないエミリーです。
そりゃね、ずっと専業で生きてきて、大学は美術系だったようですし、なんのスキルもない老女になにができるでしょう。
母であり妻でしかなかった人生に、ここにきて復讐でもされているかのようです。
いや、良き母・良き妻であったことを誇りにしてもいいのですが、エミリーの現状は“誇り”だけではやっていけないのです。
同じ高級マンションに住む、周囲の友人達に彼女の悩みは相談できません。
相談したところで、有益なアドバイスは望めないかな~?
いや、実は、彼女に新しい夫をあてがおうと必死になっている友人がいるのですが、これはこれで有益な解決策の一つですよね?
同じマンションに住む友人フィオナは、会計士であるジェームズを紹介してきます。
フィオナは現実を把握しているのですね。
彼女は、自分もエミリーも、いまさら夫の財力なしには生きていけないと分かっているのです。
正確に言うなら、「生活レベルを落として生きてなんていけない」から「夫の財力なしは無理」ってところでしょうか。
エミリーはそんな現実から目を逸らしてばかりいるのですから、フィオナにはじれったかったのかもしれません。
そして、会計士のジェームズに会ったエミリーは、ジェームズが自分に好意的であるのを見て、彼を利用しようとします。
利用といっても、マンションを売ることなく、借金や税金の督促をなんとかしてもらおうというくらいのことですが。
このね、現実から目を背けたり、打算で人を利用したりするのはいいことじゃないですが、人生においてはそんな瞬間があったりします。
そんな人間臭いエミリーを、ダイアン・キートンが相変わらずキュートに演じてくれていて、この辺の流れこそ、彼女への親近感が爆上りしたところなのでした。
奇麗事だけでは生きられないが打算だけでも生きられない
さて、そんなエミリーがドナルドの存在に気付いたのは、マンションの屋根裏部屋から双眼鏡で外を覗いていたときでした。
目の前にある森の池で、ドナルドが水浴びをしているのを発見し、ついでにドナルド手作りの小屋も発見しました。
その場所には、今は廃屋と化した病院もあったりして、友人のフィオナは不気味な場所だと言いますが、エミリーは別意見のようでした。
そのせいなのか、何度かドナルドを覗き見していたとき、エミリーはドナルドが不審者たちに襲撃されるのを目撃します。
速攻で警察に通報するエミリー。
おかげでドナルドは、怪我こそしましたが、大事には至りませんでした。
そんなこんなでドナルドが気になるエミリーは、ついにドナルドに話しかけ、おっかなびっくりながら、ドナルドに惹かれていきます。
同時進行でジェームズとも会っていて、彼にはお高いレストランへ連れて行かれたり、海の側の素敵なホテルへ誘われたりもします。
片や、ドナルドとの夕食は魚釣りから始まり、ランチは墓地で、ドナルド手製の弁当でピクニックです。
どう考えてもジェームズとの未来のほうが現実的ですが、ドナルドにときめいてしまうことは止められません。
そうなのですよ。これは単純な“ボーイ・ミーツ・ガール”のお話でもあるのです。
好きになって、夢中になって、そしてエミリーは行動に出ます。
ドナルドは勝手に森に住み着いていたわけですが、住み着ついて17年になる今になって、開発業者から立ち退きを要求されていました。
ドナルドが暴漢に襲われたのは、その要求を拒否していたからです。
そんなわけで、エミリーはドナルドが同じ場所に住み続けられるよう、戦うことにしたのです。
不思議ですよね。それまで自分のことでさえデモデモダッテだった人が、好きになったとはいえ、他人のために戦うのですから。
ドナルドのために戦うことは、それまでの友人であったフィオナたちと敵対することでもあったのに、です。
そして、ドナルドのために戦うことで、自分自身の現実も直視し始めます。
それまで逃げていただけのことはあり、現実はエミリーを痛めつけます。
フィオナに、自分(エミリー)の夫の浮気を知っていたのかと訊ねたときは、「そこまで踏み込まんでも…(泣)」と思いましたね。
フィオナの反応に打ちのめされたエミリーでしたが、それでも彼女は自分の足で立ち続けていました。
さっさとネタバレさせてしまいますが、ドナルドは裁判に勝利し、正々堂々と小屋に住み続けることができるようになっていました。
しかも土地の所有権までついてくるというオマケ付きです。
そこまでは良かったのですが、その後、将来に対する意見の相違から、エミリーとドナルドは決別してしまいました。
でもエミリーは引き返しません。
自分を誇れず、いつも周囲に流されっぱなしだったのに、泣くこともなくマンションも売り払いました。
すべてを清算して、エミリーは一人で、さらなる郊外へと引っ越していくのです。
さすがに寂しそうではありましたが、同時に清々しい表情でもありました。
打算で生きることは悪いことではないです。打算まみれだって悪くない。むしろ、苦しまないための打算は必須だと思います。
でも、それだけじゃ、人間って、きっと苦しくなってしまうのですね。
最後にフィオナと会ったとき、エミリーは彼女にカウンセリングをすすめます。
今の生活水準を守ることに汲々としているフィオナは、エミリーの目にどのように映ったのか。
エミリーの目に映る自分を垣間見て、フィオナはどう感じたのか。
ま、それはフィオナの問題なので、エミリーのお話には関係ないですが。
そして、なんと、この映画はハッピーエンドで終わります。しかし、エミリーの生活が経済的に安定したものになるのかは分かりません。
だって、戻ってきたドナルドは、裁判で手にした資産を返還しちゃってましたから。
でも二人は幸せそうです。
打算だらけの人生でもいい。でもやっぱり、それだけじゃ息が詰まって、そのうち生きているのかどうかも分からなくなりそうです。
だから人生には、ほんの少しの希望とか愛とか夢が必要なんだな~と、この映画を見終わって思うのでした。
映画情報
製作国/イギリス
監 督/ジョエル・ホプキンス
出 演/ダイアン・キートン/ブレンダン・グリーソン
日本での公開は2018年です。
この映画は、ホームレスだった男性が、住み着いた土地の所有権を手に入れたという実話を元に作られたそうです。
ホームレスを無理やり立ち退かせるのはかわいそう…とは感じますが、かといって、本来の土地の所有者が大損するのもひどい話だと思ってしまう…
この映画では、最後に土地が返還されるので、なんとかモヤモヤは抑えられる感じですね~。
・
・
・
・
↓ダイアン・キートン主演の老後問題もう一丁!
コメント