映画『ナチュラルウーマン』ネタバレ感想 1人の女が失った恋人を悼んで泣くまでの物語

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トランスジェンダーのマリーナが、恋人のオルランドを失くした後、涙を流すまでのお話です。

「いや、それだけ?」と思われるかもしれませんが、一言で言うなら、そういう映画なのですよ。

ただね、この結論にたどり着くまでには、けっこうハラハラ・ドキドキします。

「もしやマリーナって、とんでもない悪女じゃないか?」と思ったり、「これってミステリー映画なの?」と思ったりね。

というわけで、映画『ナチュラルウーマン』の感想を語ってみたいと思います。

「“トランスジェンダー”であることが鍵とみた!」という方も、「マリーナの心中を映像化したところが好きだったわ~」という方も、よろしかったらお付き合いください。

ただし、ネタバレ・あらすじを含みます

お嫌な方はここまででお願い致しますm(_._)m

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『ナチュラルウーマン』ネタバレ感想

記憶がおぼろになっている方&見ていない方のために簡単なあらすじを。

トランスジェンダーのマリーナは、昼はウェイトレスとして働き、夜はナイトクラブで歌っている。恋人のオルランドとは親子ほどに年が離れているが、同棲するくらいに順調だ。しかしマリーナの誕生日を2人で祝った日の夜、オルランドは体の異変を訴え、あっという間に亡くなってしまった。家族ではないマリーナは、医師から詳しい話を聞くことができないどころか、いわれのない容疑までかけられるのであった。

1人の女が失った恋人を悼んで泣くまでの物語

一緒に暮らす恋人が、ある日突然、この世から消え去ってしまった。

そりゃ泣きますよね。普通は泣きます。

でもマリーナは、オルランドの葬儀後まで泣くことができませんでした。

そう聞くと、「あまりに突然だと、呆然としちゃって、涙も出ないことがあるわよね」と思われる方もいるでしょう。

確かに、突然すぎると人は茫然自失となってしまうものです。

でもね~、マリーナの場合はそれだけじゃなく、頭が真っ白になるくらいの怒りもプラスされちゃったのですよ。

普通さ、突然恋人を失くした人には、まったくの他人でも、お悔やみの一言くらい言うものじゃないですか?

でもマリーナの場合、お悔やみの言葉どころか、オルランドを病院に連れていったにもかかわらず、容疑者扱いされてしまうのです。

理由としてはオルランドに大きな外傷があったこと、パートナーと言いながら2人の年齢が離れすぎていたこと、そしてマリーナが生物学上の女ではない…ってところでしょうかね~。

オルランドの傷は、病院に行こうとしていたとき、意識が朦朧としていたために階段から転げ落ちてできたものでした。

もちろんマリーナは説明しましたが、医師も、駆けつけた警察官も完全に容疑者扱いです。

その場ではオルランドの弟さんが取りなしてくれて、マリーナは家に帰ることができたのですが、次の日には働いているレストランに刑事が来て、執拗に話を聞き出そうとします。

この刑事がね、私はなんでも知ってる、分かってるって態度で、マリーナの「ふざけんな」って感情がヒシヒシと伝わってきます。

マリーナはあまり感情を言葉にしませんね。でも伝わってくる。

刑事の考えとしては、オルランドがマリーナとデートをする。デートだけのつもりのマリーナがオルランドに襲われ抵抗。結果オルランドは…ということです。

デートというのも、恋人だからではなく、ビジネスとしてのデートだったのよね?と刑事は言っているわけです。

この辺の考え方は、後々出てくる人たちも、みんな似たりよったりです。

刑事と同じ日に連絡をしてきたオルランドの元妻。この人も、マリーナはお金目当てくらいにしか思ってない感じです。

それだけが理由ではないでしょうが、マリーナに対して敵意がありありなのです。他の理由は、嫉妬とか嫉妬とか嫉妬とかね。でも、マリーナに怒りをぶつけるのはお門違いです。

元妻とオルランドの間には娘がいるため、娘を盾にして、マリーナには通夜にも葬儀にも来るなと言います。これは自分たち家族の問題だから、かかわってほしくないそうです。

う~ん、家族ねえ。娘さんにしたら父親でしょうけど、元妻さんは関係なくないですか?

マリーナは、ただ陰から、ひっそり、お別れさせてほしいだけだって言ってますし?

でも頭から疑ってかかってくる人に何を言っても通じません。

オルランドの息子というのも出てきますが、この息子は怒りどころか憎しみを向けてきます。

最初こそ感情を抑えていましたけど、マリーナの留守中にアパートへ侵入したり、友人と一緒になってマリーナへ暴力的な嫌がらせをしたりと、気持ち悪い男なんですよ。ほんと、ぞっとします、この息子。

というわけで、オルランドの関係者は全員、見事なまでにマリーナの気持ちを完全無視です。

そもそもマリーナも1人の人間で感情があるのだということ、理解できていないのではないかと思います。

私なら、ここまでされたら、世界に向かって泣きわめきそうです。

そんな私ですから、相手を罵倒せず、感情を内に押し込んでしまうマリーナが、次第に裏のある女にも見えてくるから不思議です。

マリーナの感情をときどき映像で見せてくれるのですけど、実に抽象的で、強風に立ち向かっていたり、集団で踊っていたりで、彼女がストレスを抱えていることは分かりますけど、何に対してどうストレスを感じているのかは見る人にお任せなのです。

もちろん、トランスジェンダーに対する無理解や敵意や憎しみに対してのストレスがあるのは確かですが、もしかしたら、本当にマリーナはオルランドを事故に見せかけて…そのストレス?なんて考えもよぎります。

また歌のレッスンに行くのですが、歌の先生もオルランドくらいの年齢で、なんとなく親密な感じがします。

「はっ! もしや2股? マリーナって悪女?」って思ったり思わなかったり。

たまにオルランドの幻を見るのも、なんらかの罪悪感からって気がしましたし、大きなどんでん返しがあるのかもな~と構えながら見てました。

でも、結局のところ、マリーナはたくさんの悪意を向けられたせいで怒りに翻弄され、自分でも、自分がオルランドの不在を悲しんでいるのか、いないのか、分からなくなってしまったのかな、なんて思います。

なんだかんだあって、マリーナはオルランドが火葬される直前に、彼と2人きりで対面することができました。

日本の火葬と違って、オルランドが火葬されるときは家族も誰もいなくて、職員の方しかいなかったんですよね。

オルランドと向き合って、もちろんオルランドは目も開かないし喋らないし、触ってもくれませんが、マリーナはオルランドの顔を見て、ようやく涙を流すことができたのです。

ああ、そうなんだね。泣きたかったんだね。ただただ、オルランドを悼む時間がほしかったんだね。

おつかれ…って言うのは変ですけど、ようやく、マリーナは前に進むことができるのだな~と思ったのでした。

 

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ロッカーの中にあったもの

さて、ワタクシ、オルランドの息子が「ぞっとする」と書きましたが、それはなぜか。

この息子、トランスジェンダーと付き合っていた父親に我慢がならないみたいで、それはそれで仕方のないことですけど、父親のアパートにいるマリーナに向かって、早く出て行けと迫ります。

気持ちは分かりますが、猶予はほしいです。誰だって突然に引っ越しなんて、すぐにできるものじゃありません。しかもマリーナの場合、まだ心の整理もついていないのです。

なのに「いつだ、いつ出て行くんだ!」って、本当に社会人の言い分でしょうか。ニートなら、ちょっとだけ許してやってもいいですが。

で、そのときは当然、息子はマリーナに追い出されます。したら、この男、マリーナの留守中に家に入り込み、マリーナの服をこれ見よがしに壁にかけたり、食い散らかした残骸をそのままにしておいたり、なによりマリーナに打撃を与えたのは、オルランドの犬を連れ去ったことでした。

犬はもともとオルランドが飼っていた犬で、息子もその犬と一緒に暮らしていたと言います。

ですが、暮らしている間に、犬の匂いがダメになったみたいですし、アパートにきた時点で犬の処遇を決めかねているようでした。

なんとなく、引き取り手を探すか、下手すると処分するとか、その辺で考えていたような気がします。

しかしマリーナが犬の所有権を主張したとたん、息子は犬に対する執着を見せました。まあ、嫌がらせですよね。

で、のちのち、マリーナの留守中に犬を連れ去っていくわけです。

そこで、マリーナはさっさとオルランドの家を出て姉の家へ転がり込むのですが、犬だけは絶対に諦めません。

陰湿な嫌がらせをされても、マリーナは犬の返還を求め続け、結果、なんと犬は戻ってくるのです。

なぜか?

こうして書いてみると、この映画って謎が多いなあ。

犬を返してくれることに至った経緯を説明してくれるシーンはありません。

でもね、まず、謎解きの鍵は“鍵”にあります。シャレじゃないです。

オルランドの持ち物の中に、番号の付いた小さな鍵がありました。大きさといい、番号が付いていることといい、一見してロッカーの鍵なのだろうとは思います。

しかし、どこのロッカーなのかは分かりません。

まあ、見るからに簡易な鍵ですし、とくに重要なものが入ったロッカーではないと思われます。でもマリーナはなんとなく気にしていました。

それが、ある日、あるサウナ店のロッカーの鍵と判明します。

思い返せば、映画の冒頭は、オルランドがサウナに入っているシーンでした。すべてのヒントは冒頭に詰まっていたのです。

マリーナは禁断の手(笑)を使い、サウナの男性用ゾーンへと入っていきます。そしてオルランドのロッカーを開けます。

ここで、また謎が出てきます。ロッカーの中は真っ暗闇として映されるのです。人によってはロッカーが空っぽだったと思う人もいるでしょうし、切符が入っていたのだと思う人もいるはずです。私は後者です。

切符というのは、これも冒頭、オルランドがマリーナへの誕生日プレゼントとして用意したものでした。

誕生日のプレゼントとして旅行の手配をしたオルランドは、誕生日祝いの席でそれを渡すはずでした。

しかし彼は切符の置き場所を思い出せません。この夜にオルランドの様態が急変したわけで、これは予兆だったのでしょうね。

で、まあ、オルランド自身が「サウナではあったのに」と言っていましたし、そのままサウナのロッカーに忘れてきたと考えるのが妥当かと。

旅行の話を聞かされた時点で、マリーナにはオルランドが本当に切符を買っていたのか分かりませんでした。

映画を見ている私たちは、サウナから戻ったオルランドが秘書に、白い大きな封筒を知らないかと訊ねていたことから、彼が切符を購入していたことは事実だろうと推測できます。

ただ、マリーナがロッカーの扉を開いたとき、中身を確認できたのは彼女だけで、一緒にロッカーを覗き込んだ私たちに真実は分かりません。

ですが、その後、マリーナがロッカーの鍵をオルランドの元妻、息子、オルランドの弟に叩きつけたこと、その後に犬が戻ってきたことを考えると、彼らもロッカーの中身を見て、そのおかげで犬が帰ってくることになったのだと私は思いました。

ロッカーの中身は推測するしかありませんが、2人分の切符以外にも、マリーナに対する気持ちを綴った手紙かカードがあったのかな、なんて思います。

手紙かカードから見えたものは、普通に恋愛しているだけの2人の姿だった。そのおかげで彼らの頭も少しは冷え、マリーナも傷ついていると理解できたのかなと。

もしくは、ただ、犬を処分するには忍びなくなって突き返してきた、というだけかもしれませんが。

どちらにしろ、すべては終わって、マリーナは次の一歩を踏み出しました。

謎が解明されなくても、マリーナが幸せそうなので、それでいいよな~と思うのでした。

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映画情報

製作年/2017年
製作国/チリ・ドイツ・スペイン・アメリカ
監 督/セバスティアン・レリオ
出 演/ダニエラ・ベガ

日本での公開は2018年です。

製作国に4つも国が並んでますけど、舞台はチリ、登場人物もチリの人々です。

映画の最後のほうで、マリーナが犬を連れ、ランニングをするシーンがあります。そのときに見下ろすサンティアゴの夜景は美しかったです。

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