大御所ウッディ・アレン監督の、2013年製作『ブルージャスミン』を視聴しました。
初めて見たのですが、見ていて、あれ? これ『欲望という名の電車』じゃない? と思ったのは、私だけではなかった。
公開当初から比較されていたようですね。
テネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』は、1947年にブロードウェイで初上演されました。
『欲望という名の電車』のヒロイン・ブランチは落ちぶれ、精神に異常をきたします。
そして『ブルージャスミン』のヒロイン・ジャスミンもまた、幸せとはほど遠い結末を迎えます。
40年代を生きたブランチにくらべ、21世紀に生きるジャスミンは、ずっと簡単に幸せを手にできそうな気がするんですけどねぇ。
さっそくネタバレしているような気がしますが、これから先もネタバレがあります。
お嫌な方はここまでにしてください。
なぜジャスミンが不幸になったのか知りたい方は、ご一緒に、現代版『欲望という名の電車』を考察いたしましょう。
悲惨な話ではありますが、なぜか重くない、ちょっとファニーな感覚の映画です。
ぜひ、最後までお付き合いください。
『ブルージャスミン』あらすじ
サンフランシスコの妹の元に身を寄せようとしているジャスミン。
それまでのジャスミンはニューヨークで、実業家の夫ハルとともに、セレブリティ生活を満喫していた。
夫も家も別荘も宝石も何もかも失くし、それどころか借金さえ背負ってしまったジャスミンは、精神的にも崩壊寸前。
妹のジンジャーは、そんな姉を自分の家に招き入れる。
しかし、妹の生活はジャスミンから見たら惨めそのもの。妹が貧乏なのはジャスミンのせいでもあるのに、見下すことがやめられない。
さらに、現実を直視することができず、大学に戻ると言ってみたり、インテリアコーディネーターを目指したり。
そんなある日、パーティーで、外交官のドワイトと知り合い、彼こそが自分を元の世界へ連れ戻してくれる相手だと確信。
ジャスミンは、夫ハルの職業も死因も自分の経歴も偽り、子供もいないと嘘をつき、ドワイトとの結婚へ突き進もうとする。
『ブルージャスミン』感想
ジャスミンの話をする前に、『欲望という名の電車』のブランチの話をさせてください。
ブランチはアメリカ南部の、農園育ちのお嬢様です。
時代のせいもあって農園を失い、家族も次々に亡くし、古い価値観を捨てることもできず、最終的には、庶民と結婚した妹のもとに身を寄せ、当然うまくいくはずもなく、精神科病院へ引き取られていきます。
ブランチの場合は、彼女自身の弱さもあったのですが、女性の生きづらい時代だったということもあります。
ひるがえって、ジャスミンです。
彼女もひどい目にあいます。セレブな実業家だった夫は、実は詐欺まがいのことばかりやっていて逮捕され、刑務所の中で自ら命を絶ちました。
セレブ生活も財産もなくし、息子は出て行き、借金は残り、プライドはズタズタ。
それでも、どんなにズダズタボロボロでも、プライドが捨てられないジャスミン。
最後には婚約寸前までいった外交官とも破局し、ジンジャーにも、彼女の家から出て行くと言ってしまう。
まあ、なんというか、ブランチと大差ない結果となってしまいます。
でも、ですよ。
現代に生きるジャスミンには、何度もやり直せるチャンスがあったと思います。
まずは、妹のジンジャーが受け入れてくれたことが、すごく幸せなことでした。
おかげでジャスミンはホームレスにならないですみました。
ジンジャーは、ジャスミンが自分を見下しているのも知っているし、ジャスミンの夫ハルからは、投資詐欺にもあっています。
それでも姉を受け入れます。
好きだから、家族だからと言いますが、お金がからむと、家族でも縁が切れるのが普通ですよ。
そして、ジンジャーの彼が、ジャスミンに男友達を紹介しようと連れてくるのですが、その男友達がジャスミンに仕事を紹介してくれます。
仕事は歯医者の受付です。いい仕事だと思いますが、もちろんジャスミンは気に入りません。
そこで我慢してやることができていたら、ジャスミンの未来は変わっていたでしょう。
また、インテリアコーディネーターを目指すのはいいのですが、いろんな意味で現実的ではありません。
いいんですよ、30代でも40代でも、新しいことを始めるのはね。
でも、インテリアコーディネーターを目指すのに、まずはパソコン教室に通うって、遠回りしすぎな気がします。
本気でやるなら、パソコンでもなんでもいいんですけどね。
ですが、結局、誰か助けてくれる男性を探しているのですよ。
しかも、ただの男性ではなく、富と権力と自分に対する無限の愛を持った王子様を待っているのです。
そのへん、良くいえば、ピュアな心を持ったままなんですよね。
えっと、夫のハルがなぜ逮捕されることになったかですが、これが、ジャスミンの通報からなんです。
夫の浮気を知り、なおかつ、浮気ではなく本気であり、夫が自分から離れていこうとしているのを知って逆上したのです。
正直、ジャスミンがもっと大人で、打算も働く人なら、がっつりハルから毟(むし)り取って別れればすんだ話です。
でも、単にお金の話だけじゃなかった。
誰がなんと言おうと、独りよがりであろうと、ジャスミンにとっては愛の問題だったわけです。
映画のラスト、ジャスミンは着の身着のままで、妹の家から出て行きます。
ベンチに腰掛け、独り言をつぶやくジャスミン。
完全にいっちゃってます。
なんというか、少女の価値観のまま大人になってしまった代償とでもいうんでしょうか。
結婚した相手が、まともな小金持ちくらいだったら、ジャスミンもここまで不幸にはならなかったのにな。運が悪かった。
映画はここで終わりますが、この後からでも、ジャスミンが考え方を変えられるなら、まだ間に合うと思います。
ブランチの時代と違い、女性への救いの手が多い現代です。
この後、ジャスミンが起死回生するお話を、ぜひ見てみたいなと思います。
映画情報
製作国/アメリカ合衆国
監 督/ウッディ・アレン
日本での初公開年は2014年です。
私はずっとウッディ・アレン監督と言ってきたのですが、本当はウディ・アレンが正しいそうです。
でも長年「ウッディ」と呼んできたので、もう今更変えられません(汗)
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