キング・オブ・ロックンロールと呼ばれたエルヴィス・プレスリー。
そんなエルヴィスの人生を、彼のマネージャーだったパーカー大佐の視点から描いた映画です。
エルヴィスの命を奪ったのはパーカー大佐だと言う人がいる一方で、パーカー大佐には別の意見があるようです。
というわけで、映画『エルヴィス』の感想を語ってみたいと思います。
「プレスリー!? 大好きよ!!」という方も、「プレスリー? 名前くらいは知ってる~」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただし、ネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m
『エルヴィス』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
誰がエルヴィスをコロしたの? それは愛と大佐が言った
映画を見ていて、途中からずっと、「エルヴィスって何歳で亡くなったんだっけ?」と考えておりました。
映画の最後に、私の疑問の答えがありました。
彼は42歳で亡くなりました。心臓発作だそうです。
コアなファンがいる一方で、多くの人がエルヴィスは落ち目となり、失意の中で亡くなったと思ったのでしょう。
大勢の人がそう思ったからこそ、マネージャーであるパーカー大佐がコロしたのだという話も出てきたのでしょうね。
ただ、この映画の語り部であるパーカー大佐は、自分が彼をコロすわけがない、自分はエルヴィスを作り上げたのだから、と言います。
確かに、その言い分には一理あります。
パーカー大佐が初めてエルヴィスと出会ったとき、エルヴィスは自分に自信がなくて、舞台に上がる前に震えている有り様でした。
そんな状態でも、パーカー大佐は彼の可能性を見抜いたのです。
エルヴィスに大いなる可能性を見出したのは、客席にいる女の子の表情からでした。
当時のアメリカはまだまだ保守的でした。男はたくましく、女は慎ましく、白人と黒人は席を同じうせず的な考えが主流でした。
そこに黒人音楽を持ち込んで、化粧をし、セクシーに歌うエルヴィス。そんなエルヴィスに興奮…というか発情する女の子たち。
そうなのです、彼女たちの熱狂には、セイ的なものが多分に含まれていました。
だからこそ、女の子たちは最初、この興奮に身をゆだねてよいものかという葛藤がありました。なにしろ、人前で発情するなんて、はしたないですから。
で、そんな彼女たちの表情の中に、パーカー大佐は自身の哲学に合致するものを見たのです。
大佐の哲学とは、「最も儲かるものは、人が楽しむのをためらう代物」だそうです。そして、ためらいを感じても、結局、人は楽しむと。
つまり、「倫理的にどうなの?」というものが、人を惹きつけると言いたいわけです。
パーカー大佐の哲学通りエルヴィスは売れました。エルヴィスにも野心があったわけで、最初、この2人の関係はwin-winのものでした。
その後、政治がかかわってくることで、歌手本人とマネジメント側の意見が対立してしまったのですね。
時代の先端を走る人に風当たりが強いのは当然ですが、エルヴィスに対する風当たりは強すぎました。
それだけでなく、マネージャーとなったパーカー大佐は、実はとても怖い人物でした。
大佐は人の心を操ろうとする人だったです。そして、それができる人でもありました。
大佐はアメリカ人ではなく、不法滞在者でした。
エルヴィスやその取り巻きは海外ツアーに出たがっていましたが、大佐は自分の秘密がばれることを恐れて、エルヴィスが国外に出るのは危険だと思い込ませました。
それでも海外に行こうとするエルヴィスに、エルヴィスの父が経営する会社を破産に追い込めるのだと脅し、海外行きを阻止。エルヴィスから気力を奪いました。
海外に出られない、大佐の思う通りになるしかないと悟ったエルヴィスの心中は、察するに余りあります。
エルヴィスをたったの42歳であの世へ旅立たせたのは、大佐だけの責任ではないかもしれません。
ですが、ファンの愛がエルヴィスをコロしたのだという大佐の言い分はどうなの?
政治家や警察、世間の保守的な大人たちから、エルヴィスは黒人スタイルの歌唱方法を変えるように要求されていました。
しかし、エルヴィスの熱狂的なファンたちは、彼が変わらないことを求めていました。
エルヴィスはそんなファンたちの想いに応え、大人しくするようにという大佐の指示を無視したのです。
おかげで彼の立場はまずいものとなり、結果として兵役につくこととなりました。それが逮捕を免れる方法だったのですね。
結果、エルヴィスのスター街道は一時的に断ち切られました。
こう見ると、ファンの愛がエルヴィスをまずい立場に立たせたのは事実です。しかし、コロしたとまでは言えません。
大佐はさらに、エルヴィスの、ファンへの愛が彼をコロしたとも言います。
え~? そうか~?
ただ単に、ファンへの愛情以外に、情熱を注ぐものを奪ったアンタの責任じゃないの~?と嫌味の一つも言いたくなります。
妻が娘を連れて、エルヴィスのもとを去ったのも、大佐がいたからです。
エルヴィスの父親が頼りないのは父親自身の責任ですけど、その父親をいいように利用したのは大佐です。
というわけで、愛がエルヴィスをコロしたという大佐の言葉は、やはり人を煙に巻くための方便だと思われ。
私には、大佐が彼のステッキを持ち、両手を広げ、不適に笑っているのが見えるような気がします。
エルヴィスをコロしたのは愛なのさ。
そう囁いて、私たちが彼の言葉を信じるのを待っているのです。
自然だった白と黒のフュージョン
さて、エルヴィス・プレスリーという歌手が、子供の頃から黒人音楽に親しんでいたことはご存じだったでしょうか?
私は全然、まったく、知りませんでした。
エルヴィスの両親はかなり貧しく、白人でありながら黒人の住む区域に住んでいたそうです。
そのせいで、エルヴィスは自然と黒人音楽を耳にしていたのですね。
子供ですから、聞こえてくる音楽に区別はなく、あるのは「好きな音楽」と「そうでない音楽」くらいの差ではなかったのでしょうか?
映画の中では黒人の子供たちと、ただの子供同士として駆け回って遊んでいました。
遊んでいても音楽がそこここにあって、エルヴィスは呼吸をするようにブラック・ミュージックを吸収していったのだと思います。
大佐が初めてエルヴィスの歌を聞いたのはレコードで、そのとき、彼はエルヴィスのことを黒人だと思っていました。
エルヴィスの生い立ちを考えれば不思議なことではありませんよね。
ただ残念ながら、保守的な大人たちは、エルヴィスに拒絶反応を示しました。
彼らはエルヴィスを「骨盤エルヴィス」などと呼び、エルヴィスは「大人がそんなことを言うなんて……」とひどく傷つきました。
ほんと、そのとおりですよ。なんと幼稚な言い回しか。
傷心のエルヴィスは黒人の集まるストリートへ出かけ、ライブハウスでB.B.キングと話し込みます。
B.B.キングとは“キング・オブ・ブルース”と呼ばれた人です。
B.B.キングが出てきたとき、私は「B.B.キングとエルヴィスが友達だったなんて!」と小躍りしかけたのですが、これは映画内の創作的な関係みたいです。
それでもいい! このライブハウスのシーン、めっっっっちゃ好きなのです!
2人は「B.B.!」「E.P.!」と呼び合って、B.B.は弟に接するようで、エルヴィスは親友に接するかのようでした。
しかも、このクラブでは、その夜、リトル・リチャードがステージで歌い踊っていました。
リトル・リチャードを演じていた方、とっても麗しい方でダンスもキレッキレ。
いや~、ここは夢のようなシーンですよ。
これが現実にあったことなら、どれだけエルヴィスも私も救われたことか。
エルヴィスという青年は自分の好きな音楽を歌いたかっただけでした。
好きな音楽で成功を夢見ただけでした。
でも、やっぱり、それだけじゃダメなのですね。
時代的に、シンガーやアート系の人たちに対する権利が軽んじられていたのもありますが、エルヴィスのように大金を稼ぐことのできる人のところには、悪い大人が寄ってくるものなのです。
パーカー大佐がまさにそれです。
エルヴィスの中で起こった、白い音楽と黒い音楽の融合は、素晴らしい結果を生み出しました。
彼がいなかったら、ビートルズが受け入れられるのに時間がかかったのではないかな~なんて想像します。
昔々、ビートルズのジョン・レノンが好きな音楽はと聞かれて、「色付きの音楽」と答えたという話を読んだことがあります。
世間からの反発を恐れないジョンらしい発言だと思いますが、もしエルヴィスがいなければ、その発言にはもっと勇気が必要だったかもしれません。
え~っと、ジョンの話が私の記憶違いだったらごめんなさい(汗)
とにかく、エルヴィスという人は奇をてらって黒人音楽を取り入れたのではなく、彼の中で自然に融合され、彼の音楽として発信されたのです。
そして、彼の音楽は、当時の若者に熱狂的に支持されました。
今、私が当たり前にロックだジャズだブルースだと聴くことができるのは、エルヴィスを始め、先人たちのおかげなのだな~と分かる映画なのでした。
映画情報
製作国/アメリカ
監 督/バズ・ラーマン
出 演/オースティン・バトラー/トム・ハンクス
日本での公開も2022年です。
パーカー大佐をトム・ハンクスが演じています。
金の亡者で人心を操り、得体の知れない人物であるパーカー大佐。
時々、このパーカーが、いい人に見えることもあります。
悪い奴だってすべてが悪いわけでなく、良いところもあったりするから、逆に怖かったりキモかったりするわけで。
トム・ハンクスはそんなパーカー大佐を実に不愉快に演じてくれています。褒めています。すごいです。
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