これは、お一人様初老のワタクシが、「お願いだから幸せになって!」と主人公の幸せを願いながら、両手を握り締めて見た映画です。
「知るかいな」と思われた方、申し訳ございません。
でも、そう言うしかないのです。
こんなに主人公の幸せを願ったことはありません。
というわけで、映画『好きにならずにいられない』の感想を語ってみたいと思います。
「アイスランドの映画なんて初めて」という方も、「お一人様・中年男の映画なんて面白いの?」という方も、よろしかったらお付き合いください。
ただしネタバレ・あらすじを含みます。
お嫌な方はここまででお願いいたしますm(_._)m
『好きにならずにいられない』ネタバレ感想
記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。
最後の飛行機は幸福行きでありますように
なぜフーシが嫌な思いをしなければならないのか、私にはまったく分かりません。
確かに、フーシは見た目がよいとは言い難いです。
髪は落ち武者風で、大柄というか、おデブです。
結婚どころか恋人もおらず、過去にも恋人は存在しません。そして母親と二人暮らしです。
小さな女の子のいる親が警戒する要素満載ではあります。
しかし、フーシは子供が相手でも見下すことなく、親切に接していました。
仕事だって、ちゃんとしています。
空港で荷物係として働いています。高給取りとは言えませんが、汗水流して真面目に働いているのです。
金曜の夜には一人でタイ料理のお店で食事をしますが、他人に迷惑はかけていません。
海の側に車を止めてラジオを聞きますが、他人に迷惑はかけていません。
ジオラマが趣味で、ときにはラジコンカーで遊んだりもしますが他人に…以下同文です。
それでも、職場の同僚はフーシをひどくからかったりするのです。
フーシに悪意を向ける人もやっかいですが、好意からフーシに余計な世話を焼く人も、またやっかいです。
フーシの母と、母の交際相手は、フーシに恋活をすすめてきます。
母はもちろん奥手な息子を心配してのことですし、交際相手のほうは、うまくいけば息子を追い出せる~♪って感じもあるのですが、それなりにフーシを思いやってはいるようです。
フーシは43歳になりました。
私調べですが、お一人様でそのくらいの年って、一番、将来に不安を感じるのかもしれません。
このままでいいのかっていう不安ですね。
一人で年老いていくことへの不安、寂しさ、心もとなさ。
お節介な母や母の恋人の言うとおり、フーシがダンス教室へ足を向けたのは、そんな気持ちからではないでしょうか。
だけど奥手のフーシははやり尻込みしてしまう。
そんなフーシにシェヴンが声をかけたのは、まったく偶然、悪天候のせいでした。
シェヴンは感じの悪い女性ではなかったし、フーシは奥手なりに行動に出ます。
彼女のために旅行のプランを立てたり、彼女の職場だという花屋に行ったり。
少しずつ変わっていく彼を見て、私は手に汗握りました。
どうか、どうか幸せにになって、と。
しかしシェヴンは、心に問題を抱えた人でした。
フーシを受け入れてくれたかと思うと拒絶する。いやいや、だったら最初から声なんてかけないで。
そんな人ほっとけと思う私とは裏腹に、フーシは、なんと、彼女の玄関のガラスを叩き割って、家に入ってしまいます。
ああ! お願い! そんな人のために不幸にならないで! と思ったのですが、結果、フーシはシェヴンの命を救ったのかもしれません。
散らかり放題の部屋の中でシェヴンの猫がお腹をすかし、シェヴン自身も納戸なのかバスルームなのかに籠もって精神が落ちまくっていました。
フーシは猫に餌をやり、家を掃除し、シェヴンの食事を用意し、彼女の仕事場へ行って、彼女の変わりに働くこともしました。
なんて良いヤツ! これがたとえ下心からだったとしても、シェヴンの助けになったのは確実です。
シェヴンは引きこもるのを止め、フーシに心を開きます。
そしてフーシもまた、シェヴンを通して外の世界に心を開いていったように見えました。
春ですよ、春。
フーシに春がきたのです。そして私の心もまた、春のように暖かに穏やかになっていったのです。
しかし、シェヴンは再び、フーシを拒絶しました。
たぶん、彼女は心の病気で、それはもう一生ものじゃないかと思います。
彼女がフーシに同棲を持ちかけたとき、フーシは年老いた母を心配して言葉を濁しました。
そんなフーシをシェヴンは40代にもなって母親を気にするなんてと怒ったのです。
そして自分は15歳で家を出た!と言いました。
そのあたりに彼女の病の原因があるのかもしれないなあと想像した私です。
シェヴンも気の毒な人なのでしょう。
ですが、だからといって、フーシを傷つけていいはずがない。
もっと怒って落ち込んでもいいのに、フーシは「あなたサンタさんなの?」という行動に出ます。
黙ってフーシの行動に付き合う、フーシの友達もいいヤツや~、と思いました。
そして、フーシは、彼の職場だった空港から、旅行鞄を下げ、飛行機に乗り込みます。
飛び立とうとする飛行機の小さな窓から外を見るフーシ。
彼はもともと表情に乏しいほうですが、それでも私はもう、多少なりとも彼の表情を読み取れるようになっています。
彼はどこかすっきりとした表情で、最後はたぶん、微笑んだのだろうと思います。
彼の乗った飛行機がどこ行きであれ、彼を幸せに導いてくれと切に願いながら映画は終わるのでした。
勝手に妄想『好きにならずにいられない・その後』
ここからは勝手な私の妄想です。
映画の本編とはまったく関係ありません。
一人エジプト行きの飛行機に乗り込んだフーシでしたが、アイスランドに帰って来たとき、彼の横には女性が一緒でした。
旅先で出会った同じ国の人間同士、意気投合して一緒に観光地巡りをしたのです。
アイスランドに帰って来てお別れだと思っていたのに、彼女はフーシと連絡先を交換。
彼女の住まいは少し離れた町にありましたが、母親を看取ったばかりで独り身の彼女は、時間を見つけてはフーシに会いに来てくれました。
数ヶ月後、彼女はフーシの町に引っ越してくると言い出したのです。
それなら一緒に暮らさないかと、思い切って、言ってみたフーシ。
彼女は喜んで同意。フーシは同棲を機に、空港の仕事を辞め、趣味のジオラマをネットで販売する仕事を始めました。
彼女は外で仕事をしているため、フーシは仕事の合間に家事も担当。フーシの料理を彼女は喜んで食べてくれ、休日には一緒に買い出しと掃除。たまにはフーシの母の元へと顔を出したりもします。
母の家から帰る途中で、フーシは大好きな海の見える場所に車を止め、彼女とラジオを聞きながら暮れていく空と海を眺めるのでした。
とまあ、勝手なワタクシの妄想ですが、ぜひとも、フーシには幸せになってもらいたい。
彼には幸せにある才能があると思うのですよ。
人の言うことを素直に受け入れられる柔軟性があるし、何があっても人のせいにしない強さがある。
ただの、ことなかれ主義という可能性もありますが。
それでも、どんなに嫌なことがあっても、海を見て奇麗だと言えるのはいいことです。
私なんて、ヘコんでヘコんでしょうがないときは、キレイなものを見てもキレイなんて感じられません。
フーシは強いなと思います。
そして、自分を拒絶したシェヴンのためにできるだけのことをやったフーシは、自分のことを少し見直したのではないでしょうか。
それが最後の微笑みの正体なのかもしれません。
自画自賛って、凹んだ心に有効なときがありますよね。
旅行から帰って来たフーシの人生は、これまでのものと確実に違っているはずです。
本当いうと、フーシが幸せになるところが見たかったんですけどね。
でも彼はきっと幸せになる。
そう信じたいと思うのです。
映画情報
製作国/アイスランド/デンマーク
監 督/ダーグル・カウリ
出 演/グンナル・ヨンソン/リムル・クリスチャンスドッティル
日本での公開は2016年です。
ウィキペディアによると、この映画はエジプトでの撮影が予定されていたそうです。
予算のため実現化しなかったようですが、実はフーシが幸せになるシーンがあるはずだった?
だったら嬉しいな~。でも見たかったな~(泣笑)
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